JINX 猫強

 オリジナルとかパロ小説とかをやっている猫好きパワーストーン好きのブログです。
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転生したら飼い猫だった件 (転生偏)最終

2023-01-04 20:48:56 | 日記

ーー可愛がられていたとは、どのように?

ーー我はクロ殿の声にふと、好奇心が湧いた。

ーー私はね、捨て猫だったんだよ。

ーー捨て猫とな?

ーーそう、小さな箱に入れられて、一人ぼっち…。

ーー人間に捨てられたのであるか? だったら、大切にされてはいないではないか。

ーーそっちの人間じゃあないよ。私は、私を拾ってくれた人間に大切に可愛がられて育ったんだよ。

ーーだが、人間であろう? 密室であろう? 本当は虐められたのでは…?

ーー皆まで云えなんだ。上部まで届く檻を叩く衝撃と、シャーという威嚇に我は思わず竦(すく)んでしまった。

ーーミヨちゃんは私を虐めやしなかったよッ、パパさんもママさんもとてもいい人達なんだ、まぁ…たまにイタズラはサれたけどね…。

ーーイタズラとはどのような?

ーー人間たちのことを思い出し、多少機嫌が良くなったクロ殿に我は問うてみた。

ーーそれはね、ヒゲを引っ張られたり…。

ーー引き抜かれたのかッ?

ーーバカをいうんじゃあないよ、そんなことをするわけないだろうッ!

ーークロ殿はまた檻をバンと、激しい勢いで叩いた。

ーーヒゲはね、ヒゲ袋が持ち上がるくらいに…。

ーーそこでクロ殿は言葉を切った。

ーーあんた、ヒゲを抜かれたことがあるのかい?

ーー問われ、我は頷き、あるだけ毟(むし)り取られたわ、と吐き捨てた。あのときの苦痛と恐怖と屈辱をを思い出しただけで、転がり回りたい衝動に駆(か)られた。本当に痛かった、涙が出るほど痛かった、実際に泣いたかも知れん。多分泣いた。

ーーあんた、本当に酷い目に遭ったんだね…。

ーークロ殿はため息を付いて言葉を続けた。

ーー耳を引っ張られたり…。

ーー切り取られたのかッ!

ーーバカをお云いでないよ。あんたは切り取られたのかい?

ーーおう、取られたとも、1つづつ、頭を押さえつけられーー暴れたが、人間の力には敵わなんだわ。言いながら、我は身体がが硬直するのが解った。恐ろしかった、痛かったぞ、一生忘れぬ、いや死んでしまった今でも忘れられん、人間を恨み、必ず報復してやると誓った行動の一つであったぞ。

ーーもう、この話は辞めようか…。

ーークロ殿も体を震わせたようじゃった。

ーーでもね、悪い人間ばかりじゃあないさ、私はブラッシングもしてもらえてね…。

ーーあの、鉄のブラシでか…毛が舞うからと云い、我を押さえつけ、何度も何度も、皮膚が破れても、あの鉄のブラシで我の身体を…。

ーー違う、違うよ、そりゃあ、鉄のブラシを使われてたこともあるけど、そんな痛くはされなかったよ。ご飯もちゃんともらえたし…。

ーーどうせ、何日か置きに、人間の食べ残しであろう…。

ーーそんなご飯だったら、死んじまう…。

ーーそこでクロ殿は言葉を切った、そう、察したのであろう、我が人間に受け続けた仕打ちを…。

ーーあんた…。

ーークロ殿は泣いているようじゃった。

ーー本当に、酷い人間に捕まっちまったんだね。

ーー人間は、外にいる我らにはご飯をくれるが、捕まえたらご飯も与えず虐めるのが楽しいのだろう? 我は拗(す)ねた。人間に連れ去られ、遊びに来た同胞が可愛がられ、ご飯もたくさん貰えていると話していた、我もそうなると思っておった、なのに何故、我はあんなに虐められたのだ。我のどこが悪かったのだ、我は、我はーー。

ーーあんたは、今度は幸せにならなきゃね。そのために転生したのかもしれないねぇ…。

ーークロ殿の言葉に我は物思いから醒めた。

ーー我が幸せに? 何故?

ーーあんたからはいい匂いがするよ。ここに来るまではご飯も貰えて、可愛がってもらっていたんじゃあないのかい?

ーーそういえば、我は一日に何度もご飯や、水をもらい、気持ちのいいこともたくさんしてもらっておった、しかし、何故なんじゃ?

ーーそれは、あんたを可愛がりたい人間に巡り会ったからだよ。

ーー我を可愛がりたい…?

ーーそうだよ、ご飯をくれるだけじゃあなくて、避妊までさせてくれるんだ。絶対にあんたを可愛がろうと思っているさ。

ーーいや。我は何かを巻き付かれたままの首を振った。人間には、我らを捕らえ、避妊し、放すという謎の行動を行っておる者もおる。我はきっとここを出たら、公園にリリースされ自由な生活を送るのじゃ。そう云いながらも我の胸が締め付けられて行くのが解る。

ーーいや、あんたからは他の猫の匂いがしないよ。あんたは絶対に飼われるよ、しかも猫好きのいい人間にね。

ーークロ殿はうんとうなずき言葉を続けた。

ーーあんた、人間に名前を貰わなかったかい?

