JINX 猫強

 オリジナルとかパロ小説とかをやっている猫好きパワーストーン好きのブログです。
 猫小説とか色々書いています。
 

経費削減SS (一輝と猫21)

2013-08-27 03:14:00 | ノンジャンル
ーー何なのだ、このジジイは。
 一輝は心中、叫んでいた。
 これまで一輝は聖闘士として、数多(あまた)の敵と渡り合い、そして勝利してきた。
 その一輝が、まるで敵意も見せぬジジイに、いいようにあしらわれている。
 そうだ、このジジイには敵意がないのだということを改めて思い、一輝は目を見張った。

 これまで一輝が戦ったのは、自分に、女神に、仲間に敵意を向けた者のみであった。
 こんな飄々とした、それも吹けば飛ぶ様な老人は、始めてであった。
 老人とはいっても紫龍の師の童虎の例もあるから、一概にはは言えぬが、それでも敵意のない老人に渾身の拳を向けられるかといえば、答えはノーだ。
 一輝は無意識に加減し、老人は老人で、一輝の拳の射程距離を、一輝の記憶から読み取って居たのだから、そんな老人に勝てる訳がなかった。

 それに中身はどうあれ、情が移った猫が不意にいなくなれば、氷河は落ち込もう。
 氷河は聖闘士になる過程で母を亡くし、聖闘士となってからは、師と友を亡くすことになった。
 闘いが終わった今、氷河の心を痛めるような事態を、なるべくなら一輝はつくりだしたくはなかった。
--解った、待遇は改善しよう。
 一輝は肩を落とした。
 氷河のためだと思い、屈辱は飲み込むことにした。
--もう、あのカリカリはださんか?
--氷河は出すかも知らんが、オレは出さん。カリカリは、氷河には解らないように、オレが処分する。餌がいつまでも無くならぬのでは、氷河が心配する。
 氷河がどうでもいいことに煩わされるのは不愉快だから、多少は面倒でも仕方長いと、一輝は己に言い聞かせた。
--酒も飲ませるか?
--飲ませる。
 猫には毒でも、人間になら、多少のアルコールは人生の潤滑剤となる。
--それでは、約束だぞ。違えたら、解かっておるな…?
 一輝が頷くのを見届け、老人は猫の姿に変化し、その勢いのまま、一輝の額を肉球て叩いた。
--これが、噂に聞く猫パンチか…。
 と、一輝は妙な処で感心した。
 次いで--この一輝に拳を叩きこむとは、仙道--侮り難し…と思いながら瞼を閉じていた。


「続く」

 

経費削減SS (一輝と猫20)

2013-08-21 00:32:00 | ノンジャンル
 幼い頃から酷寒の地を、身内の手の者から逃れるよう放浪しながら暮らしていた氷河は、猫という生物は知っていても、猫と接したことがなかった。
 氷河はいきなり部屋に押しかけてきた猫に、人間が食するのと同じ物を与えた。
 だが一輝が忠告してからは、氷河は猫に一切、人間の食物を与えなくなった。
 歯が弱くなるからと、ドライフードばかりを皿に盛り、ドライフードは腐らないからと、猫が食べるまで放置するようになった。
 全て一輝と、その弟である、瞬の指示に従ってのものであった。
 本物の猫だとて餌を変えるときには、前の餌に少しずつ、新しく与える餌を混ぜ、慣らしてゆくものだ。
 それを--氷河はいきなりドライフードに切り替えてしまった。
 猫ならまだしも、猫に化けた老人には、その食生活はかなり不満であった。
 一輝のことは小馬鹿にしていても、攻撃まではしなかった猫に凶暴性が出たのは、その頃からであった。
--解ったか…ワシの人間の姿を捨ててまで得た楽園を、お前さんが無味乾燥なものに変えてしもうたんじゃ…。
 ふと老人が、何かを思いついたように言葉を切った。
--そうじゃ、ワシが出て行くことはない。この仙薬を、誰かがお前さんに飲ませれば…。
 老人の眸に陶酔の色が出た。
--ご老人、なにを考えて…。
 老人が氷河や瞬だけではなく、幻術を用いて不特定多数の人間に、この効能を説明し、仙薬を渡す。
 そうなっては沙織の呼び出しや、瞬からの招待などには応じられなくなる。
 瞬や星矢ならイタズラで済むが、沙織に仙薬の効能があるうちに“グラード財団の総帥の任を--ぜひ、あなたに--”などと命じられたら、一輝の気ままな生活は終わってしまう。
--よし、ワシは今から出かけるぞ。断固として外出する。
 勢い良く歩き出した爺の襟首を掴みかけた腕が、空を切った。
--待て、クソ爺ッ。
 一輝は拳を構えた。
 ここがどこなのかは解らぬが、部屋ではないのは好都合であった。この空間なら、壁や家具のことなど気にせず暴れられる。
--はて、なんじゃ、ソレは?
 老人はすっと、小さな眸を細めた。
--オレは今、お前を叩きのめすことに決めた。
 質(たち)の悪い生き物は追い払うに限ることに、一輝は決めた。
--後悔するぞ、お主…。
 老人が一輝に向き直った。
--鳳凰幻魔拳。
 性格の歪んでいる老人の精神を破壊すべく、一輝は老人に拳を向けた。
--若いのう、お主…。
 老人の掌の中に光煌めくモノを目にした一輝は、急いでその場から避けた。
--キサマ…なぜ、そんな物を…。
 老人が手にしていた鏡が幻魔拳の軌跡を跳ね返したのを目にして、一輝は狼狽した。
--ワシはこの仙術で、人間の精神に自由に入り込むことができる。お主の攻撃を躱すことなど、朝飯前じゃ。
 老人は胸を貼った。

経費削減(一輝とネコ19)

