モノトーンでのときめき

ときめかなくなって久しいことに気づいた私は、ときめきの探検を始める。

ジキタリス(狐の手袋)の花

2009-05-21 07:28:27 | その他のハーブ
(写真)ジキタリスの花


植物にも怪しげな花がある。
ジキタリスの花は、まさにそんな花だ。
筒状の花の外側は赤紫で、その内側は豹柄の紋が入り、この派手なサインは、どこかで見たような印象がある。

そう、“危険近寄るな”というサインだ。

毒を持った蛇、昆虫などが持つサインでもあり注意をひきつけるモノがある。
捕食者・敵などに襲われないように毒保有をデザイン・色彩で表示しているわけだが、賢い動物は、このデザイン・色彩だけを真似して捕食者に襲われないようにするという。毒をもっていないにもかかわらずさも毒がありそうにするのでこれを“擬態”といっている。

「ジキタリス」も草食動物に食べられないように危険のサインを出しているようだが、擬態では無く本当に毒をもっているという。

根元から生える葉は手のひらを上回る大きな葉でありロゼット状を形成し、
その中心から40cm程度の1本立ちの花穂を伸ばし、先端につぼみをつけ、下から順に開花するが、葉、茎、花全てに毒があるという。

初夏に咲く身近に生えている毒性のあるハーブとしては、白或いは黄色の大きなラッパ状の花が咲くチョウセンアサガオ、白い香りの良い花をつけるドイツスズランなどがある。これらは毒があるというサインを出していないので注意したい。

            

“魔女の秘薬”と近代
“魔女の秘薬”というものがあるそうだ。
いつの時代でもその時代の最先端医療で治らない病気がある。その困ったヒトがたどり着くところが“魔女の秘薬”でもあるようだ。

18世紀後半以前には「ジギタリス」がその“魔女の秘薬”であったようだ。
この“魔女の秘薬”の一つが「ジギタリス」であるということを突き止めたのがスコットランド人の医師ウイリアム・ウィザーリング(Withering, William 1741–1799)だった。
1775年の頃、ウィザーリングには、自分が治せなかった死が避けられない重病の患者がいた。ふと気になっていたらその患者がピンピンしているのを見て驚き、どうしたのかを尋ねると、民間療法の秘伝の生薬を飲みそれで治ったと言う。
教えを請うために会いに行ったところ、この民間療法の先生は老婆であり当然秘伝は教えられないと断わられた。しかし、ウィザーリングの熱意と粘りに負け20種以上の薬草の配合を教えた。

ウィザーリングが教えられた20種以上の薬草の中には「ジギタリス」が含まれていて、この薬草は激しい嘔吐を引き起こす毒物として知られていた。重病が治った患者も激しい嘔吐があったことがわかっているので、病を治した薬草は「ジギタリス」であることを短時間でつきとめたという。
毒は薬になるがこの毒の扱い方が難しい。ウィザーリングは、「ジギタリス」の薬効・その調剤方法・処方などの研究に没頭し、これらを取りまとめて心臓疾患の治療薬として近代医療にもたらした。

ところで、ヨーロッパでは、1600年頃を頂点に「魔女狩り」の嵐が吹き荒れた。このときに火あぶりになった魔女は4万人とも100万人とも言われるが、カトリック教の異端尋問にひっかかった魔女は、当時としては経験に磨かれた科学の実践者で賢い女のようであり助産婦、薬草を調合する民間療法の女・老婆などが多かったという。

ウィザーリングは、“魔女の秘薬”を手に入れたためか、老婆の民間療法の事例などに関して記録にまったく残さなかったという。
1600年以降にヨーロッパで勃興した近代科学の幕開けは、伝承的な経験科学を非科学として切捨てたがためにウィザーリングも記録に残せなかったのだろう。


最近では、観賞用の花として園芸品種が出回るようになったが、鑑賞だけしている分には問題がおきない。植物だけでなく、豹文様の派手なファッションをまとうヒトがいるが、遠くから眺めている分には問題がないということを教えてくれている。

(写真)ジキタリスの立ち姿
        

ジキタリス(狐の手袋)
・ゴマノハグサ科キツネノテブクロ属の耐寒性がある二年草。
・学名は Digitalis purpurea L.。属名のジキタリス(Digitalis)は指を意味するラテン語digitusから来ている。
・英名はFoxglove(キツネの手袋), Fairy caps(妖精の帽子)、和名は狐の手袋。
・原産地は英国を含む西ヨーロッパ。陽のさす森の中や、林の縁に生える。
・草丈60-100㎝程度と高く、根元から葉が出るロゼット状に表面にしわがある大きな葉が出る。
・その中心から花序が伸び、釣鐘型の花が下向きに咲く。
・開花期は、6-9月
・酸性土壌が適地。(日本の場合はほとんど問題ない)
・強心剤として使われるが、毒性があるため素人は絶対食しない。

学名はリンネが命名しているが、その元になったのは、ドイツの本草学者レオンハルト・フックスが1542年に出版した『植物誌』の中で「ジキタリス」を使用したことによる。

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2 コメント

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名前の妙味 (花ひとひら)
2009-05-23 23:27:54
「狐の手袋」という名前があったのですか。名前が楽しいですね。命名者に脱帽です。
派手なサインは「危険近寄るな」というサイン。これは人間にも言えるのでしょうか。
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花ひとひらさん (tetsuo)
2009-05-24 20:17:07
キツネの手袋は英語の直訳ですが、感性が英語、日本語とも同じものを有するということでしょうね。
英語での呼称を知らないでつけたとしたらなおさらでしょう!
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