JINX 猫強

 オリジナルとかパロ小説とかをやっている猫好きパワーストーン好きのブログです。
 猫小説とか色々書いています。
 

経費削減SS (一輝と猫8)

2013-05-14 21:13:00 | ノンジャンル
――おッ。

 フッと気がつくと、氷河が寝息を立てていた。

 不満顔の猫を抱いたままの氷河の無防備な寝顔に、一輝は唇を綻ばせた。

 そのうちに、一輝は有ることに気づいた。

「オイ、猫め――」

 一輝は氷河の腕に囚われた猫の髭を引っ張った。

「どうだ、氷河の胸の寝心地は?」
 
 代わりたいと思いながら、一輝はもう一方の髭も引っ張った。

 普段から間抜けな顔が、更に間抜けに見える。

「なんだ、その反抗的な顔は」

 牙が見えるほど髭で頬を引っ張られ、抗議の視線を向けている猫の額の毛を、一輝は指で逆さに撫でた。

「どんな顔をしようと、この一輝様にかかっては、こうなるのだ」
 
 一輝は身動きの叶わない猫の鼻を上向きに押した。

 すると、猫の顔の間抜けさ加減が増した。普段は捕まえようとしても捕まらない猫であるが、今の顔と有り様には、愛嬌さえ感じられた。

「ホレホレ、悔しかったら反撃をしてみろ、まぁ、無駄だろうがな」
 
 ぬいぐるみのように、しっかりと抱きしめられた猫に向かい、一輝は唇を吊り上げた。

 だが、猫のふてぶてしい性格を一輝は侮っていた。

「あッ、キサマ――」

 耳を引っ張られた猫が、ローブの上から氷河に爪を立てたのを目にし、一輝は慌てた。


「続く」


 

経費削減SS (一輝と猫7)

2013-05-11 23:47:00 | ノンジャンル
「猫が喋るのか?」
 
 重ねて問われ、一輝は言葉を呑んだ。

 よくよく見れば、氷河の眸が潤んでいる。

 シャワーを浴びたせいだと思っていたが、氷河の頬が朱く色づいている。

「喋らん」

 一輝は氷河から視線を反らせた。

 酔っぱらいに関わると、ろくな事にならないからだ。

「当たり前だ、バカ――」

 氷河は一輝から視線を、膝の上のいささか気の毒な猫に戻し、言葉を続けた。

 一輝を罵倒する間も、氷河は猫の両脚を掴んだまま、開放はしなかった。

「――本当に、一輝はおバカでチュねぇー」
 
 氷河は猫の耳許に囁いた。

 そういえば、さっきから氷河の言動はおかしい“でチュねー”など、普段の氷河なら、絶対に使わない言葉だ。
 
――阿呆らしい。

 一輝はテレビのリモコンに手を伸ばした。

 普段、氷河は一輝がリビングに居るときは、直ぐに部屋に篭ってしまう。

 部屋に篭ったら最後、氷河は中々、姿を表さない。

 城戸沙織からの仕事をしていれば、食事の用意をしないのも当然だと思っていることが、一輝には肚立たしい。

 今は酔ってはいるが、氷河は一輝の傍らで、普段は決して見せない無邪気な笑みを見せている。

 奇妙なストレッチを施されてる猫には気の毒だが、それだけでも良いか、と思いながら一輝は、画面に視線を転じた。

「続く」

 いゃー、なんか前回のお話、最後の方がおかしくなっていたので、打ち直しました。
 眠気に負けました。
 これからは気をつけますので、もう少しお付き合い下さいッ☆


経費削減SS (一輝と猫6)

2013-05-11 00:46:00 | ノンジャンル
 一輝はビールを飲みながら、膝の上にのせたアホ猫を構い続ける氷河を見ていた。

「可愛いなぁ、お前は」
 
 柔らかな笑みを浮かべ、猫の頬を撫で、時には抱き上げ、腹に頬摺を摺り寄せ、膝の上に座らせ、両の脚を上げさせている様は、もう猫を乾かすのではなく、猫で遊ぶレベルであった。

