JINX 猫強

 オリジナルとかパロ小説とかをやっている猫好きパワーストーン好きのブログです。
 猫小説とか色々書いています。
 

転生したら飼い猫だった件 (いい人キャンペーン、終了のお知らせ)

2023-02-12 00:33:07 | 

 我はお気に入りの座布団の上で日向ぼっこに勤しんでいた。

 避妊からのエリザベスカラー、そして術衣と、我の拘束するものを解かれ数日、いやぁーさっぱり。

 グルーミングも仕放題。

 我、幸せだもんね。

 何より、訳もなく虐められないのがいい。

 我の前世は、それは悲惨であった。

 公園で厳しくも自由な日々を過ごしていた我は、邪な人間に囚われ、虐待に次ぐ虐待を受け、己の腐臭を嗅ぎながら悶死(もんし)するという凄惨なものであった。

 が、今は生まれ変わり、飼い猫をしておる。

 今の飼い主は、我を虐めたりはせん。

 何の要求をせずとも、我の食事や水を用意し、身の回りのことも整える。

 そして、我が1声鳴こうものならどこにいようとも我の様子を伺い、我を撫で、肩甲骨をモミモミし、おやつをくれる。

 もしかして、我は神ーー。

 そして、この人間は信者かーー。

 そうか、今日から我はそなたを下僕と認めてやるぞ。

 だが、厄介なこともある。

 下僕は我が呼ばずとも、我のところにやって来ることがある。そして、我の頭や身体を無遠慮に撫でたり、抱き上げたり、怪しげな”おもちゃ”とやらで気を引き、我を夢中にさせることじゃ。

 我は猫なり。

 下僕の思い通りにはならん。

 下僕は下僕らしく我に従っておればよいのじゃッ!

 我は癇に障るおもちゃを薙ぎ払った。

「痛ッ!」

 不意の声に、我は動きを止め、下僕を見た。

 手の甲から血を流し、眉を顰(ひそ)めている下僕の姿に、我は硬直した。

 それまで仔猫の我が爪を立てたり、咬み付いても人間が血を流すことはなかったーー。

 そうじゃ、人間は、自分が傷つけられると、小さな我らを殴りつけ、壁に叩きつけたり、爪を引き抜いたりする、恐ろしい生き物であった。

 我は、そのことを忘れておった。

 前世の記憶を蘇らせた我は、身動きもできぬまま固く瞼(まぶた)を固く閉じ、どのような衝撃にも耐えれるよう、心中だけで身構えた。

「もう、痛いなぁ、ミケちゃん」

 じゃが、人間は我の頭を指で突いただけであった。

 ん?

 それだけ?

 それでいいのか、人間…いや、下僕よ。

 そうか、そーか。

 うぬは我の可愛さの虜であるのだな。

 フフ…。

 撫でるがよい、我を崇めるが良い。

 我はウヌの神なのだからな。

 良いよい、撫でるが良いぞ、今日は少し多めに撫でさせてやるぞ…。

 うーん。

 気分が良いぞ。

 下僕はゴットハンドを持っておるな。

 撫でるところ撫でるところが気持ちが良くてたまらぬ。

 あぁーー。

 眠い、このまま夢の中に入るとするか。

 幸せだー。

 これが、飼い猫の日常であるか…。

 

■ ■ ■

 

ーーパチンッ!

 ん?

ーーパチン! パチン!

 指先に走る衝撃に、我は覚醒した。

 だが、我が状況を確認しようと体制を整えようとしている今、このときもーー。

ーーパチン! パチン! と、危険を孕(はら)んだ音は続いておる。

ーーこれは、この音は…。

 爪切りッ!

 我は前世の記憶を思い出し、全身を跳ね上げさせた。

 だが、我の小さな身体は固定され、身動きを取ることが出来ん。

ーーそう、あの時と同じように…。

 前世で、我はあまりの虐待に耐えかね、我の身体にタバコの火を押し付ける人間の腕を薙ぎ払った事があった。

 さっきのような戯(たわむ)れではなく、本気での薙ぎ払いに、人間は腕から激しく出血させ、我は首を捕まれ床に叩きつけられた。

 我は痛みと衝撃に意識が混濁(こんだく)し、動くことができなんだ。

 その我を押さえつけ、人間は我の爪を根本から剥がしにかかりおった。

 あまりの痛みに我は抵抗し、更に殴りつけられ、床に叩きつけられ、動きが弱くなったところを、人間は押さえつけ、我の脚の爪すべてをーーッ!

