ロシア人の母を持つ氷河は、7つの年に日本にやってきてからは城戸の屋敷で育ち、その後に修業地であるロシアに送られ、聖闘士として日本に戻ってからは聖戦で寧日のない日々を送り、聖戦を終えてからは書類付けで、殆ど世間に目を向けることがなかった。
また、氷河自身も個人的にどこかに出かけようという性格の持ち主ではなかった。
日本で生活をすることになってからも、食事は自炊をしていたのだ。
その氷河が、インスタント食品の便利さを知ってしまった。
何かを食べている氷河の背中に声をかけ、ガス代に置いてある熱湯の入った薬缶を指差されたときに受けた一輝のショックなど、氷河は一生理解することはないに違いなかった。
なぜ飯を炊き、卵1つ割ろうとしないのかと、一輝は自分の不精は棚に上げ、嘆く。
今となっては仕事の合間に鍋に適当なものを放り込み作った氷河のスープが懐かしい。
時間があるときは、パスタを打ち、パンも焼いていた氷河であった。
その氷河がパッケージを空け、湯を注ぐインスタント食品を常食とし、一輝にもそれを強要する。
いっそ、幻魔拳で氷河の記憶を操作できないものか――。
幻魔拳を打ち込み氷河の、インスタント食品に対する記憶だけ消す。
いや、ダメだと、一輝は自分の考えを打ち消した。
以前、一輝は氷河の記憶を操作しようと、幻魔拳を打ち込んだことがあった。
ために氷河は小宇宙を失い、それを知らず氷河を伴い出かけた女神ごと、危機に晒したことがあった。
何事にも鈍い氷河は、自身の小宇宙が消えたことに気づかなかった。
女神を危機に陥れたのは自身の小宇宙が消えたことに気づかなかった氷河であり、聖闘士の小宇宙が消えていることに気づかず、現場に伴った女神自身である。
だが女神は、氷河の小宇宙が消えるきっかけを作ったと一輝に激怒し、一輝の小宇宙を封じるという、暴挙に出た。
ために一輝は氷河には肋骨を叩き折られ、街の不良に絡まれるという屈辱を味わうことになった。
今回、同じことをし、また氷河の小宇宙が変化することになれば、女神に何をされるか解らない。
物思いに耽り、正午のテレビを見ていた一輝の背後で扉が開き、氷河が姿を見せた。
一輝は薬缶に火をかける氷河を横目で見ていた。
薬缶に火をかけた氷河がインスタント食品の封を開けている。
おや、と一輝は首を傾げた。
いくら食に興味の乏しい氷河といえど、インスタント食品の種類は変える。
インスタント食品の種類は変えても、作り方は変えない。
薬味は湯と同時に入れ、スープや香油は余熱で暖めて、などというメーカー側の美味しく食べるための説明は無視し、氷河はなにもかも湯と同時に投入し、時間を待つ。
今日、氷河が手にしているのは四角いパッケージの焼きソバだった。
「な――」
一輝は出かかった言葉を呑み込んだ。
氷河はソースと薬味を投入したパックに湯を投入したのを一輝は見ていた。
止める気もないが、止める間もない出来事であった。
そのインスタント・焼きソバは薬味と湯を投入し、湯を捨てた後にソースをあえるというものであった。
だが氷河は、湯と同時にソースも投入している。
氷河は湯を投入した焼きソバのパッケージをテーブルの上に置き、雑誌を手繰り始めた。
一輝は氷河の様子を観察していた。
時を見計らった氷河が湯の満たされた焼きソバを箸で掻き混ぜている。
氷河が肩にかかる髪をピンで留め、万全の準備を整え、薄く色づいた麺を口に運んだ。
一輝は視線をテレビに転じた。
氷河が一輝の様子を窺っているのが解る。
氷河もそうだが、聖闘士たちは修業地で食べ物の貴重さは骨身に沁みている。食材を捨てることなど、あってはならないことであった。
