モノトーンでのときめき

ときめかなくなって久しいことに気づいた私は、ときめきの探検を始める。

ブルークローバー(Parochetus communis)の花

2010-03-15 09:09:59 | その他のハーブ
(写真)ブルークローバーの花


心ときめく色というものがあるようだ。
色は形を得ることによってより鮮明になるが、えんどう豆に似た蝶形花はより鮮烈なインパクトを与えときめかせる。

このブルーは、ナポレオンの妻ジョゼフィーヌが捜し求めた「スイート・バイオレット・オブ・パルマ(Sweet Violet of Parma)」に似ていて、二度ときめいた。

「クローバー」は、マメ科トリフォリウム属に属する植物の総称で、属名はラテン語の「tres」(三)と「folium」(葉)に由来し三つの小葉を持つことを指している。

「ブルークローバー」も、三つの小葉を持ち「クローバー」のようでもあり、「オキザリス(カタバミ)」のようでもあるが、これらとは異なる植物だ。
「クローバー」は葉の先が丸く、「オキザリス」は葉の先が割れてハート型をしているので違いがわかる。

「ブルークローバー」の原産地は、距離の離れた二箇所で、ヒマラヤ、チベットなどの熱帯高地アジアとエチオピア、ケニアなどの北東熱帯高地アフリカ。この二箇所の「ブルークローバー」は別種という見方と、起源は北東アフリカという説がある。人類の起源と大移動とともにアジアに移動してきたのだろうか?

「ブルークローバー」を採取したプラントハンター
「ブルークローバー」を採取したのは、アメリカの医者でナチュラリストのフォースフィールド、トーマス(Horsfield, Thomas 1773-1859)で、1802年にマレーシアで採取したとある。

フォースフィールドは、1800-1819年までジャワで英国及びオランダの東インド会社で医師・薬剤師として勤め、かたわら動植物を採取することを行っていた。
彼が滞在した時期は、アジアでの覇権をオランダと英国が争っていた時期だったが、彼の科学的な姿勢が政治の変化にも影響を受けずに生き残れたようだ。

アメリカ独立戦争(1775-1783)後の1783年のパリ条約でアメリカ合衆国の独立が認められ、その7年後にはジャワに到着したことになるので、フォースフィールドは、東南アジアでの科学的な研究に従事した初のアメリカ人の栄誉を担った。

まさに、科学に真摯な姿勢で取り組んだフォースフィールドにふさわしい「ブルークローバー」の花色かもしれない。

さらに補足すると、フォースフィールドから100年後の1904年に、中国・雲南省の3000mの高地の谷間で「ブルークローバー」を採取した男がいた。

スコットランドのプラントハンター、フォーレスト(Forrest, George 1873-1932)で、
西欧人として未踏の地、中国・雲南、チベットなどの植物探索をした初期のプラントハンターだ。
1904年から1932年に愛してやまなかったこの地で死亡するまで冒険に飛んだ7回にわたる探検を行い、数多くの植物を採取しツツジ、サクラソウ、クレマチスなどを英国エジンバラ王立植物園などのスポンサーに送った。
発見した新種は1200種にも及ぶという偉大なプラントハンターでもあったが、実績を著作物として残すということをしなかったために栄誉は得られなかった。しかし、現地の言葉を学び、現地に溶け込んでいき、愛する雲南の地にいまも眠る新しいタイプのプラントハンターでもあった。

「ブルークローバー」は、対照的な素晴らしい二人のプラントハンターに発見され歴史に記録された幸運な花なのだろう。

(写真)ブルークローバーの葉と花


ブルークローバー(Parochetus communis)
・ マメ科パロケタス属の半耐寒性の多年草。
・ 学名は、Parochetus communis Buch.-Ham. ex D. Don(1802年命名)。属名のparochetusは、“教区parochial、教会parish”を意味し、種小名のcommunisは、ラテン語で“一般のcommon”を意味する。
・ 英名では、「ブルーオキザリス(blue oxalis)」「Shamrock pea(えんどう豆のようなクローバー)」。「ブルークローバー(blue clover)」は育種会社の流通名。
・ 原産地は、ヒマラヤ、チベットなどの熱帯高地アジアとエチオピア、ケニアなどの北東熱帯高地アフリカ。
・ 草丈10cm程度で茎は横に匍匐して広がる。葉は3葉でクローバーに似る。
・ 開花期は冬から夏までで、えんどう豆に似た蝶形花の美しいブルーの花が咲く。
・ 湿った土壌が適していて、高温多湿に弱い。夏場は風通しの良い涼しい半日陰で育てる。
・ 繁殖は、秋に株わけで殖やす。
・ ロックガーデン、ハンギングなどに適する。