 恐ろしかったぞ、苦痛であったぞ、まさかその苦痛を、転生してからも体験することになろうとは…。

 なんと、なんと人間とは恐ろしい生き物か…。

 仔猫の我の抵抗は、タオル1枚で封じられ、我のキュートな爪は次々とーーッ!

ーー終わった。

 我の優雅な飼い猫生活がーー。

 人間は我に忠実なふりをして、痛めつける機会を狙っておったのか…。

 あのような優しさで我を包み込み、油断させ、このような暴挙に及ぶとは…。

ーー許さぬぞ、人間、必ずこの爪と、我の心を弄んだ敵は撃ってくれようぞッ!

 

 我は開放され、しばらくは放心しておった。

 もう、先程のように歩くことも、走ることもできぬーー。

 我は、もう、動けぬーー。

「さぁ、ミケちゃん終わったよ、お利口だったね」

 明るい声に我は自身を取り戻した。

ーーお利口だっただと? 我を押さえつけておいて、うぬがッ!

 シャーと、我は肚(はら)を立て、人間めを威嚇した。

「ほら、ミケちゃんお爪が伸びちゃったでしょ? 切らないと、お爪が可愛い肉球に食い込んじゃうんだよ」

 早口でまくし立てるでないわ。我には人間語は少ししか解らん。

 じゃが、忘れるぞ、この所業を。

 必ず報復してくれる、まずは安全な場所に身を隠さねばーー。

ーーん?

 歩いておる。

 なんで、我歩けるの?

 我は抉られたはずの爪を見た。

 爪は抉られてはいなかった。

 その代わり、グルーミングの最中、舌に引っかかる前端がわずかに切られておった。

ーーん?

 何故か先程より、こころなしか歩きやすいような気がする。

「痛かったね、びっくりしたね、ごめんね。でも、これまでミケちゃん小さかったし、弱っていたし、避妊したあとでお爪切りはしなかったんだけど、これからはどんどんやっていくんでよろしくねッ、いい人キャンペーンは終了しましたーッ」

 人間は我の爪を切った掌を掴み、呪文を唱えながら肉球をもみもみし始めた。

「ミケちゃん、お爪は短くなったから”当分”切らなくていいね」

 人間は紙の上に散った我の爪をまとめながら口を開いた。

ーー当分とな? それでは、また我の爪を切るというのか?

ーー油断がならん。

ーー人間は油断ならん。

 我は人間の傍らに寄った。二度と爪を切ることは許さぬと、抗議するつもりであった。

「うーん、ミケちゃん可愛いね」

 下僕に戻った人間は再び我の頬を指で撫でた。

「あとで、ご飯をあげようね」

 下僕は我の頭を撫で続けた。

ーー終わったのであるか? もう、酷いことはせんのか?

 我、また眠ってよいの?

 虐めはせぬのか?

 これ、人間………。

 人間はいつしか、台所に籠もってしまった。

 自分の食事の支度や、明日の準備に入ったらしい。

 本当に、もう何もされんの?

 人間、これ、下僕よ?

 我が呼ぶと下僕がおやつを手に持ってきた。

「お腹空いちゃったね、ほら、おやつ」

 下僕めは本日、2本目のチュールを我に差し出しおった。

 これ、我のなの?

