「いや、この猫が勝手に…」
一輝は懸命に身体を舐めている猫を、視線で指した。
「どこの世界に、自分からビールを被る猫がいる?」
氷河が冷たい眼差しを、一輝にむけた。
「17階のベランダに、忽然と猫が現れた、などと口にする輩に言われたくないわッ」
「本当にいたんだッ」
氷河はビールの滴る猫を抱き上げた。
「あッ、オレのビールが…」
猫から滴るビールと、倒れた缶を、一輝は見比べた。
「オレのビールではない、来客用に、オレが買い置きをしてあるビールだ」
氷河は一輝に背を向けた。
「キサマッ、どこへ行く」
猫を抱いたままリビングを出て行こうとする氷河に声を掛けた。
「風呂だ、濡れたままでは可哀想だろう」
「そうかな」
風呂と聞いて、身体の舐め方に必死さが加わったような猫を見、一輝は嗤った。
「当たり前だろう、風邪でも引いたらどうする気だ」
氷河が猫の額に、唇を付けた。
「あッ、キサマ――何の真似だッ!」
自分とてご無沙汰な行為に、一輝は瞼を見開いた。
「なにをしようがオレの勝手だ、そんなことより、ビールを零した場所を拭いておけ」
氷河は猫の鼻に口付けながら、一輝に背を向け歩き出した。
「――この…」
一輝は氷河が背を向ける直前、鼻に口付けられながら、猫が自分を見、目を細めたのを見た。
――浴槽ごと、叩きのめしてやるッ。
この不死鳥の聖闘士を愚弄した輩の末路を見せてやろうと、一輝は拳を握りしめた。
だが、思っただけであった。
そんなことをすれば氷河は兎も角、マンションの持ち主である城戸沙織の不興を買うに決まっているからだ。
一輝は懸命に身体を舐めている猫を、視線で指した。
「どこの世界に、自分からビールを被る猫がいる?」
氷河が冷たい眼差しを、一輝にむけた。
「17階のベランダに、忽然と猫が現れた、などと口にする輩に言われたくないわッ」
「本当にいたんだッ」
氷河はビールの滴る猫を抱き上げた。
「あッ、オレのビールが…」
猫から滴るビールと、倒れた缶を、一輝は見比べた。
「オレのビールではない、来客用に、オレが買い置きをしてあるビールだ」
氷河は一輝に背を向けた。
「キサマッ、どこへ行く」
猫を抱いたままリビングを出て行こうとする氷河に声を掛けた。
「風呂だ、濡れたままでは可哀想だろう」
「そうかな」
風呂と聞いて、身体の舐め方に必死さが加わったような猫を見、一輝は嗤った。
「当たり前だろう、風邪でも引いたらどうする気だ」
氷河が猫の額に、唇を付けた。
「あッ、キサマ――何の真似だッ!」
自分とてご無沙汰な行為に、一輝は瞼を見開いた。
「なにをしようがオレの勝手だ、そんなことより、ビールを零した場所を拭いておけ」
氷河は猫の鼻に口付けながら、一輝に背を向け歩き出した。
「――この…」
一輝は氷河が背を向ける直前、鼻に口付けられながら、猫が自分を見、目を細めたのを見た。
――浴槽ごと、叩きのめしてやるッ。
この不死鳥の聖闘士を愚弄した輩の末路を見せてやろうと、一輝は拳を握りしめた。
だが、思っただけであった。
そんなことをすれば氷河は兎も角、マンションの持ち主である城戸沙織の不興を買うに決まっているからだ。