 最初は撫でられ、肩を揉まれご満悦だったアホ猫も、今は迷惑顔を隠さない。

 隙を見て、逃亡を企てようも一度、捕られた聖闘士の腕からは、さすがに逃れられないようであった。

「もう、いいのではないか」

 見兼ね、一輝は声を掛けた。

「何が?」

 氷河が笑顔を収め、一輝に視線を転じた。

「何が? ではない、嫌がっているだろうが」

 猫は基本的に、体を拘束されるのを嫌う、現に猫は、有るかな無きかの尻尾を振り、不興を顕にしている。

「猫が喋るのか?」

 氷河の問いに、一輝は言葉を詰まらせた。

 猫が喋るわけがない、そんな当然なことを真顔で問う氷河の真意が、解らない。

「お前、酔って――」

 酔っているのではないか、という言葉が途中で凍った。


 外見とは裏腹に、氷河はアルコールに弱い。

 以前、何かの折に城戸邸で、酒盛りをしたことがあった。

 闘いで重症を負った聖闘士たちは、静養の為にかなりの期間、、城戸邸で軟禁状態に置おかれていた。

 連戦に次ぐ連戦に、城戸沙織は聖闘士たちの体調にナーバスになっていた時期があった。

 ある晩、星矢が屋敷のあちこちから、アルコールや肴を持ち出し、宴会を開いた事があった。
 
 屋敷にいる人間たちは、辰巳や沙織がいないときには、聖闘士たちのすることに口を挟まない。

 銀河聖戦(ギャラクシアン・ウォーズ)開始直前に、聖域から戻ったばかりの星矢が沙織と口論となり、屋敷の一部を、素手で破壊したことがあったからだ。
 
 深夜の宴会に、氷河は良い顔をしなかった。
 
 いい子振るなと、星矢がウイスキーを注いで渡したグラスを、当惑気味に見つめる氷河に「まさか、酒が飲めないのではあるまい?」と、一輝が声をかけた。
 
「まさか」と応え、氷河は手にしたグラスを一息に煽った。

 周囲から歓声が揚がったが、氷河はその場で倒れてしまった。
 
 いきなり服の袖を掴んだ腕に力を掛けられ、一輝は氷河が闘いを挑んでくる気なのかと思った。

 が、酒乱か私闘と思った氷河は一輝に縋り付いたまま、膝を折った。

「おい、どうしたーー」

 一輝は氷河の背に腕を回した。それが悪夢の始まりであった――。
 どうなったのか、いつの間に一輝に覆いかぶさる形になっていた氷河が、今口に放り込んだ後のウイスキーをーー。
 
 あれ程、一輝の背中を凍り付かせ、周囲の聖闘士立ちを恐怖させた日はない。
 
 覚えていないのは、周囲に(特に一輝)迷惑を掛けた氷河だけであった。
 
 あれから、星矢たちは氷河にアルコールを進めるのは止めた。
 
 その氷河が、ビールを浴びた猫の体を洗い流すために、密室である浴室に入り、空間に漂うアルコールに酔った?

 まさかとは思うが、氷河だから解りはしない。

 一輝は注意深く氷河の様子を見守ることにした。

「つづく」



 

経費削減SS (一輝と猫5)

2013-05-09 00:07:00 | ノンジャンル
「大きな声を出すな」
 
 氷河はバカ猫の全身をローブで包み込み、大切そうに撫でた。

「キサマ、よくも――」

 あの、滑らかで、触ると吸い寄せられるような肌に、あの小汚い猫が全身を密着させているのだと思うと、小汚いを通り越して、憎悪さえも沸いた。
 
「何をそう、ムキになる、大体お前が猫にビールを――あッ」
 
 言葉を切り、頬を染め、全身を痙攣させた氷河に、一輝は険悪な表情を向けた。

「ダメじゃあないか、お前――そんなところを舐めて…」

 氷河がバカ猫をローブから出し、両脇に手を入れ、目の前に翳したのと、一輝が腰を上げたのが同時であった。
 
――殺れる。

 バカ猫は、両前脚を氷河に扼(やく)され、しかも一輝に背を向けている。
 ここでく拳を叩きこめば、間違いなく殺れる。
 だが、そんなことをすれば、間違いなく氷河の逆鱗に触れる。