 我は鼻先に差し出されたチュールと下僕とを見比べた。

 人間は、完全に我の下僕に戻っておった。

 我はチュールを食した。

 そうか、あの爪切りは”虐待”ではなく”お手入れ”というものであったかーー。

 そうか、そうか…。

 我、安心したもんね。

 なんだか眠たくなってきたぞ。

 もう、我は虐められないんだもんね。

 我、ここで寝てもいいんだもんね。

 我、幸せになっていいんだもんね。

 

 色々思い悩み疲れてしまった我は下僕の傍らで眠ってしまい、その身体を下僕めが我の寝床に運んでくれたのにも気づかないぐらい熟睡しておった。

 

END

 

 最初にアップしたのを手直しし直しました。

 なんの告知もしていなかったのに読んで下さった方々、ありがとうございます。

 これからもゆるく投稿していきますので、よろしくおねがいします。

 あと、ご意見、リクエストなどお待ちしております。

 本当にありがとうございます。


転生したら飼い猫だった件 (転生編)2

2022-12-17 01:08:08 | 

ーーな、何ということだ、我が仔猫になっておる。

ーーど、どういうことじゃッ

ーーなどと、慌てているすきに我は箱の中に…。

ーー出せ、出さぬかッ!

ーー我をどうする気ぞッ!

ーー嗚呼、箱が揺れておる。

ーーなんぞ、何をする気じゃッ!

ーー箱の動きが止まった、今じゃ。

ーーだが、登れんッ。

ーー少し前までは、こんな高さは一飛びであったのに…。

ーー爪も立たん、嗚呼…仔猫になってしまったからか…。

ーーだが、何故じゃ。

ーー何故、こんな姿に…。

ーーまた、箱が動き出しおった。

ーー我はどこかに運ばれておる。また、あの地獄が始まるのか…。

ーーやっと、開放されたと思うたのに…。

ーー我は震えた。

ーーまた、あの飢餓・苦痛・恐怖…。

ーー我は耐えられぬ、また、あの…。

ーー我は恐慌に全身を包まれ暴れ、鳴き叫んだ…。

ーー箱の揺れが止み、置かれたのが気配で解った。

ーーいよいよ始まるのか、あの地獄が…。

ーー箱が開かれた。

ーー?

ーーそこは我が思っている場所とは違ごうた。

ーー我がさっきまでいた部屋は暗く、乱雑で、匂いも酷い場所であったが…。

ーーここは違う、明るくて、酷い匂いもない。

「猫ちゃん、今日からここがあなたのお家だよ」

ーーあの”飼い主”とやら呼ばれていた女が我に呼びかけおった。

ーー家などどうでも良い。早う我を放たぬか。

ーー人間の姿など見とうもないわ。

ーー我はあの公園で、また自由気ままに暮らすのだ。

「はい、猫ちゃん、ごはん」

ーー暴れる我を僅かな時間放置しておった女が、何やら我の前に差し出しおった。

ーー途端、我は身をすくませた。

ーーまた、打(ぶ)たれるのだと思うた。

ーーだが、目の前に置かれたのは皿で、中には香りの良いものが置かれておった。

ーーこれは…。

ーー我は知っておるぞ。これは猫缶というものぞ。

ーーこれを、食してよいのか?

ーー我が?

ーーいやいや、我は人間など信じてはおらん。

ーーどうせ、我が口にしようとした瞬間に、皿を遠ざけるに決まっておる。

ーーえ?

ーー食してよいの?

ーー我は我の様子を伺う女を見上げた。

ーー女には皿を取り上げる気配がない。

ーー本当に、食して良いのか?

ーーいやいや、それなら、なにか良からぬものが入っているとか…。

ーー前は猫缶の中に辛い刺激物を入れられ大変な目に遭ったのぞ。あの人間はそれを見て、さらに四角い物体を我にかざし、笑っておったわ。

ーー我は、あの顔は忘れはせぬ。

ーーあの苦痛も、屈辱も忘れはせぬ。

ーーだが、辛いところを除ければ食べれんこともないかも知れん。

ーー我は、空腹に負けてしもうた。

ーー!

ーーうまいッ。

ーーなんじゃ、この食べ物は。

ーーさっきのものも美味であったが、コレはコレで…。

ーー我は一時ではあるが警戒心を忘れ、ただ、ひたすら目の前の食事を平らげた。

ーーうまい、本当にうまい、身に染みる。

ーー我は、これだけで、仔猫にされたことを忘れた。

「水も置くね」

ーー不意にかけられた声と、目の前にもう一つの皿を置かれた気配に、我は飛び退いた。

ーー途端に箱に身体が当たり、目の前の食事と、新たに置かれた皿を倒してしもうた。

ーー痛恨なり…。

ーーあの男は汚い部屋に住んでいながら我が物を倒したりすると、我を頭上まで持ち上げ、そのまま床に叩きつけ、蹴り、隅に逃げた我を引きずり出し、何度も壁に叩きつけおった。

「ごめん、ごめん、猫ちゃん、驚いたね」

ーー女は我の身体を掴むと箱から取り出し…。

ーーそっと、傍らに置くと、箱の中の物を取り出し、汚れたシーツを外し、ついでとばかりに箱の中に何かを入れたり出したりしはじめおった。

ーーあの…。

ーー何もせぬのか?

