――一体、なにが悪かったのか…。
放課後、氷河は一人の生徒に声を掛けられた。
「付き合ってくれ」
何組の生徒だったか…確か佐藤という名の生徒にそう言われ、氷河は佐藤の後に続いた。
氷河たち青銅聖闘士たちは、女神である城戸沙織から「学園内での人間離れした行動は、くれぐれも慎むように」と言われていた。
言われてはいたが、身についてしまった力はどうしょうもなかった。
生徒たちが身につけている身体能力と、青銅聖闘士たちのソレではあまりに違いすぎた。心臓が悪いなどと、もう学園内で誰も信じる者のいない嘘を吐き、体育の授業は参加していないが、少しの行動で、その力量がバレつつ有る。
大勢の中からわざわざ自分を指名したのは、何か重い物を運んで欲しいのだろう、ぐらいにしか考えていなかった。
氷河は佐藤に続き、資料室に入った。
「城戸…」
資料室に入り、脚を止めた佐藤の言葉を氷河は待った。
石膏か、大量の資料を何処かへ運ぶのかと思っていた。
「好きだ、城戸」
「好き?」
氷河は眉を顰めた。何が好きなのかと、氷河は周囲を見回した。
「お前が、好きだ」
振り返った佐藤に真顔で言われ、氷河の顔色が変わった。
「好きって――」
好き――。
1,好くこと。
①気に入って心がそれに向かうこと。その気持。
②ものずき。
③好色。色ごのみ。
④風流の道に深く心を寄せること。数奇。趣味――。
氷河の脳裏に、様々な意味が、浮かんでは消えた。
「付いて来たってことは、オレの告白を受けたってことだよな?」
肩を掴まれ、氷河は大きく瞼を見開いた。
「――付き合うって」
何処かに一緒に行くことなのでは? などとは聞けない。
そんなことを言ったら、氷河の外見も相まって、日本語に対する理解が足りないと思われる。
古文に続き、そのような屈辱に耐えることはできない。
たが、付き合ってくれとは…日本語の多彩さに、氷河は頭を抱えたくなった。
「ここまで来て嫌だとは言わないよな?」
両肩を固定され、近づいてくる佐藤を見つめながら、氷河は己の置かれたのっぴきならない状況を悟った。
大体、氷河は男なのだ。
男にこういう感情を抱くのは、あのアホだけだと思っていた。
「ちょ、ちょっと、ま――」
目の前に迫った佐藤の顔面を直視しながら、氷河は佐藤を蹴り飛ばそうか、投げ飛ばそうか迷った。
だが、氷河の日本語に対する理解の足りなさがこの自体を招いてしまったのも、また事実であった。
「鳳凰幻魔拳」
小さくガラスが割れた音と、頬を掠めた衝撃に、氷河は目を見張った。そうしながら、全身から力を失った佐藤の身体を支えた。
「このバカ者がッ」
扉を開くと同時に怒声を叩きつけた主を、氷河は見つめた。
「一輝…」
思わぬ助けに、氷河は気の抜けた声を出した。
「なにが『一輝…』だ、このウスラバカがッ!」
一輝は氷河が身体を支えている佐藤の身体を毟り取り、床に叩きつけた。
「お前、そんな乱暴な」
佐藤は聖闘士とは違うのだ。そんなに粗雑に扱っては、怪我をさせかねない。
「黙れッ、キサマという奴は、ろくに知りもしない人間について行くなと教わらなかったのか」
「教わった」
確かに、小さな頃から母に『知らない人に付いて行ってはいけませんよ』と、言い聞かされていた。
「なら、なぜ、こんなアホの後にフラフラと」
氷河は佐藤の身体を蹴飛ばした。
「お前、そんなに乱暴をするな。目を覚ましたらどうする?」
また、好きなどと口にされたら、どう対応して好いのか解らない。
「フン、このバカは当分目覚めん、幻魔けんを掛けてやったからな」
さらりと発せられた言葉に、氷河は目を見張った。
ただの生徒に、幻魔拳――。
一瞬、氷のように表情を消し去った、沙織の顔が見えた気がした。
「キサマ、また『付き合ってくれと言ったら、ついてきた』といわれ続けたいのか?」
一輝の言葉に、氷河は首を振った。
そんな面倒なことはゴメンであった。
「そうだろう、大体、お前は日本語も、人間も未熟なのだ、キサマはアホだ、自分のことが全く解っとらん」
一輝に人間的にどうかなどとは言われたくはないが、今は反論する気にはならなかった。
「いいか、これからは知らない人間に付いて行くな。解ったかかこのバカ者が」
「解った」
氷河は項垂れた。
釈然とはしないが、一輝に危機を救われたのは事実であった。
「これに懲りたら、いつもオレの目の届く所にいろ」
「解った」
なんとなく、氷河は頷いてしまった。
以来、一輝に対し、頭が上がらない日々が続くということに、このとき、氷河は気づいていなかった。
END
ちょっと前にやった「聖闘士学園へようこそ番外編」のおまけでした☆