 当初は薬湯で、恐怖のどん底に追いやられた氷河も、今は猫を、自分でシャワーを浴びさせるほど可愛がっている。
 その猫に、聖闘士である自分が拳を叩きこめば、どのようなことになるか――。
 暫く目にしていない、見る者を凍てつかせ、周囲の温度を低下させるような眸を想い描き、一輝は躊躇した。

 その間に、氷河が猫を抱き取った。

「――本当に、お前は人懐こいなぁ」
 
 氷河が、阿呆猫に頬をつけた。

「やめんか、キサマ、そんな猫などにッ」
 
 何が人懐こいものかと、自分の手の届く場所には、決して近寄ろうとしない猫を一輝は指さした。
 猫にしてやれることが、なぜ自分には出来ないのかと、一輝は氷河に肚を立てた。

「煩い男でチュねー、落ち着かないから向こうに行きましょうか?」
 
 また猫の頬に唇をつけながら、氷河が立ち上がる気配を見せた。

「いいのか氷河、そんな濡れネズミの猫を部屋に連れて行って? お前の大切なパソコンの間近で水切りでもされたらどうする?」

 水を嫌う動物は、全身が濡れた場合はその身を震わせ、水分を飛ばそうとする。
 そして水分は、電子機器に思わぬ悲劇をもたらす。

 一輝の言葉に、氷河はソファに座り直した。
 
「だったら、早く乾かしましょうねー」

 氷河が膝の上に乗せた猫に声を掛け、全身を拭き始めた。

――オレの膝が…。

 暖かな陽の光の指すリビングで、ソファに座った氷河の膝枕で転た寝をする。いや、したい。してみたい――。

 押さえつけてでもしてみたいことを、ただ猫というだけで、されてみせる猫に、一輝は憎悪の視線を向けていた。

「続く」
 

 

経費削減SS (一輝と猫4)

2013-05-06 23:16:00 | ノンジャンル
 浴室のドアの開いた気配に、一輝は思考を打ち切り、雑巾をバケツに放り込むと、ソファに腰を下ろした。
 床を拭くためとはいえ、這いつくばっている姿など、みっともなくて見せられる物ではないからだ。

 たとえ、それが雑巾がけを命じた氷河であってもだ。

 一輝はソファに深々と腰を下ろし、浴室から戻った氷河を仰ぎ見、これ以上に無いほど瞼を見開いた。
 ビールを被った猫を洗い流すついでに、自身もシャワーを浴びたのであろう氷河は、バスローブを纏っていた。

 氷河のバスローブ姿など珍しくもないが、氷河はその懐に、猫を入れていた。
 
 大きく開いたローブから顔だけを出している猫に、一輝は肚を立てた。

「キサマッ、何の真似だ」
 
 一輝に指を突きつけられ、氷河が眉を顰めた。

「何って、猫がドライヤーを嫌がるから、こうして――」
 
 氷河が頭に被っていたタオルで、猫の耳の後ろ拭いた。
 その優しげな手つきに、一輝は更に肚を立てた。

「キサマッ、何をしているッ」
 
 これまでの付合いの中で、氷河が一輝に優しく触れたことなど、ただの1度もない。それを、どこの馬の骨とも解らない猫を、よりにもよって懐に――。

「何って、こうしておけばドライヤーを欠ける必要も無いし、拭く手間を省けるだろう」
 
 氷河は一輝の斜め向かいのソファのかけた。

「そんな猫、表に放り出してしまえ」

 一輝は自分の身体を舐めるふりをしながら、氷河の素肌を舐める猫に肚を立てた。

「何を言う、そんなことができるか」

 氷河が猫の頬に自分のそれを擦りつけた。

「やめんか、キサマッ――」

 猫が氷河の頬を舐めながら、横目で一輝を見ている。
 その猫の頭を指で撫でている氷河に、一輝はムカッ肚を立てた。


「続く」