ーーそうだ、逃げよう。

ーー今なら女の気は箱の中に逸れておる。

ーー今のうちに逃げ出し、あの自由な公園へ…。

「あッ、逃げちゃダーメ」

ーー声を発した女に我は掴まれ…。

ーー床に叩きつけられるッ、それとも壁かッ!

ーーと、思うたときにはまた元の箱の中にそっと置かれ…。

「お水もどーぞ」

ーーあの…箱に戻しただけ?

ーーな、なにもせぬのか?

ーー本当に?

ーーでは、もう少し食すとするか…水も、少し…。

ーープハ。

ーーうまかった。ここの水も透明で、うまかった…。

ーー我は満足じゃ。

「それじゃぁ、失礼して」

ーー美味な食事と、透明な水で満足をした我の身体を女が掴み上げた。

ーーな、何をするのじゃッ!

ーーやはり、やはり、図っておったかッ!

ーーおのれ、人間ッ!

ーー許さぬぞッ、人間めッ!

ーーお、これ…な、何をしておる。

ーーそんな、温かいティッシュで、我の大切な場所を刺激するでないわ。

ーーこれは、もしや…、しゅ、羞恥プレイか。

ーー我の、猫族の自尊心をなんだと思うておるッ。

ーーやめろ、やめんかッ! さもないと…。

 チー。

ーーあ、我としたことが、とんだ粗相(そそう)を…。

「上手にデキたね、偉い、偉い」

ーー女は我の身体を箱にそっと戻し、我の粗相を吸収したテッシュを箱の中に設置された更に小さな箱の中に置くと…。

「ここがトイレだよ、ほら…」

ーー女は我の身体を再び掴み上げると、小さな箱の中にそっと下ろした。

ーーこれは…砂か…。

ーー公園のものとは違うが…。

 掻(か)いてみる。

 ザッシュ、ザッシュ…。

ーーウホ、楽しい。

ーー公園時代を思い出す。

「猫ちゃーん、寝るのはこっちね」

ーー砂を掘りまくる我を、女が掴み上げた。

ーー何をするのだ、我は、もっと砂で遊ぶのだ、砂の上の方が落ち着くのだ。

ーー再び砂の入った箱に登ろうとする我を、女が押し留めた。

ーー何をするのだ、人間、我はこっちのほうが好きなのだ…。

ーーだが、はたと我は我に帰った。

ーー人間に逆らえば、また虐待される、ということを思い出したからじゃ。

ーー我は一瞬で身を強張らせた。

ーーその身を女が掴み上げ、さっきはなかった柔らかなタオルの上に我を乗せた。

「寝るのはこっち、ご飯とお水はこっちで、チッチはこっち」

ーー女は、我の身体をいちいち対象物に向けながら、我に声をかけ…。

ーーそれから、我の身体をタオルの上に置き、そっと上からまたタオルをかけた。

「猫ちゃんは元気だねー」

ーー女は我に語りかけた、静かな、低い声でゆっくりと。

ーーあの人間のように一方的で、攻撃的ではなく、ゆっくりと、まるで我に語りかけているかのように…。

「猫ちゃんはね、お母さんとはぐれちゃったみたいで、その後、探し回っているときにカラスに狙われて怪我をしちゃったんだって、他にも、身体は衰弱しているし、ノミとかもいたから治療をしてもらったんだよ。怖かったね、大変だったね」

