2.
ちょうどあずま屋があったので、休んでから残りを歩くことにした。化粧もせず、下着は片胸帯をつけているだけなので、見られた姿ではないだろうが、こんな所で知り合いに会うはずもない。そんなことを考えながらお茶を飲み、夫と会話を交わしていると、先客の中年の女性が席を立った。邪魔してしまったかなと思いつつのんびりお菓子をつまんでいると、どこからか視線を感じた。振り返ると、先ほどの女性が立ち去らずに、少し離れた所から私たちを見ているようだった。景色を見ているそぶりをしながらも、確かに私たちを見ていると思った。私は一瞬自分の胸を確認した。不自然な胸を見られているのではないかと思ったのだ。
彼女の視線の謎が解けないまま、少し時間が過ぎた。すると、その女性が近づいてきて、おずおずと「K畑さん?」と夫に声をかけるではないか…。振り向いた夫は、「えっ! Oさん…?」 彼女は夫の会社の同僚だったのだ。彼女が見ていたのは私の胸ではなく、夫、あるいは私たち夫婦の様子だったようだ。
ここは近くに住んでいる彼女の散歩コースとのこと。よりによって、こんなときに知り合いに会ってしまうとは…。私は胸が気になるので、腕組みをしてさりげなく隠しながら、しばらく3人で話した。彼女には8年前に出版した拙著に感想を寄せてもらったことがあるので、会って直接お礼を言えたことは嬉しかった。こんなときでなければ、もっとよかっただろうけれど…。
結局その日は写真を撮りながら3時間も歩いてしまった。後にこのことを親友のCさんに話したら、「あなた、何考えてんの~? 退院した翌日に花見に行くなんて~!」と揶揄を込めて言われた。「それくらい元気でよかったわね」という言葉の代わりだったのだろう。でも実際は、それくらいの元気があったからではなく、元気がなかったからこそ、自然の中に身を置き、花に癒してもらう必要があったのだ。そうせざるを得なかったのだと思う。それほど、私の心は空っぽで、乾いていた。
ドライブから帰宅すると、母校の高校の先輩たちから、お見舞いの立派なフラワーアレンジが届いていた。3月まで同窓会の仕事を一緒にしていた先輩たちからだった。乾いた心に温かいものが染み入るようで、少し元気が出た。役立たずの若輩者の私にこんなにしてくださり、みなさん、ありがとうございました…。
ちょうどあずま屋があったので、休んでから残りを歩くことにした。化粧もせず、下着は片胸帯をつけているだけなので、見られた姿ではないだろうが、こんな所で知り合いに会うはずもない。そんなことを考えながらお茶を飲み、夫と会話を交わしていると、先客の中年の女性が席を立った。邪魔してしまったかなと思いつつのんびりお菓子をつまんでいると、どこからか視線を感じた。振り返ると、先ほどの女性が立ち去らずに、少し離れた所から私たちを見ているようだった。景色を見ているそぶりをしながらも、確かに私たちを見ていると思った。私は一瞬自分の胸を確認した。不自然な胸を見られているのではないかと思ったのだ。
彼女の視線の謎が解けないまま、少し時間が過ぎた。すると、その女性が近づいてきて、おずおずと「K畑さん?」と夫に声をかけるではないか…。振り向いた夫は、「えっ! Oさん…?」 彼女は夫の会社の同僚だったのだ。彼女が見ていたのは私の胸ではなく、夫、あるいは私たち夫婦の様子だったようだ。
ここは近くに住んでいる彼女の散歩コースとのこと。よりによって、こんなときに知り合いに会ってしまうとは…。私は胸が気になるので、腕組みをしてさりげなく隠しながら、しばらく3人で話した。彼女には8年前に出版した拙著に感想を寄せてもらったことがあるので、会って直接お礼を言えたことは嬉しかった。こんなときでなければ、もっとよかっただろうけれど…。
結局その日は写真を撮りながら3時間も歩いてしまった。後にこのことを親友のCさんに話したら、「あなた、何考えてんの~? 退院した翌日に花見に行くなんて~!」と揶揄を込めて言われた。「それくらい元気でよかったわね」という言葉の代わりだったのだろう。でも実際は、それくらいの元気があったからではなく、元気がなかったからこそ、自然の中に身を置き、花に癒してもらう必要があったのだ。そうせざるを得なかったのだと思う。それほど、私の心は空っぽで、乾いていた。
ドライブから帰宅すると、母校の高校の先輩たちから、お見舞いの立派なフラワーアレンジが届いていた。3月まで同窓会の仕事を一緒にしていた先輩たちからだった。乾いた心に温かいものが染み入るようで、少し元気が出た。役立たずの若輩者の私にこんなにしてくださり、みなさん、ありがとうございました…。