アンブロシウス・ボスハールト『風景の見える石のアーチの中に置かれた花束』
また1枚の絵葉書が来た。
何とルーヴル美術館展に展示されている絵ではないか!
という出だしにしておこう。
サクラの時期にこのルーヴル美術館展を見に行ったがすっかり忘れていた。
フェルメールの『レースを編む女』だけで十分かなと思っていたが、実は2点ほど気になった絵があった。
1点目は『大工ヨセフ』(ジョルジュ・ド・ラ・トゥール、1642年頃の作)で、
大工仕事をするヨセフの手元をろうそくを持った孫かと思われる子供が照らしている絵で、解説では使徒ヨセフがイエスのための十字架を作っているという絵で宗教画として説明されている。
これよりは、ジイ様と孫が明日生きるために助け合って勤労している絵であり、生きる喜びを感じるし、勤労の美しさが伝わる写実的な風俗画として受け止めたい。
カソリック国家フランスでは、宗教画以外売れそうもないのに、オランダ同様に風俗画或いは写実主義的な絵を描く画家がいたので感心した絵だった。
解説を見ると、生前はやはり評価されずに苦労した画家のようだ。この画家がフランスでなくオランダで活躍していればフェルメールと並ぶ評価を得ることが出来たのだろう。
イエスキリストにこじつけなくとも、このあるがままの絵は実に素晴らしい。
気になった2点目の絵が、絵葉書でもらったものだった。
『風景の見える石のアーチの中に置かれた花束』
(絵葉書)
アンブロシウス・ボスハールト(Ambrosius Bosschaert 1573−1621年)
1619-1621年作、油絵、23×17cm、ルーヴル美術館蔵
この絵は、作品的には素晴らしいとは評価したくないが、記念碑的な絵であることは間違いない。何が記念碑かというと『花』が主役になっている或いは『花』を主役にした絵画が誕生した記念碑的な画家であり作品だからだ。
それまではボッテイチェリのプリマヴェーラ(春、1477-1478年頃、ウフィツィ美術館)のように、ヴィーナスの周囲に多くの草花を背景として描く程度だった。
花を主役にした絵画を「花卉画」というが、その始まりは17世紀の初め頃であり、16世紀を代表する画家ピーテル・ブリューゲルの次男ヤン・ブリューゲル(Jan Bruegel the Elder)
が描いた『木桶の花束』(1603年)が最初の「花卉画」のようだ。
ヤン・ブリューゲル、アンブロシウス・ボスハールトとも「花卉画」という新しい絵画の領域を生み出したパイオニアであり、「花卉画」を専門に描けるほど花の絵の需要がある環境になったということだろう。何しろ信じられないほど高いので記憶に残しておく価値があったのだろう。
「花卉画」の誕生の背景、絵画に描かれた花はいくらぐらいの値段だったのだろうかなど以前に書いたモノがあるので興味があればお読みいただきたい。
ときめきの植物雑学 その1 花卉画の誕生
ときめきの植物雑学 その2 花の値段
ときめきの植物雑学 その3 17世紀の絵画の値段
アンブロシウス・ボスハールトの『風景の見える石のアーチの中に置かれた花束』には、ユリ・バラが描かれていて、描くに値するほど高価であったようだ。
バラの種類としては、1600年代のこの頃には、中国のバラも日本のバラもまだ伝わってきていないのでヨーロッパ・中近東伝来のオールドローズたちのようだ。
白いバラがロサ・アルバ、ピンクの八重咲きのバラがキャベツのように巻かれているキャベッジ・ローズとも呼ばれたロサ・ケンティフォーリア、赤と黄色のバラが、1542年にイスラム圏からオーストリア経由で入ってきたロサ・フェディダと見た。
とわかるほど写実的に描かれている。
興味があればシリーズ「バラの野生種」で確認していただきたい。
バラの野生種:オールドローズの系譜③
バラの野生種:オールドローズの系譜④
上野西洋美術館で開催されている「ルーヴル美術館展」は6月14日に終了となるが、この展覧会は17世紀のヨーロッパの画家の作品が集まって展示されていて、記憶に残らない作品と鮮明に思い浮かべることが出来る3点の落差が大きかった。
17世紀はヨーロッパが中世から決別し、温暖な地中海から寒く厳しい自然環境の辺境へと発展し、これを支えた科学技術と粗野・野蛮が新しい世界を切り開いた世紀とも言えそうだが、それらがルーブル美術館展には入り混じっている。
好き嫌いはおいておくとしても見ておいて損はなさそうだ。
また1枚の絵葉書が来た。
何とルーヴル美術館展に展示されている絵ではないか!
