天津ドーナツ

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「魔女の一撃」をご存じか。…もとNHKアナウンサー塚越恒爾さんのブログから

2012-08-29 05:26:04 | 日本語学習法
一昨日のこと。
少し急な階段を下りていたとき、滑りそうになった。
手すりは左、右手を廻して握る。
途端に、背中にズキンと痛みが走った。
妙な予感がしたのだが、さほどのことはないと、高をくくって、その日は寝た。
朝、起きようとすると、腰に激痛が走る。起き上がることが出来ない。
「ああ、やっちまったか・・・」
起き上がるのを諦めた。
頭に浮かんだ言葉は「魔女の一撃」、オレの隙を、つけねらっていた魔女がいて、一撃を加えたのだ。



英語では「ウイッチズ ショット(a witch’s shot)、日本語で言えば「ぎっくり腰」、またの名を「びっくり腰」という。
忽然と・・・想定外の出来事だから、本人はびっくりするんだ。
語源はドイツ語、ヘキシェンシュス(Hexenschuss)らしい。
あの国には、魔女がどっさりいるんだな。

この予期しない激痛は、大別すると二種類ある。
やられたときはビクンと来て、次第に動けなくなるタイプと、いきなりガツンと来て動けなくなるタイプだ。
私のは前者だ。後者に比べると比較的軽く、直りも早いらしい。
それにしても、ちょいとやそこらで、直る気配はない。

さーて困った。
この週末の土曜、9月1日には、「ファンタ爺さんと言葉おじさんの不思議なコラボ」という催しを企画している。
「ファンタ爺」とは、私のことだ。
コラボが出来るか。舞台をどうするか。今はお先真っ暗。
立ち上がることもママならぬ。間に合うのだろうか。焦るね。
「なんとかなるかも・・・」
先生の言葉も頼りない。
治療とコルセットの甲斐あって、少々、快方に向かってはいるのだがね・・・
「そうだ、舞台に椅子を置いてやるか・・・いっそ車椅子にするか・・・」

考えてみると、5年前の脳内出血の時も、当方は「絶好調」だったのに、いきなりバシリッと来たね。
まるで「辻斬り」に出会ったみたいだった。
ひょっとすると、あの時も魔女だったのかな?
「魔女だとすると、女王クラスだったにちがいない。右半身全部やられたんだから・・・」
相当な手練れらしく、タクシーの中でやられたのに、降りるときに、はじめて分かった。
タクシーを降りようとすると、右半身が全く動かない。
「やられたんだ!」
そのまま、ゴロリドスンと歩道に転がっちまった。
あとは覚えていない。

それから、苦節5年と2ヶ月のリハビリ、ようやく人前で話せるようになっての、今回の企画なんだよ。
「ああ、畜生!チンピラ魔女の馬鹿野郎!なんてときに・・・」

だが、今出来ることは、安静にして、痛みを抑えるコトしかない。
気ばかりが揉める。
「折角企画した、NHKの“ことば”おじさん、梅津アナウンサーが語る“言葉の不思議”と、私と音読の会が綴る“元祖シンデレラ”の舞台なのに・・・」

・・・どんな格好で舞台に出てくるか。興味のあるかたは、

9月1日(土)、午後5時30分に大田文化の森においで下さい。
会費はワンコイン・500円のボランティア公演だ。ご家族揃って二倍楽しめますぜ。
どうぞ、お出かけ願って、「ファンタ爺さんならぬ、ギックリ爺さん」を見てやってくだされ。

・・・あははは、結局、PRになりましたな。悪しからず・・

* 過ぎ去った日々・夏の断想・甲子園…もとNHKアナウンサー塚越恒爾さんのブログから

2012-08-22 20:53:29 | 日本語学習法
 炎天下、青空がうらめしい。
 昨日(17日)のこと、日陰をよって歩いていたら、電信柱から、蝉の声が降ってきた。
 ・・・ツウク ツク ツク ボウシー ツクツクボウシー ツクツクボウシーー・・・
 何と、秋の蝉ではないか。
 「うへっ このクソ暑いのに、気の早い・・・」
 連日の暑さに、地下の蝉も耐えきれなくなったか。
 
 8・6も終わった。8・9も、8・15も過ぎていった。
 昔、見渡す限りの焼け跡に真っ赤な花が咲いていた。
 あの夾竹桃の赤が、私の心に刃を立てたのだ。
 だから、あの花が、未だに好きになれないでいる。
 早く終われ!八月よ。
 鎮魂の夏よ。
 この悲しさは、オレの心には重すぎる。

 テレビを点けると、甲子園だ。
 小学生時代、私は阪神沿線の鳴尾村に住んでいた。
 今では西宮市に合併されているけどね。
 あの頃の夏休みは、やたらに楽しかったな。
 ラジオをつけると、当時の中等野球の歓声が響く。(今の高校野球)
 ヒットを打ったのか、長打らしいぞ。
 一呼吸置いて、500メートル程離れた甲子園球場から、生の歓声が風に乗って聞こえる。
 この時間差が、小学生には、不思議でならなかった。
 「なぜラジオの方が早いんだ!」