ーーそういえば、あの人間は我を「ミケ」と呼んでおったが…。

ーー三毛猫だから「ミケ」かい? 安直だねぇ。だけど、私も黒猫だから”クロ”なんだけどね。

ーークロ殿が自分の身体を舐めている気配が伝わってくる。

ーーその時、扉が開き人間が姿を表した。

「ミケちゃん、お迎えですよー」

ーー看護師さん、と呼ばれている人間が我に歩み寄り、檻を開き、我をそっと抱き上げた。ゲージから出た我は、クロ殿の姿を初めて見た。クロ殿は我が思っていたのとは違う姿であった、声は若々しくあったがーーやせ細り、その腕には針が刺されたままテープで固定され、その針から伸びた管は、何かの液体に繋がれておった…。

ーーフフッ、見られちまったね。私は病気、もう長くはないんだよ。

ーークロ殿…。

ーーそんな顔をするんじゃあないよ。私はそんなに長くは生きられないと思うけど…18年も生きて、幸せなのさ。今でも、とても可愛がられているからね。

ーーそう云ってクロ殿は目を細めた。我はそのまま看護師さんに抱かれ部屋を出、それがクロ殿を見た最後であった。

 

■ ■ ■

 

ーー我は別の部屋で先生と看護師さんに飼い主に引き渡され、またあの部屋に戻った。

「ニャァ」

ーー我は人間に呼びかけたーー。早くこの訳の分からん巨大首輪を外さんかいッと、我は暴れまくった。暴れる我を人間は捕まえ…床に叩きつけられるッーーと思ったが、人間はそうはしなかった。

「やっぱ、エリザベス・カラーは嫌ですか?」

ーー呪文を唱えながら、人間は重苦しい首輪を外してくれた。ホウーーそなたは人間ではあるが、見どころがあるぞ。褒めてやろう。

「そんなミケちゃんのために、こちらをご用意しておきました」

ーー我は次に人間が取った行動に絶句した。巨大首輪を外した人間は、息を抜く間もない我の身体に布をーーうん? 身体が締め付けられる…。

「可愛いッ! ミケちゃん、見てみて」

ーー目の前に差し出された銀色の物体、うん? コレは知っておるぞ、鏡というヤツーー。

「ギャッ!」

ーーなんか、変な声が出た。な、何じゃこの姿はーー! 我はこのこの身体になって始めて毛を逆立てたわッ! な、何じゃコリャーッ!

「可愛いッ、ミケちゃん」

ーーコレ、我の身体を持ち上げるでないわ、か、顔を近づけるでないッ! スリスリするでないッ!

「ミケちゃん、痛い?」

ーー人間は我を箱に戻しながら口を開いた、痛い? なんのことじゃ?

「ごめんね、お腹、痛いよね?」

ーー人間は我の頭を指でそっと撫でた、いや…この場合、痛いのは心じゃ。な、何じゃ、この身体全体を覆う布は…グルーミングが出来んであろう…身体ペロペロは我の唯一の趣味なのだ。それが出来んとなると、舌が寂しいというか…。

「ごめんね…」

ーー何を謝る? 我は平気ぞ…いや、だが…この布を取ってくれたら、もっと平気になると思うぞ。

「ずっと、一緒だからね」

ーー人間は我の頭を1撫ですると、どこぞへかと行ってしもうた。

 ………。

ーー暇だ。

ーーおーい、人間…。

ーー我は人間を呼んだ。

「どうした、ミケちゃん? 寂しかった?」

ーー寂しくはないぞ、暇なだけだと、我はそっぽを向いた。

「疲れちゃうから、寝ようね…」

ーー人間は我の頭や、わずかに露出している肩を指で撫で続けた。その優しい感触に、我の瞼が重たくなった。

ーーなんか、気持ちが良いのう…。

ーー我は眠くなってしもうた…。

ーー心地よい…。

ーー眠りに落ちる瞬間、我はクロ殿の言葉を思い出した。

ーーあんたは、今度は幸せにならなきゃね。そのために転生したのかもしれないねぇ…。

ーー我が、幸せに…。

ーーそうだ、我は公園にご飯を持って来てくれ、皆を撫でてくれる人間を見ながら、もっと撫でて欲しい、抱いて、肩や、背中を揉(も)みもみして、喉も撫でなで掻きかきして欲しいと思っておった…。

ーー我は、人間を憎みたいと思っていたわけではない。

ーー甘えたいと、思っておった。

ーー我は、我は、可愛がって欲しいと、心の底から思っておったのだ。

ーーそれが今、叶っておったのか…。

ーー我にはもう、痛みも苦しみも、飢えもないということか…。

ーー我は、この人間の指に、頭を撫でられながら、安堵のうちに意識を手放していた。

 

 

転生したら飼い猫だった件 転生偏 終

 

 

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