学名の命名者
Buchanan-Hamilton, Francis (1762-1829)ブキャナン-ハミルトン、フランシスは、スコットランドの医者・動物学者・植物学者で、インドに赴任し1794年から1815年までベンガルMedical Serviceに勤め、1807年から1814年まで、ベンガルの政府の指示に従って、彼はイギリスの東インド会社の管区の中の地域の広範囲な調査をした。彼は地形学、歴史、古代遺物、住民の状態、宗教、自然環境(特に漁場、森、鉱山と採石場)、農業などを調査し報告した。
1814年にカルカッタ植物園の園長に任命されたが、病になり1815年帰国する。

Don, David (1799-1841)
ドン、デビットは、スコットランドの植物学者で、ブキャナン-ハミルトンなどカルカッタ植物園が採取した植物を分類し、ネパールの植物相の著作を編集した。


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7 コメント

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Unknown (isabella)
2010-03-16 11:02:12
ジョセフイーヌがこのような可憐な小さな花を好きだったのかどこでお分かりになるのですか?西洋の人たちがプラントハンターとしてアジアの国々を植物を採取して歩いていたというのが面白いです。雲南省は香港からも遠くないので、山がちで美味しいプーアール茶が取れるところですが、プラントハンターの目で訪れるのも面白そう。オダギリスという名前は前にもきいたことがあるような、、。一種の高山植物ですか?お引越しの件勘違いしました。香港にはシャンティという競馬場とハッピーヴァレーというところと二箇所にあり毎日のように緑のレース場を見渡せるのは生活に密着している感じです。日本人だけですね、競馬をギャンブルで好ましくないと思っている人もいるということは。
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isabellaさん (キャスパー)
2010-03-16 16:07:32
1800年前後のフランス、イギリスを初めとしたヨーロッパは、土地に裏付けられた王侯貴族から、新世界(植民地)を対象とした商業・産業が勃興した時期で、新しい豊かな階層は、それを誇示愉しむための新しいビジネスが誕生しました。珍しい草花を愉しむ花卉産業もそのうちの一つですが、ジョセフィーヌは、相当のお金を使って世界中から珍しい草花を集めました。何しろ英仏戦争中でも、ナポレオンに内緒で英国の育種商(リー商会)を使って集めたそうです。ちなみにブルークローバに似たパルマというヴィオラを集めたことは確かです。
これから1億人はいるといわれている中国の新興富裕層が世界の価値観を変えていく可能性がありますが、フランス革命があった1789年以降の激変に近い変化がおきるのではないでしょうか? 香港から日本を眺めると面白い時期でしょうね。
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私も大好きです。 (マツムシ草)
2010-03-16 22:46:54
(名前をkazukoから、マツムシ草に変えました。)

ブルークローバー、私も大好きです。

でも、うちでは結構残らず、地植えは難しいようです。
育て方をよく見ると、シロツメクサのように耐寒性は強くなく、半耐寒性なのですね。
そのせいか、あるいは土地が乾燥してるから難しいのかもしれません。
今は、幾鉢か、どうにかやっと残しました。

それで、よく見たら、うちも、もう蕾がありましたよ。嬉しいです。

フォーレストさん、雲南に骨をうずめたのですね。
そこでの生活を愛されたのですね。

でも、不思議に思うのは、フォースフィールドさんがジャワで、フォーレストさんが雲南・チベットで同じものを見つけたのでしょうか?

きっと種類が微妙に違うのでしょうね。

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マツムシ草さん (キャスパー)
2010-03-17 08:29:18
熱帯高地で湿ったところが適地のようですので、涼しく湿ったところ、夏場の日当たりの良いところは難しいでしょうね。
フォーレストは、命からがらに逃げ、飢餓との戦い、密林に潜み害虫・病原菌との闘いなど未開拓地を探索する様々な困難を経験し、その上での雲南が大好きという冒険家のようです。
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Unknown (isabella)
2010-03-17 20:01:59
なるほどなるほど。花弁ビジネス!セントポーリアのような花にまで心をうつさずにいられなかったくらいジョセフイーヌはお金にあかし寂しさを癒していたのですね。ご教示多謝!ポイントだけをこうやって教えていただけるのは大変ためになります。昔、ハーバードAMPの配偶者プログラム用分厚いテキストを同僚の米人記者は10分で要約してくれたことを思い出します。香港では暇にしていますのでしっかりこの国(国なのです)を観察してみます。
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イサベラさん (キャスパー)
2010-03-18 10:32:10
1800年代は意外と面白いなと思い始めました。1600年代の大航海時代が植物の大移動の始まりですが1800年代はそのそもそもを探索するという科学の探求が始まりました。
100年後の中国も成熟してこれからとは違う素顔を見せるかと思いますが、香港にきっとこの芽が既にありそうな気がします。
観察のレビューおすそ分けを期待します。
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カワカミさん (キャスパー)
2010-07-29 13:52:31
メッセージありがとうございます。
お役に立てれば幸いです。飲む合い間にコッコツ調べていますが飲みすぎで間違いも発生しかねませんので、ご指摘をお願いします。
返信できないようなので、コメントでお返しいたします。
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