という出だしにしておこう。
サクラの時期にこのルーヴル美術館展を見に行ったがすっかり忘れていた。
フェルメールの『レースを編む女』だけで十分かなと思っていたが、実は2点ほど気になった絵があった。
1点目は『大工ヨセフ』(ジョルジュ・ド・ラ・トゥール、1642年頃の作)で、
大工仕事をするヨセフの手元をろうそくを持った孫かと思われる子供が照らしている絵で、解説では使徒ヨセフがイエスのための十字架を作っているという絵で宗教画として説明されている。
これよりは、ジイ様と孫が明日生きるために助け合って勤労している絵であり、生きる喜びを感じるし、勤労の美しさが伝わる写実的な風俗画として受け止めたい。
カソリック国家フランスでは、宗教画以外売れそうもないのに、オランダ同様に風俗画或いは写実主義的な絵を描く画家がいたので感心した絵だった。
解説を見ると、生前はやはり評価されずに苦労した画家のようだ。この画家がフランスでなくオランダで活躍していればフェルメールと並ぶ評価を得ることが出来たのだろう。
イエスキリストにこじつけなくとも、このあるがままの絵は実に素晴らしい。
気になった2点目の絵が、絵葉書でもらったものだった。
『風景の見える石のアーチの中に置かれた花束』
(絵葉書)
アンブロシウス・ボスハールト(Ambrosius Bosschaert 1573−1621年)
1619-1621年作、油絵、23×17cm、ルーヴル美術館蔵
この絵は、作品的には素晴らしいとは評価したくないが、記念碑的な絵であることは間違いない。何が記念碑かというと『花』が主役になっている或いは『花』を主役にした絵画が誕生した記念碑的な画家であり作品だからだ。
それまではボッテイチェリのプリマヴェーラ(春、1477-1478年頃、ウフィツィ美術館)のように、ヴィーナスの周囲に多くの草花を背景として描く程度だった。
花を主役にした絵画を「花卉画」というが、その始まりは17世紀の初め頃であり、16世紀を代表する画家ピーテル・ブリューゲルの次男ヤン・ブリューゲル(Jan Bruegel the Elder)
が描いた『木桶の花束』(1603年)が最初の「花卉画」のようだ。
ヤン・ブリューゲル、アンブロシウス・ボスハールトとも「花卉画」という新しい絵画の領域を生み出したパイオニアであり、「花卉画」を専門に描けるほど花の絵の需要がある環境になったということだろう。何しろ信じられないほど高いので記憶に残しておく価値があったのだろう。
「花卉画」の誕生の背景、絵画に描かれた花はいくらぐらいの値段だったのだろうかなど以前に書いたモノがあるので興味があればお読みいただきたい。
ときめきの植物雑学 その1 花卉画の誕生
ときめきの植物雑学 その2 花の値段
ときめきの植物雑学 その3 17世紀の絵画の値段
アンブロシウス・ボスハールトの『風景の見える石のアーチの中に置かれた花束』には、ユリ・バラが描かれていて、描くに値するほど高価であったようだ。
バラの種類としては、1600年代のこの頃には、中国のバラも日本のバラもまだ伝わってきていないのでヨーロッパ・中近東伝来のオールドローズたちのようだ。
白いバラがロサ・アルバ、ピンクの八重咲きのバラがキャベツのように巻かれているキャベッジ・ローズとも呼ばれたロサ・ケンティフォーリア、赤と黄色のバラが、1542年にイスラム圏からオーストリア経由で入ってきたロサ・フェディダと見た。
とわかるほど写実的に描かれている。
興味があればシリーズ「バラの野生種」で確認していただきたい。
バラの野生種:オールドローズの系譜③
バラの野生種:オールドローズの系譜④
上野西洋美術館で開催されている「ルーヴル美術館展」は6月14日に終了となるが、この展覧会は17世紀のヨーロッパの画家の作品が集まって展示されていて、記憶に残らない作品と鮮明に思い浮かべることが出来る3点の落差が大きかった。
17世紀はヨーロッパが中世から決別し、温暖な地中海から寒く厳しい自然環境の辺境へと発展し、これを支えた科学技術と粗野・野蛮が新しい世界を切り開いた世紀とも言えそうだが、それらがルーブル美術館展には入り混じっている。
好き嫌いはおいておくとしても見ておいて損はなさそうだ。