やがて氷河は席を立ち、訳の解らない食材に成り果てた麺を調理し始めた。
以来――しばらく、氷河がインスタント食品を食卓に乗せることはなかった。
END
また、氷河自身も個人的にどこかに出かけようという性格の持ち主ではなかった。
日本で生活をすることになってからも、食事は自炊をしていたのだ。
その氷河が、インスタント食品の便利さを知ってしまった。
何かを食べている氷河の背中に声をかけ、ガス代に置いてある熱湯の入った薬缶を指差されたときに受けた一輝のショックなど、氷河は一生理解することはないに違いなかった。
なぜ飯を炊き、卵1つ割ろうとしないのかと、一輝は自分の不精は棚に上げ、嘆く。
今となっては仕事の合間に鍋に適当なものを放り込み作った氷河のスープが懐かしい。
時間があるときは、パスタを打ち、パンも焼いていた氷河であった。
その氷河がパッケージを空け、湯を注ぐインスタント食品を常食とし、一輝にもそれを強要する。
いっそ、幻魔拳で氷河の記憶を操作できないものか――。
幻魔拳を打ち込み氷河の、インスタント食品に対する記憶だけ消す。
いや、ダメだと、一輝は自分の考えを打ち消した。
以前、一輝は氷河の記憶を操作しようと、幻魔拳を打ち込んだことがあった。
ために氷河は小宇宙を失い、それを知らず氷河を伴い出かけた女神ごと、危機に晒したことがあった。
何事にも鈍い氷河は、自身の小宇宙が消えたことに気づかなかった。
女神を危機に陥れたのは自身の小宇宙が消えたことに気づかなかった氷河であり、聖闘士の小宇宙が消えていることに気づかず、現場に伴った女神自身である。
だが女神は、氷河の小宇宙が消えるきっかけを作ったと一輝に激怒し、一輝の小宇宙を封じるという、暴挙に出た。
ために一輝は氷河には肋骨を叩き折られ、街の不良に絡まれるという屈辱を味わうことになった。
今回、同じことをし、また氷河の小宇宙が変化することになれば、女神に何をされるか解らない。
物思いに耽り、正午のテレビを見ていた一輝の背後で扉が開き、氷河が姿を見せた。
一輝は薬缶に火をかける氷河を横目で見ていた。
薬缶に火をかけた氷河がインスタント食品の封を開けている。
おや、と一輝は首を傾げた。
いくら食に興味の乏しい氷河といえど、インスタント食品の種類は変える。
インスタント食品の種類は変えても、作り方は変えない。
薬味は湯と同時に入れ、スープや香油は余熱で暖めて、などというメーカー側の美味しく食べるための説明は無視し、氷河はなにもかも湯と同時に投入し、時間を待つ。
今日、氷河が手にしているのは四角いパッケージの焼きソバだった。
「な――」
一輝は出かかった言葉を呑み込んだ。
氷河はソースと薬味を投入したパックに湯を投入したのを一輝は見ていた。
止める気もないが、止める間もない出来事であった。
そのインスタント・焼きソバは薬味と湯を投入し、湯を捨てた後にソースをあえるというものであった。
だが氷河は、湯と同時にソースも投入している。
氷河は湯を投入した焼きソバのパッケージをテーブルの上に置き、雑誌を手繰り始めた。
一輝は氷河の様子を観察していた。
時を見計らった氷河が湯の満たされた焼きソバを箸で掻き混ぜている。
氷河が肩にかかる髪をピンで留め、万全の準備を整え、薄く色づいた麺を口に運んだ。
一輝は視線をテレビに転じた。
氷河が一輝の様子を窺っているのが解る。
氷河もそうだが、聖闘士たちは修業地で食べ物の貴重さは骨身に沁みている。食材を捨てることなど、あってはならないことであった。
やがて氷河は席を立ち、訳の解らない食材に成り果てた麺を調理し始めた。
以来――しばらく、氷河がインスタント食品を食卓に乗せることはなかった。
END