JINX 猫強

 オリジナルとかパロ小説とかをやっている猫好きパワーストーン好きのブログです。
 猫小説とか色々書いています。
 

経費削減SS (一輝と猫14)

2013-07-29 03:12:00 | ノンジャンル
 本来なら“用件を早く言わんか”と蹴り倒すところだが、相手は老人--しかも、あの“実”の持ち主とあっては、邪険にするわけにはいかない。一輝は老人の話を聞く態勢に入った。
--ワシは人間でいることに疲れた…この姿で心地よさそうな家の庭や縁側(えんがわ)で休んどったら、警察官というのがやって来ての…もう、大変なことになった…。
 そのときの情景を思い出したのか、老人はまた溜息を吐き、言葉を続けた。
--逃げても、逃げても…あやつらめは増援だとかと言うて、なんぼでも増えよる。
 さも心外な目に遭ったかのような老人の口調に、一輝は呆れた。
 見知らぬ人間が、自分の家の庭に無断で侵入してきたら、不法侵入で通報するのが当然であった。
 そのような面倒なことは、一輝でもしない。
--従ってワシは、どこへでも違和感なに入り込める、猫になることにした。
 老人の言葉に、一輝は思わず溜息を吐いていた。
 人間が猫になれるのなら、一輝も猫になっている。
 そして氷河に膝枕をさせ、全身を撫で、揉ませ、一緒に風呂に入り、あーんなことも、こーんなことも…そこで一輝は気づいた。猫になどなってしまったら、入浴した先の、あーんなことや、そーんなことが出来なくなってしまうではないか、と。
--なにを考えておる、お前さん、そんな邪(よこしま)な考えでは、仙術は極められんぞ。
 一輝の心中を見ぬいたかのように、そう口にし、老人は肩を落とした。
--オレが、なにを考えたというのだ。
“ワシは猫になることにした”などと真顔で口にする人間に、物思いを批判されるいわれはない。
--お前さんは、氷河とかいったか…あの金髪の、見目麗しい青年に邪心を抱いておる。隙をみては押さえ込もうと、常に考えておるではないか。
 老人の言葉に、一輝は目を見張った。
--キサマ…オレの精神(こころ)を…。
 一輝は敵の精神を操り、崩壊させる鳳凰幻魔拳を使う。その一輝の精神を読み取るなどと--。
 一輝は目の前の老人に警戒心を抱いた。

「続く」

経費削減SS (一輝と猫13)

2013-07-28 01:22:00 | ノンジャンル
--ワシを覚えておったのか、感心、感心…。
 老人は皺襞(しわひだ)だらけの顔に笑みを浮かべた。
--ですが、なぜこんな所に。
 この場は、あの忌々しい猫の幻術空間の筈であった。
--なぜ、ではないのだよ。
 老人は笑みを収め、言葉を続けた。


--ワシは若いころに仙術を極め、諸国を旅しておった。
 老人は大きな溜息を吐いた。
--じゃが仙術を極めたといっても所詮は人間…老いには敵わんでなぁ~。
 また、溜息を吐いた。
--しかも、こんな老人から金を奪おうと複数で取り囲み、殴る蹴るの暴行…この国は、一体どうなってしまったんじゃ。
--オレにいわれても、解らん。
 今は神でさえ、地上が欲しいからと、女神にも害を成す時代であった。
--じゃが世の中、そう捨てたもんでもなかたわい。ワシのようなか弱い老人を虐める者もあれば、助けてくれようとする者もある。
 老人は自分の言葉に頷いた。
--あのときの礼ならもう…。
 既に済んでいるという言葉が、途中で止まった。あの珍妙な実がもう2.3粒あれば、今度こそ自分も堪能できるのではないかと、一輝は思った。
--もう、なんじゃ。
 問われ、一輝は老人から視線を逸らした。
--それはよい。ソレよりここからが本題じゃ。信じられぬかも知れぬが、お主には常人にはない“力”を有しておる。だから話すことにした。
 持って回った言い方をする老人を、一輝は見つめた。

経費削減SS (一輝と猫12)

2013-07-24 01:57:00 | ノンジャンル
 一輝は闇の中に立ち尽くしていた。
――おのれ、猫の分際で…。
 一輝は奥歯を噛み締め、ついさっきまで目の前で、硬い身体を不安定に伸ばし、グルーミングをしていた猫の姿を思い出していた。
 猫は不安定ながらもバランスを保ち、決して一輝から眸をそらそうとはしなかった。
 一輝に怨みを買っていると承知している猫は、自分が襲われないために、一輝に視線を据えているのかと思っていたら、違っていた。
 猫は一輝を睡眠不足に陥らせ、そうしながら、一輝になにか良から術を掛けていたに違いなかった。
――出てこい、化猫ッ。
 これまで妙な猫だと思っていたが、聖闘士に術を欠けるようではもういけない。叩きだす肚を、一輝は固めた。
――ワシは化猫ではないぞ、そして、猫でもない…。
 しわがれた老人のような声に、一輝は肩越しに振り返り、目を見張った。
 いつからそこにいたのか――?
 気配すらも感じさせず背後に立っている老人を、一輝は知っていた。
――貴方は、いつかの…。
 一輝は老人に向き直った。