放課後、氷河は一人の生徒に声を掛けられた。
「付き合ってくれ」
何組の生徒だったか…確か佐藤という名の生徒にそう言われ、氷河は佐藤の後に続いた。
氷河たち青銅聖闘士たちは、女神である城戸沙織から「学園内での人間離れした行動は、くれぐれも慎むように」と言われていた。
言われてはいたが、身についてしまった力はどうしょうもなかった。
生徒たちが身につけている身体能力と、青銅聖闘士たちのソレではあまりに違いすぎた。心臓が悪いなどと、もう学園内で誰も信じる者のいない嘘を吐き、体育の授業は参加していないが、少しの行動で、その力量がバレつつ有る。
大勢の中からわざわざ自分を指名したのは、何か重い物を運んで欲しいのだろう、ぐらいにしか考えていなかった。
氷河は佐藤に続き、資料室に入った。
「城戸…」
資料室に入り、脚を止めた佐藤の言葉を氷河は待った。
石膏か、大量の資料を何処かへ運ぶのかと思っていた。
「好きだ、城戸」
「好き?」
氷河は眉を顰めた。何が好きなのかと、氷河は周囲を見回した。
「お前が、好きだ」
振り返った佐藤に真顔で言われ、氷河の顔色が変わった。
「好きって――」
好き――。
1,好くこと。
①気に入って心がそれに向かうこと。その気持。
②ものずき。
③好色。色ごのみ。
④風流の道に深く心を寄せること。数奇。趣味――。
氷河の脳裏に、様々な意味が、浮かんでは消えた。
「付いて来たってことは、オレの告白を受けたってことだよな?」
肩を掴まれ、氷河は大きく瞼を見開いた。
「――付き合うって」
何処かに一緒に行くことなのでは? などとは聞けない。
そんなことを言ったら、氷河の外見も相まって、日本語に対する理解が足りないと思われる。
古文に続き、そのような屈辱に耐えることはできない。
たが、付き合ってくれとは…日本語の多彩さに、氷河は頭を抱えたくなった。
「ここまで来て嫌だとは言わないよな?」
両肩を固定され、近づいてくる佐藤を見つめながら、氷河は己の置かれたのっぴきならない状況を悟った。
大体、氷河は男なのだ。
男にこういう感情を抱くのは、あのアホだけだと思っていた。
「ちょ、ちょっと、ま――」
目の前に迫った佐藤の顔面を直視しながら、氷河は佐藤を蹴り飛ばそうか、投げ飛ばそうか迷った。
だが、氷河の日本語に対する理解の足りなさがこの自体を招いてしまったのも、また事実であった。
「鳳凰幻魔拳」
小さくガラスが割れた音と、頬を掠めた衝撃に、氷河は目を見張った。そうしながら、全身から力を失った佐藤の身体を支えた。
「このバカ者がッ」
扉を開くと同時に怒声を叩きつけた主を、氷河は見つめた。
「一輝…」
思わぬ助けに、氷河は気の抜けた声を出した。
「なにが『一輝…』だ、このウスラバカがッ!」
一輝は氷河が身体を支えている佐藤の身体を毟り取り、床に叩きつけた。
「お前、そんな乱暴な」
佐藤は聖闘士とは違うのだ。そんなに粗雑に扱っては、怪我をさせかねない。
「黙れッ、キサマという奴は、ろくに知りもしない人間について行くなと教わらなかったのか」
「教わった」
確かに、小さな頃から母に『知らない人に付いて行ってはいけませんよ』と、言い聞かされていた。
「なら、なぜ、こんなアホの後にフラフラと」
氷河は佐藤の身体を蹴飛ばした。
「お前、そんなに乱暴をするな。目を覚ましたらどうする?」
また、好きなどと口にされたら、どう対応して好いのか解らない。
「フン、このバカは当分目覚めん、幻魔けんを掛けてやったからな」
さらりと発せられた言葉に、氷河は目を見張った。
ただの生徒に、幻魔拳――。
一瞬、氷のように表情を消し去った、沙織の顔が見えた気がした。
「キサマ、また『付き合ってくれと言ったら、ついてきた』といわれ続けたいのか?」
一輝の言葉に、氷河は首を振った。
そんな面倒なことはゴメンであった。
「そうだろう、大体、お前は日本語も、人間も未熟なのだ、キサマはアホだ、自分のことが全く解っとらん」
一輝に人間的にどうかなどとは言われたくはないが、今は反論する気にはならなかった。
「いいか、これからは知らない人間に付いて行くな。解ったかかこのバカ者が」
「解った」
氷河は項垂れた。
釈然とはしないが、一輝に危機を救われたのは事実であった。
「これに懲りたら、いつもオレの目の届く所にいろ」
「解った」
なんとなく、氷河は頷いてしまった。
以来、一輝に対し、頭が上がらない日々が続くということに、このとき、氷河は気づいていなかった。
END
ちょっと前にやった「聖闘士学園へようこそ番外編」のおまけでした☆