2013-08-20 01:50:00 | ノンジャンル
--まぁ、待て、ご老人…。この世知辛い世の中、あんな年をとった小汚いだけのネコを、わざわざ面倒を観ようという人間は、そうはおらんぞ。
--年をとったこ汚いネコで悪かったの…。
 老人は歩みを早めた。
--まぁ待て、短気は損気だというだろうが。
 一輝は老人を引き止めた。
--短気で粗暴なお前さんなんぞに、いわれたくはないわい。
 老人がムクれたのが、一輝には解った。
--解った、謝るから行くな。
 一輝は老人の前に出た。
--それが、人に謝る態度かな--。
 老人が上目遣いに一輝を見た。
--解った、済まなかった、だから行くな。いや、お待ちください。
 食事に仙薬等を混ぜられたくなかったから、一輝は素顔に頭を下げた。
 食事に仙薬なんぞを混ぜられたら--一輝は素直に頭を下げた。
--イヤ、やはりワシは出て行く、今の暮らしは、ワシの性に遭わん。
 老人は一輝を避けるようにして歩き出した。
--なにが性に遭わん。アレだけ氷河に可愛がられて。
 ネットや書籍でネコの生態」を調べた氷河は、ネコをブラッシングし、爪を切るなど、一輝が代わって貰いたいほどの世話を焼く。
--お前さんのせいだというのが、まだ解らんのか?
 老人は、またチラリと一輝を流し見た。
--オレが何を…。
 そこで一輝は言葉を切った。

「続く」


経費削減SS (一輝と猫18)

2013-08-16 02:56:00 | ノンジャンル
--待て、そうした場合、氷河はどうなる?
 氷河が自分のいない場所であの果実を口にするような事があれば…いや、口にした場所に他の人間がいたら--それを思う一輝の表情から、血の気が失せていた。
--そうじゃのう…この実は、飲ませた者の想いを叶える仙薬じゃから、あの青年が自分で口にすることはあるまい。ワシなら、普段態度の大きなお前さんに飲ませるがの…。
--老人は腕を組み、考える仕草を見せた。
--オレに飲ませてどうする。
 それなら願ってもないことであった。精力が倍増した一輝は、忽ち氷河を捻じ伏せ、押さえつける。
--お前さんは、呑気じゃの。
 老人は唇の端を吊り上げた。
--あの仙薬は飲ませた者の望みを叶える薬じゃ…あの青年がお前さんに部屋の掃除や料理をさせようと思えば、いくらお前さんでも--。
--待て。
 一輝は老人の言葉を遮った。
--待てといわれても、ワシは礼儀正しい人間じゃ。ここのところの恩義に報いんまま、ここを出て行くわけにはいかんのじゃよ。
 そう口にし、老人はまた一輝に背を向けた。
--待てというに。
 氷河に仙薬を与えると聞き、一輝は慌てた。
 氷河と同居をしてから、一輝は家事などはやったことがない。そういうチマチマとした細かいことは、氷河がやるものと決めていたからだ。
 が、氷河が食事にあの仙薬を混ぜたとする。
 あの氷河に、一輝の衣服を破ってまで、一輝を襲うように求めさせた仙薬であった。
 そんなモノを飲まされたら、立場が逆転してしまうではないかと、一輝は慌てた。
--ちょっと待て。
 自らに背を向け歩き出した老人に、一輝は声をかけた。
--ワシは今から無宿の身。早く次の宿を探さねばならんのじゃが…。
 一輝をチラリと見はしたが、老人は歩みを止めなかった。

「続く」

経費削減SS (一輝と猫17)

2013-08-13 01:50:00 | ノンジャンル
--そんな態度ではやらん。
 老人は突進してきた一輝を躱し、果実を素早く袋に戻すと、胸元にしまい込んだ。
--では、どうすればよこす?
 ここは、このスケベで性悪な老人が創りだした空間であった。あの素早さといい、一輝が闘いを挑むのは振りな状況にあった。
--ワシは困っておる。
--オレの知ったことか。
 この妖怪ジジイが困ろうと野垂れ死のうと、一輝には痛痒(つうよう)も感じない。
--オレの知ったことか? だと。ワシはお前さんのせいで窮地に追い込まれておるのだ。
 老人の言葉に、一輝は目を見張った。
 老人が猫に化け、部屋に居座ってから、一輝はこの猫には指一本たりとも触れていない。
--ジジイ、楽な生活をしすぎてボケたのか? せっかく磨いた仙道の技を、やわら鈍らせぬうちに野に出たらどうだ?
 そうすれば一輝も氷河も、この猫の皮を被った変態に煩わされずにすむ。
--黙らっしゃいッ。お前さんには敬老精神というものがないのか?
 老人は嘆いた。
--オレにそんなものがないことぐらい、自慢の鼻で嗅ぎ出せんのか?
 一輝は嗤った。
--まったくああ言えばこういう…解った、ワシは出て行く。
 老人は背を向けた。
--ちょっと待った。その果実は置いていけ。
 老人には未練はないが、老人の胸中にある果実には、有り余るほどの執着がある。
 なぜ、敬老精神の“け”の字もない人間に、大切な仙薬をやらねばならぬ?
 老人は背中越しに一輝を振り返った。
--これまでお前はオレの部屋に居座って、ふてぶてしく振舞っておったろうが。
 飯を喰らい、惰眠を貪り、氷河に抱かれ、全身をマッサージされ、さらには一緒に入浴までさせてもらっているのだ。
 コレ以上の贅沢はあるまいと、一輝は思った。
--ワシの面倒を見てくれたのは、あの金髪の好青年だもんね。そうだ、出立の礼に、あの青年にこの仙薬を渡すとしよう。
 老人はポンと、両の掌を打合せた。

「続く」