 何ヶ月か前…一輝は複数の若者に暴行を受けていた老人を助けたことがあった。
 異国情緒のあふれるボロを纏っていた、小柄で小汚い老人は礼だと言って、なにかの果実を一輝にくれた。
 老人は“その実を意中の人間にそませれば、望が叶う”というようなことを言い、何処かへと歩き去った。
 一輝はソバの実を思わせる果実と、老人が消えていった空間を見比べ、やがて、ものは試しと、たまたま傍らを通りかかった氷河に飲ませることにした。
 効果は覿面(てきめん)であった。
 いつもは押し倒すのにも苦労する氷河が、そのときは自ら一輝の服を引き裂き、一輝を求めた。
 だが、その効果の持続時間は、あまりにも短かった。
 氷河は自分が満足すると、忽ち己を取り戻し、代わりに自ら一輝を求めたことを忘れ、服を破かれたままの一輝を放置して去ってしまった。
 ために、一輝は街中のあちこちに仕掛けられている監視カメラや、自宅マンションに設置されているカメラに用心しながら帰宅を強いられたという――苦いながらも夢のような1夜を過ごしたのだった。

「続く」

 

経費削減SS (一輝と猫11)

2013-07-10 00:10:00 | ノンジャンル
 猫の攻撃は続いた。

 まず、氷河が見ていないときには、一輝の食事を略奪にかかる。
 
 故意に物を倒し、一輝が元に戻す時を狙う。

 出来る限り、氷河と揉め事を起こさぬよう努める、一輝の心情を見抜いているのだった。

 それだけではない。猫は一輝の寝入りばなを襲い、高所から胸部に飛び降り、あるいは顔を踏みつけ、一輝の眠りを妨げまくる。

 ――この、性悪猫めが…。

 一輝はベットの傍らに置いてある、テーブルに寝そべる猫に向かい毒づいた。
 
 このアホ猫のせいで一輝は数日、ろくな食事も睡眠も摂れない有様であった。

 そのせいか、このところ脳裏に霞がかかったように感じることがある。その霞を引き裂くように、猫の爪が襲いかかってくる。

「止めんかッ、バカ猫が!」

 鼻の頭を引掻かれかけ、一輝は肚を立てた。

 首根っこを掴んで部屋から叩き出したいが、捕まらないものは仕方がない。

 しかし、なぜ――聖闘士である自分が、たかが猫にここまで愚弄されるのか。

――腕が落ちたのか?

 一輝は元いた場所で、グルーミングをしている猫を睨みつけた。

 だが…あの猫は、本気になった氷河と二人がかりでも、捕らえることが出来なかったのだ。

 いっその事、小宇宙を発動させ、したり顔でグルーミングを続けている猫を叩きのめしたい衝動に駆られ、一輝は拳を握りしめた。

――いかん。

 一輝は握り締めたた拳を解いた。

 下手に物件を傷つけるようなことがあれば、氷河の不興を買いかねない。

 できえることなら、このような忌々しい猫のいる部屋から出たい。

 だが、こんな時に限って、普段は煩わされる沙織からのボディ・ガードの仕事の依頼や、ハーデスの残党の悪巧みがない。

 何かの理由もなく、氷河に叩き出されるのではなく、猫に部屋を虐め出されるわけには行かない。

 そんなことになったのでは、不死鳥の聖闘士の名折れであった。

――猫め…。

 一輝はベットに横たわった。

――捕まえたらどうしてくれようか、と思いながら、重い瞼を閉じていた。


「続く」
 

 

 

 

 

 
 
 

 


経費削減SS (一輝と猫10)

2013-07-05 01:43:00 | ノンジャンル
 以来、氷河は猫の食事には徹底的に気を配るようになった。
 これまで与えることもなかった“キャット・フード”という物を与えるようになった。
 唐突に食欲が失せた猫に小首を傾げ、氷河は瞬に電話をし、猫はご飯を与えなければそのうちに諦めて、与えた飯を食べるようになるよ――。という、アバウトかつスパルタなアドバイスに、氷河は素直に従った。

 猫に凶暴さが加わったのは、それからであった。

 それも、一輝にのみ限定であった。

 一輝がテレビを見ていれば、チャンネルを変え、あるいは電源を切り、さらにリモコンを隠す。

 熟睡をしていれば、顔や腹に飛び乗り、ところかまわず爪を研ぐ。

「いいか? お前に餌を与えないのはオレではない。氷河だ、だから、苦情は奴に言え」
 見兼ね、一輝は猫に訴えた。

 そうはいったものの、一輝も猫が気の毒になった。

「続く」