国民的合意形成に向け議論を
死刑囚だった袴田巌さんが再審無罪となった事件は、無実の人が死刑にされかねない危険性を突きつけました。これまでに袴田さんを含め5件の死刑事件が再審無罪となっています。
国際的には死刑は人権にかかわる問題と考えられています。経済協力開発機構(OECD)加盟国38カ国中、死刑執行を続けるのは日本だけです。国連総会は死刑廃止を視野に執行停止を求める決議を9度採択し、日本は国連の人権機関から繰り返し死刑廃止の検討を求められています。
こうした流れを受け、日本弁護士連合会の呼びかけで2月に有識者、国会議員、警察庁長官・検事総長・日弁連会長経験者などからなる「日本の死刑制度について考える懇話会」が設けられ、11月に報告書をまとめました。
■根源的問題はらむ
報告書は現行の死刑制度と運用には多くの問題があり現状のまま放置できないとし、存廃を含め根本的な検討を行う公的な会議を国会及び内閣の下に設け、法改正に向けた結論を出すよう提言しました。
死刑は生命を奪うという「個人に向けられた究極の国家権力の行使」です。しかし人が裁判を行う以上、冤罪(えんざい)や量刑判断を誤る恐れが常にあります。報告書は、誤った判断で執行されれば「取り返しのつかない人権侵害」となり、他の刑罰とは異なる根源的な問題をはらむと問題提起しました。
運用についても、▽被告に有利な証拠も公判に出させるなど誤判を防ぐ手続きの制度化▽被害者遺族の支援強化▽死刑に代わる刑罰▽情報公開―などの早急な検討を求めました。
■刑罰の目的はなにか
報告書は、被害者遺族の心情とそれへの国民の共感を政策決定の基本に置くべきだとしたうえで、遺族の処罰感情が死刑制度の根拠になるかは別に考える必要があるとし、現代における刑罰制度の目的を論じます。そして、現代の刑罰は「目には目を」という応報ではなく、犯罪予防効果のない純然たる応報は認められるべきではないとします。
犯罪予防効果については、廃止・存続どちらの側からも科学的な証明はないとのべ、死刑をなくせば凶悪犯罪が増えるのではないかという国民の不安への対応を検討すべきだとします。
世論調査では国民の8割が「死刑もやむを得ない」とし、政府もそれを存続理由の一つにしています。しかし、国連の決議・勧告や袴田事件などを考えるとき、報告書が提起した人権問題や刑罰の目的、遺族の無念・苦しみを死刑という処罰によらず救う方策を冷静に議論することが求められています。
報告書は、遺族が極刑を望む要因に、遺族支援が欧州に比べて不十分で遺族が悲嘆のなかで孤立する状況があるとのべ、被害者支援の強化を訴えています。
林芳正官房長官は報告書に対し「死刑制度を廃止することは適当ではない」「存廃などを検討する会議体を設けることは考えていない」と検討自体を否定しました。議論を拒否し、運用の問題も放置する政府の態度は問題です。日本共産党は死刑制度についてさまざまな角度から検討し、廃止に向けて国民的な合意形成を図るべきだと考えます。
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