ーー何を言う、我をこのような身体にしたのは人間ぞ。

ーーあの人間が、我の身体を切り刻み、我にありとあらゆる暴力を加え、我をーー我をーー。

「可愛そうだったね」

ーー不意に、女が我の頭を指で撫でた。

ーーそのあまりの自然さに、我は躱(かわ)すのも攻撃することも忘れた。

「もう大丈夫だからね、私と一緒に暮らそうね」

ーー一緒に暮らす? 冗談ではない、二度と人間などと暮らすものか、我はあの公園へ帰るだ。

「そうだ、猫ちゃんの名前を決めないとね」

ーー女が我の頭を指で撫でながら口を開いた。

ーー名などいらん、もう、もう二度と人間になんぞ関わるなどごめんじゃ。

 我は女の手から逃げ回った。

 だが、女の掌(てのひら)は我の動きを読むように、我の頭をなで上げる。

「猫ちゃんは三毛猫だから、ミケでいいね」

 女は優しく我の頭を撫でおった。

 


転生したら飼い猫だった件 転生編

2022-12-14 00:08:29 | 

ーー痛い…。

ーー苦しい…。

ーー寒い…。

ーー許さぬ、許さぬぞ…人間め…。

ーー嗚呼(ああ)…もう…どれほど飯を食っておらんのか…。

ーー嗚呼、痛い、苦しぃ…そして…。

ーー恨めしい。

ーー我は信じたのだ。

ーーあの、伝説を…。

 

 我の住む公園という場所には野良猫と呼ばれる同胞がたくさんおった。

 我々だけではない、鳥や、虫や、様々な生き物がそれぞれに生活をしておった。

 我らはいつも空腹で、食べるものを探し、己の縄張りを死守することのみが生活であった。

 だが、そんな我々を助けてくれる人間がおった。

 その人間たちはよく我らに食事を与えてくれた。

 我々のいる公園にはたくさんの同胞がいる故に、毎日が満たされる訳ではなかったが、うまい食事が得られることはこの厳しい世界での唯一の救いと安らぎであった。

 そんな中、我々の仲間がその人間に連れ去られる事もあった。

 何でも地域猫活動、とかで我らを捕獲し、避妊手術をし、許の場所に放つーー。

 という活動らしい。

 我らの許に戻ってきた同胞の話では、ちと狭いがそこでは食事も水もふんだんに与えられ、温かい寝床も与えられ、そして腹にちと痛みは走るが、なんの問題もなく生活を送ることができる、との話であった。

 だが、中には戻ってこない同胞もおった。

 ある日、一匹の同胞がやってきた。

 だが、其奴(そやつ)は見違えるほど毛並みが整い、眸や爪の色艶も良くなっておった。

 動きも軽やかで、何でも名をもらい、飼い猫になった、という話であった。

 飼い猫とは、人間と一緒に暮らすこと。

 好きなときに食事と水を与えられ、心地よい寝床が用意され、ときに人間に遊んでもらうーーという何不自由のない生活を送っている、とのことであった。

 我は憧れた。

 その飼い猫生活に。

 我は信じた、人間に連れ去られ、この場に戻らぬ同胞は何不自由のない飼い猫になったのだと。

 人間には我らに興味のない者。

 興味があり、我らの幸せを願いながら、我らの生活の手助けをしてくれる者ーーコレが地域猫活動とかいうものらしい…。

 そして、一緒に暮らすと決めた我らに食事と寝床を供し、責任を全うする者。

 我は憧れたのだーー。

 いつも、食事を運んでくれる人間…。

 たまに頭や身体を撫で、我の身体を抱き上げ、その腕に包んでくれる人間。

 もっと触って欲しかった。

 もっと、その腕に包んで欲しかった。

 だから、その伝説級の「飼い猫」という存在に憧れたのだ…。

 飼い猫になれば、もう飢えることも、熱暑に喘ぐこと、極寒に凍えることもないと、そう思うておった。

 だから、ワシはその籠に入った。

 だが、我は知らなんだ。

 人間には我が思いも及ばん人種ががおったことをーー。

 公園には我らを邪険にし、時には物をぶつける不届き者も確かにおったし、たちの悪いいたずらをする者がいたことも事実じゃ。

 だがーー。

 我を捕まえ、このような暴虐を加える種類の人間がおったとは…。

 

