「いやいやいや、、こりゃぁ、まいったね。」
その晩、玄関を開けると立っていたのはサンタクロースだった。
「まいったって、あなたはサンタクロースさんですよね?」
サンタクロースは、何を聞くのだと言う顔で言った。
「そうぢゃ、間違いなくわしはサンタクロースぢゃ」
「なんでサンタさんが今頃、僕の家にいらっしゃるのですか。今日は12月も30日ですよ。クリスマスはとうに終わっちゃてるじゃないですか。」
サンタは困った顔で答える。
「そこぢゃ!そこにこそ、わしの苦悩があるわけなのぢゃ。人生は苦悩の連続ぢゃな。」
サンタは白い髭をもじゃもじゃしながらつづける。
「ま、わしゃ、血筋が悪いというのか、身から出たサビというのか‥。おまえも知っておろう?"あわてんぼうのサンタクロース"という歌を。」
僕は軽くうなづく。
「そうか、有名な曲ぢゃからな。あの歌に歌われたサンタクロースこそ、わしの親父なんぢゃ。親父は勘違いをしてクリスマスより早く地球に来てしまったのだな。ま、あの時はとりあえず踊ってごまかして、また来るからとか言ってその場をとりつくろったのぢゃが。寝坊をしちまったワシはそうはいかん。なにせ今日は今年もあと一日しかない、という日ぢゃないか。いやぁ、まいったまいった。まいりすぎて笑っちゃうよな、ぐふふ。」
このサンタ、相当の楽天家のようだ。
僕は、気の毒なサンタさんを慰めようと思って、言う。
「サンタさん、だいじょーぶですよ。ほら、この僕は一人っきりのクリスマスを過ごしたんで、サンタさんが来ることも無く、もちろんプレゼントなんかもらっていないから、今、それをもらえるんなら、とっても幸せになるし、サンタさんもお仕事がちゃんとできるじゃないですか。」
サンタさんは顔をぱっと明るくして答える。
「おぉ、そうぢゃな。おまえはなかなか優しい心持ちの男ぢゃな。」
「そんなこともあろうと、ちゃんとプレゼントを持ってきたぞよ。」
僕は嬉しくなって言う。
「プレゼント!こんな僕にもサンタさんからプレゼントがもらえるんだ。なんですか?僕へのプレゼントって。」
「サンタさんは振り返って背中を見せて肩越しに振り返り、微笑みながら言う。」
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「これぢゃ、そう。掃除機じゃ!」
僕は、三歩ほど、ドン引きする。サンタさんはニコニコしながら続ける。
「な~にをびっくりしておる?掃除機ぢゃぞ。いまおぬしに一番必要なのは掃除機ぢゃろぅ?もう明日は大晦日ぢや。新年は身体も家もきれいにして迎えんでどうする?したがって、掃除機を持参したということぢゃ。」
「でも、掃除なんて、めんどくさいし。別に部屋が汚くても新年を迎えることが出来るし。」
「な~~~~にを言っとるんぢゃ。そんなことぢゃからその歳になっても嫁の一人も来んのぢゃ。」
サンタさんは赤ら顔をさらに赤くして僕を叱責する。
「いや、嫁は一人で十分なんですけど。」と胸の中でつぶやく僕。
「しかたがない。わしがこの掃除機を使って、掃除の極意をおまえに伝えるとしよう。どうせ、これからサンタ村に帰っても、サンタの連中はクリスマスの配達疲れで、酒をかっ喰らって寝込んでるだけぢゃろうからな。さ、一眠りしたら明日は徹底的にこの部屋を掃除するぞ。ささ、もう、風呂入って寝れ。」
そんなわけで、その年の大晦日、僕はサンタさんと一緒に大掃除をして、晩御飯にはケンタのフライドチキンを食べ、紅白歌合戦を一緒に見ながら新年を迎えたのでした。
掃除機があろうがなかろうが、大掃除だけは、してくださいね。
merry christmas!
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