JINX 猫強

 オリジナルとかパロ小説とかをやっている猫好きパワーストーン好きのブログです。
 猫小説とか色々書いています。
 

アリシア 13

2007-10-23 22:21:43 | ノンジャンル
「あいかわらず乳臭さの抜けんやつよ!」
 己の心に縛られ身動(みじろ)ぎもできずにいる氷河に、カミュは溜息をついた。
「母親の遺体の眠る船をシベリアの海溝に落としてもまだ抜けんとは…」
 嘲笑を含んだ師の言葉が、氷河の全身に落雷を受けでもしたような衝撃をもたらしていた。
「や、やはりあれはあなたの仕業だったのか…な…なぜ…」
 予想はしていたが認め難い事実を突きつけられ、氷河の全身に震えが取り付いていた。
「――たとえ死んではいても、あそこへいけば母に会える、それがたった1つの心のよりどころであり安らぎの場であったのだ!」
 氷河は拳を握り締め叫んでいた。
「――なにももたないこの氷河にとって唯一残された大切なものだったのだ、そ…それなのになぜ…」
「だまれ」
 血を吐くような叫びを、しかしカミュは一蹴した。
「死んだ人間にいつまでも涙を流しているお前の唯一の惰弱な点を断ち切ってやったのだ! それが悔しいと思うならかかって来い氷河」
 氷河は闘いを忘れ、生まれ育った地で母の眠りを護り、ヤコフたちの生活を護りながら静かに生きてゆこうとしたのだ。
 勅命を果たさぬ行動に、刺客を差し向けられたのなら受けて立つ。
 聖域の名の下、処刑されるのならそれもよい。
 だが、極寒の海底で眠る母は無関係だ。
 それを、思慕の情を断ち切るためとはいえ母を、眠る船ごと海溝に落とす行為は許せるものではなかった。
「う…いくら師であるあなたでも、ゆ…許せない…」
 その強大な力をもって無造作に最愛のものを奪った師への憎しみに、氷河は染まっていた。

「続く」

アリシア 12

2007-10-17 01:54:40 | 原稿
「――久しぶりだな氷河よ」
 唐突な師との再開に、氷河は当惑していた。
「カ…カミュ、なぜあなたがここに? 水瓶座のあなたがここにいる以上、ここは宝瓶宮なのですか…」
 氷河は師と辺りを見比べた。
「違う! 宝瓶宮はまだずっと先だ! ここは7番目の宮、天秤宮だ!」
 天秤宮の名には訊き覚えがあった。
「て、天秤宮といえば紫龍の師である老師の…」
 紫龍から伝え聞いた天秤宮の黄金聖闘士の姿を思い描いた。
「そうだ、本来なら五老峰の老師が預かるこの天秤宮だが、老師は長い間…廬山を動かん、いわばここは無人の宮」
 無表情に告げる師の姿を氷河は呆然とした面持ちで見つめていた。
「そ…その天秤急に、なぜあなたが…」
 12の宮はそれぞれの名を冠せられた黄金聖闘士が守護しているはずだ。
 自身が護る以外の宮に黄金聖闘士が立ち入るとは、奇異な気がする。
「氷河、お前をここで止めるためよ!」
 全身を凍りつかせるような双眸で見据えられ、氷河は身を竦ませながら師の言葉に耳を傾けていた。
「師である私の命令だ! これ以上…先に進むな! 死にたくなければここで止まれ氷河」
「そ…それは…残念ながら師のお言葉でも従うわけにはいきません…」
 友でも兄弟でもある星矢たちが、巨大な敵と相対しているのを尻目に、氷河だけがその戦闘から退くわけにはいかない。
 適わぬまでも氷河が敵に与えた一撃が、星矢たちの勝利の一因になるのなら、氷河は闘う。
「ならば力をもって止めねばならないか…」
 師が言葉を切るのと同時に、氷河の背に悪寒が奔っていた。
 避けることも受けることもできなかった。
 吹き荒れるブリザードに打ち倒されるように氷河は石畳に叩きつけられていた。
「来い、氷河…進むためにはこの私を倒さねばならないのだぞ…」
 師の言葉に、氷河は呻いた。
「そ…それも、それもできません」
 氷河は上体を起こした。
「師であるあなたに拳を向けることは…」
 師であるカミュに拳を向けることなどは、考えたこともなかった。

「続く」

アリシア 11

2007-10-15 18:04:25 | ノンジャンル
 今日は生まれて初めて胃カメラなるものを経験してきました。
 あぁ…手の甲の注射跡が、おまけに今度はCTだかエコーだかの予約をし…。
 でも、胃は単なる胃炎でした(しかも許容範囲の)
 この分なら次ぎの検査も大したことないっしょう。
 しかしッ、胃の組織検査をした為の粘膜保護の薬のあまりの衝撃的な味に精神麻痺に、薬局さんで凍りつくヘタレな私…。
 この薬を4回も飲まなければいけないなんて…(遠い目)

