「平和百人一首」とこのシリーズについての解説は、初回記事と2回目の記事をご参照ください。前回記事はこちらで見られます。
なお、かなづかいや句読点は原文のままとするので、読みづらい点はご了承ください。
平和百人一首
兵となる事しあらねばすこやけく 吾子育てつつ安けし母は
川崎市古川町 黒澤 緑
母親として最も幸福なことは、子供が健康に成長してゆくことです。若竹のようにすくすくと育つてゆく子を見れば、どんな苦労も忘れて心たのしいものです。
軍国時代に真先に兵隊にとられて、砲火の洗礼を受けるのが健康に育つた男の子の必然の運命でございました。
二十年も「てしほ」にかけて育てた吾子が一片の赤紙と引換に、侵略戦に狩り出され、死ねば名誉の戦死とかいつて表面上は喜ばねばならない軍国の母の姿は、なんと痛ましくも哀れでございましたでしょう。
今や愛する祖国にも平和が訪れました。
戦争のない国家の明るき春の大地を踏みしめて、雄々しく育ちゆく吾子。
どんなに健康に成長しても砲火に身をさらすことのない吾子に、母の心は無限の安けさを感じ平和讃歌といたしたのであります。
(緑)