ーー無念じゃ…。

ーー我はこの密室で、あらゆる暴虐を受けた。

ーー身体は血まみれぞ。

ーー籠ごと水につけられ、身体は冷え切ておる。

ーーもう、回復する気力も体力も残ってはおらん…。

ーーおのれ、人間…。

ーー必ず、この恨み晴らさず置くものか。

ーーいつか再び見(まみ)えたときには、我は必ずこの恨みを晴らす。

ーー今はもう、剥ぎ取られてないが、必ずこの爪でうぬの身体を引き裂き、この牙を打ち立て、引き千切り、必ず、必ずこの恨み晴らさず置くものか…。

ーーおのれ、人間…。

ーー呪って、祟って、必ず目にもの見せてくれるわ…。

ーーあぁ、もう目が見えん。

ーーあぁ、我は…われ、は…。

………。

 

■ ■ ■

 

ーー光り輝く場所、幸福感が我を包んでおる。

ーーなんじゃ、目の前に光輝くものが浮いておる…。

ーー猫さん、お疲れさまでした。お辛い目に遭われましたね…。

ーー誰じゃ、そなたは? 「お辛い」じゃと? そんな生ぬるいものではないわ。嗚呼あれ程の痛み飢餓感がない、そうか我は死んだのか?

ーーよかった、もうあの苦痛を味合わなくてすむ。

ーー嗚呼、本当に良かった…。

ーー猫さん、あなたはこのまま逝かれて良いのですか?

ーー誰じゃ、そなたはさっきから。

ーー我はこの世にはうんざりじゃ、この世には恐怖と苦痛と屈辱と空腹しかなかったわ。嗚呼ーー思い残すのはあの人間…あの人間を八つ裂きにしてやらなんだことは残念じゃが、致し方がない、我はもうあのような苦痛も恐怖も味わいたくはないわ。

ーー嗚呼、人間とは本当に恐ろしい生き物ぞ。思い出すだけで全身が総毛立つわ。

ーーあなたはそのままでいいのですか?

ーーなんじゃ、お前はキラキラしおってからに…察するにお前さんは我の導き手であろう?

ーーそうです、ですがあなたは本当はーー。

ーー本当は何じゃ、おぉ、お主、姿が消えかけておるぞ、我は、我はどうなるのじゃ?

ーーあぁ、行くでない。そなたに行かれてしまったら我は、我は…。

 

■ ■ ■

 

ーーちゃーんーー。

 ?

ーー猫ちゃん。

ーー誰だ、我を呼ぶものは…。

ーーちゃん。

ーーあぁ、全身が痛い、苦しい…だが、温かい…。

ーー猫、ちゃん…。

ーーえぇぃ、猫ちゃん猫ちゃんうるさいわッ、第一、それは我に対する呼びかけなのか……?

ーー猫ちゃん、頑張って…。

ーー嗚呼うるさいわッ。我にはもう考える力もないわ…。

 

■ ■ ■

 

ーーうん? 明るい…ここはどこぞ?

「あぁ、気がついた」

ーーなんじゃ、うぬは見かけぬ姿ぞ…ん、身体が動かぬ…。

「もう大丈夫、猫ちゃん今日はここでゆっくりしようね」

ーーなんじゃ、気安く我に触るでない、人間風情がッ。聞いておらぬのか? 持ち上げるでない、無礼者がッ!

「猫ちゃん、明日には飼い主さんが迎えに来るからね、もう大丈夫…」

ーー何が大丈夫であるものか、全身は痛いし、声も出ぬし、身体も思うように動かせん。あぁ、眠い、何だこの暖かさは…瞼(まぶた)を開いておれん…。

 

ーー騒がしい、どこだここは…。

ーー同胞の匂いがする…犬や他の動物、そして人間の匂いがプンプンするぞ。

ーーどこなのだ、ここは…。

ーーぬ?

ーー目の前にあるコレは食事と水ではないか…。

ーー我のか? 我が食してよいのか。

 左右を見回し。

ーーうむ、我しかおらぬし、我が食べてもいいよね。

ーー我のだよね。

ーーあとから来ても知らないもんね。

ーーだって、この狭い場所には我しかおらんもんね。

 一口ぱく。

ーーうまいッ!