 まぁ、こんなことは置いておいて…。

 本文行って見ましょう。

■ ■ ■

 天も地もない、それらの綯い交ぜになった空間を氷河は漂っていた。
 目の前に広がる空間に氷河は困惑し、その困惑に一筋の疑念が掠め、その疑念は見る間に確信へと変わった。
 それは、己の能力の卑小さであった。
 氷河は元々、黄金聖闘士と対峙するには実力が不足していたのではないか――。
 それを紫龍たちは看破し、氷河にこの闘いから退くよう、暗に忠告したのではないか――。
 今までの闘いに勝利できたのは相手に恵まれていたからではないのか――。
 氷河は己の矮小さゆえ、その実力の違いに気付かぬまま、場違いな闘いの場に足を踏み入れてしまったのではないか――。
 聖闘士になるための心構えからして、氷河は星矢たちとは違っていた。
 聖域にやってきたのも、城戸沙織の胸を矢座の白銀聖闘士の放った矢が射抜くまでは、師と対面するために過ぎなかった。
 女神を護り、教皇と教皇に率いられている聖域と闘うためにこの地に降り立った星矢たちと、行を共にするべきではなかった。
 氷河は自身の軽率さに放心状態に陥っていた。
 どのぐらいの時間、この空間を漂っていたのか解らなかった。
 自身を引き寄せる圧に、氷河は思考を断ち切られた。
 我に返ったときには激しい圧力に氷河の身体は吸い寄せられ、空間を移動していた。
 強烈な圧に、呼吸さえままならない。
 己の力では逆らえない、この感覚は母に会うため初めて海に入ったときに襲われた潮流の強大さを思わせた。
 呼吸困難と、全身にかかる力に意識を失う寸前、氷河は石畳に叩きつけられていた。
 氷河は状態を起こし、辺りを見回した。
 薄暗い中に数本の石柱を見出し、氷河は安堵していた。
 あのまま出口のない異次元に取り込まれていたのではどうにもならない。
 異空間から脱出さえすれば、活路は自身で切り開ける。
 氷河は12の宮の1つと思われる周囲の様子を窺った。
 なにかの気配に、氷河は背後を振り返り瞠目した。
 僅かな光源をも弾く黄金の聖衣と腰にまで届く真紅の髪、そして灼熱の炎のような色でありながらも冷たい炯を放つ眸で氷河を見下ろしているのは誰でもない、氷河の師・カミュであった。

「続く」
 

アリシア 10

2007-10-12 02:53:47 | ノンジャンル
 あまりの更新しなさにパスワードを忘れそうになった牧野です。
 ヤバイです。
 それでは本編行って見ましょう。

■ ■ ■

 その聖衣を、氷河は美しいと思った。
 ただ目にしただけで生命の息吹が注ぎ込まれるような気がした。
 聖衣を身に付けその思いは増した。
 この聖衣を纏えば、いかなる敵をも退けることができるような気がした。
 だが金牛宮の牡牛座の黄金聖闘士の強大な小宇宙に紫龍・瞬・氷河は同時に弾き飛ばされ、意識を失っていた。
 その間、天と地ほどの開きがあるといわれていた牡牛座の黄金聖闘士に星矢は一撃を負わせている。
 その一撃は、金牛宮を護る黄金聖闘士に敗北を認めささせるに十分なものであった。
 双児宮ではその宮に足を踏み入れ、迷路の幻惑に囚われた。
 長い時間、宮内を彷徨わされ脱け出したと思ったとき、目の前に現れた二つの宮に星矢は紫龍と、氷河は瞬と組みそれぞれ闘いに望んだ。
 黄金の矢を胸部に受け倒れた女神を救うためには、誰か一人でも黄金聖闘士の護る12の宮を突破し、教皇を女神の許に引き据え、矢を抜かせねばならなかった。
 氷河は目の前に立塞がった双子座の黄金聖闘士に拳を叩き込んだ。
 氷河は焦っていた。
 金牛宮で対峙した牡牛座のアルデバランと、立塞がった黄金聖闘士の強大な小宇宙に恐れを抱き、恐怖のまま全身全霊の拳を相手に叩き込んでいた。
 瞬の忠告はそのときの氷河には届かず、返された自身の最大の拳・ホーロードニースメルチを受け意識を失っている間に、氷河はなんらかの方法で異空間に取り込まれてしまった。
 覚醒し、氷河は目の前に広がる光景に驚愕した。
 一瞬、宇宙空間に投げ出されたのかと思った。
 だが人間が宇宙空間で呼吸ができるわけがないと、氷河はそのことに思い至り、やや落ち着きを取り戻し周囲を観察した。
 周囲は音も光源もない世界であった。
 それでいて物の形は、詳細まで見ることができる。
 光り輝く星々や星雲が間近に見え、惑星も遺跡の一部は彫刻の細部まで見ることができた。

「続く」

 長らく放置してしまってすみませんでしたッ。
 次回はこんなに間をおかず、アップしたいと思います(ペコリ)