ーー嗚呼、何という…この柔らかさ、こんなうまい食べ物は食べたことがないわッ。

ーー我、食べちゃうもんね。

ーー全部我のだからね、コレで何日生き延びられるか…。

ーーあぁ、うまいッ! 水も飲んじゃうもんね、綺麗で澄んだ水なんて、何年か振りかだもんね。

「ご飯美味しい? 猫ちゃん」

 !

ーーいつの間にか人間がおる…あの人間ではないが…。

ーーなんじゃ、まだ我を虐め足りんのか?

ーー今度は何をするつもりじゃ、足を切るのか、それとも残ったこの片眼かッ!

ーー許さぬ、許さぬぞ、人間ッ!

「フーフー言ってますよ先生、元気になって良かったですね」

「本当に良かった、連れてこられたときは心拍が弱くて、正直間に合わないかと思ったけど、良かった」

ーーあぁ、もう一人人間が近づいてきたッ。

ーーこちらを見るでないわッ、この場から去らぬとこの爪でッ!

ーー爪で…っていうかなんであんの? あのときに引き抜かれてしまったはずなのに…そしてーー。

ーー小っさッ!

ーー我の手小っさッ爪小っさッ!

ーー縮んだ、我の手縮んだ…?

ーーっていうよりコレって仔猫の手だよね。

ーー何だコレ…?

ーー我は栄養失調と虐待で、精神がおかしくなってしまったのか…。

ーーこの珍妙な現象は何なのだ…。

「ちょうどよかった、飼い主さんが迎えに来たよ」

ーー来たって、飼い主とはあの男か…?

ーー己ーー許さんぞッ! 

ーーこら、我に触るでない、我はここを気に入っておるのだッ

ーー嗚呼ーー我を掴むでないわッ!

 !

ーー掴む?

ーー我、そんなに小さかったか…?

 呆然…。

「おまたせしました、飼い主さん…猫ちゃん元気になりましたよ」

ーー飼い主…誰ぞこの女は?

ーー何じゃ、何を話しておるのじゃ、そんな早口で、連続して話すでない。い、意味が解らん。

ーー何じゃ、その箱は。

ーー我を、我を閉じ込めるのか。

ーーその箱を振るのか、それとも水に落とし込むのか、おのれーー許さぬぞッ!

ーー今は我も自由の身、そんな箱に押し込められる前におのれの皮膚をこの鋭い爪で…。

ーーってか小っさッ! ないはずの爪が小ッさッ!

ーーは? なにこの現象?

ーーは?

ーー我、首を摘まれておる…? 我は痩せておるとはいえ成猫ぞ。

ーーガラスになにか映っておる。

ーーそれは先生と呼ばれ、我をこの面会室とやらに連れてきた男と、看護師と呼ばれる女、そして仔猫の首を摘み、反対の掌(てのひら)でその身体を包んでいる女ーー。

ーーその掌の中にいる仔猫とは…。

ーーいやいや、そんな訳はない。

 我は首を左右に振った。

 そして見た、女の掌の中の仔猫も首を左右に振ったのをーーッ!

 

■ ■ ■

 


今日は雨

2018-01-18 05:51:00 | 
 あたい、ウニ。

 ママったら、いつまでたっても書き込まないから注意をしたら「うにちゃん、お願い」ですって。」
 でも、オヤツをくれたからたまには頑張んてあげようかしら。



 あたいと、お馬さんと、そしてごはんを食べるお兄ちゃん。

 まぁ、今年もこんな感じかしら――。

いつも、ありがとうございます

2016-08-05 01:07:00 | 
 毎日、暑いですね。

 更新をする、したいと言いながら、全然更新も滞って――。

 それでも拍手をしてくださる方――感謝です。




 引っ越しをしたり、仕事が変わったりで、全くパソコンにさわれない日もあるのですが、ものすごく勇気をもらています。

 本当にありがとう。

 皆さんにいいことがありますように。

 明日から(もう、今日ですが)気温がぐんと上がるようなので、みなさん、外出の際は気をつけて、お家にいても油断は大敵だそうです。

 水分と、塩分、ミネラル補給をして、この夏も乗り切りましょうね。