 何はともかく、昼飯もそこそこに、外野の入り口に向かう。
 グランドの歓声が一際高く、聞こえる。
 ギンラギンラ、陽ざしが白一色の客席を焦がしている。
 外野席は、小人・無料。
 「カチワリ!」
 「マイドー!」
 氷を割るオヤジの手の動きが待ちきれない。
 ソフトアイスのコーンの形に紙を巻き、鋭い目抜きで“カチ割った”氷は、光るガラス色。
 そいつを、引ったくるようにして、外野の階段を駆け昇る。
 グランド全体が揺れている。
 「チャンスだ」
 白い帽子の応援団が乱舞する。
 ・・・
 野球という奴は、どちらか一方を応援していないと、間延びした、退屈なスポーツになる。
 当然、どちらかを応援する。
 「ボクはコッチ」
 「じゃ オレはアッチ」
 私の流儀は、弱そうなチーム、前評判の低いチームと決めていた。
 特段、該当するチームでないときには、白い帽子のチームに決める。
 紺色だの黒っぽい帽子は、なんとなく大人びて、強そうに思えるんだ。
 時には、両校とも白い帽子の組み合わせもある。
 そのときは、投手の小さい方を撰ぶ。
 今と違って、赤だの空色だのという帽子は皆無だったな。

 空いた席の辺りで、鬼ごっこの仲間入りをする。
 かけずり回りながら、グランドの歓声が高まると、足を止める。
 指を二本出して叫ぶ。
 「ミッキ ミッキ」・・・(タンマのことだよ)
 
 時には夕暮れになっても勝負がつかぬことがある。
 腹が減ってくる。
 一人帰り、二人減る。
 「もう帰るか・・・」
 グッショリ濡れたシャツ、足取りは重い。
 あとにした球場から、追い掛けるように、どっと歓声が上がった。
 足を止めて、振り返る。
 「白いチームが勝ったのかな」
 
 そうだ、思い出した・・・
 毎年、準決勝か準々決勝の頃になると、決まって、秋を告げるイワシ雲が空に浮かんだっけ。
 不思議にそうなんだよ。
 ・・・
 今でもね

音のイメージ 4 「あ」その二…もとNHKアナウンサー塚越恒璽さんのブログから

2012-08-09 08:51:41 | 日本語学習法
月の初めは、音のイメージ 
まずは、声にだして、お読みください
ーーーーーーー
・「ああー ほらほら 笑った笑った 可愛いねえ」
 ・・・孫ばか爺・婆、無邪気だねえ・・・どっちが?
・「ああ いいよ おまえの好きにやっとくれ」
 ・・・鼻の下、ずいと伸ばした誰かさん。
・「ああそう あーそうかい そんなら勝手におしよ」
 ・・・オカミサン、立て膝・キセルで長火鉢・・・古いねえ!
・「ああ・あー あきあきしたぜ そんな話は、聞き飽きた」
 ・・・みんな政治が悪いんだ
・「あーああー またやっちゃたんだねえー この子は」!
 ・・・分かってるねえ。
・「あーのね おっさん わしゃ かーなわんよ」
 ・・・知ってるかな、この人。
・「あっ」と驚くタメゴロウ。
 ・・・これなら知ってるでしょ。
・「あ、あ、あ」と鳴く明けがラス。
 ・・・晋作さんは三味線つま弾き、唄いました。
 「三千世界のカラスを殺し、主と朝寝がしてみたい」
・「あーあーあー」と、夕焼け空を、泣いてカラスはねぐらに帰る。
・「あっ そうか そうだったんだ 俺天才だ」!
 ・・・駑馬(ドバ)は、時々目覚めるものです。
・「あっかんべー」
 ・・・後ろを向いてからが本音なのさ。
・「あっは あっは あっはっは」
 ・・・「腹から笑えば うわっはっは」となる。だから「ワハハの唄」なのです。
・「あーん あーん」・・・は正しい泣き方?
・「あん あん あーん」・・・は騙しの泣き方?
・「あ、あ、あっ あ・あ・ああああ ああん」は???
・「あっつっつ の あっつっつ」・・・今日も日照りだ温暖化。
・「あーうーあーうー・・・」
 ・・・昔は、律儀な政治家がいらっしゃった。
・「あっつあつ」のうちに食べてくださいよ この焼き芋」!
・「あっちっちっち まだ皮に火がついてるぜ こんちきしょう」
・「あっぷあっぷ あっぷっぷ」
 ・・・あいつ、泳ぎかた知らねえな。
・アッパッパ着たオカミサン、アタフタ駆けだし「アラヤダヨ」
・・・どうした、どうした・・・
・・・あのあの あのさ あれよほら あれまあ ワタシったら 
・「笑ろたら負けよ アップップ」
・「あのね あのね あのねのね」 
 ・・・あのねの「あ」は「唖」かなあ「阿」かな、それとも「亞」かね、ひょっとして「蛙」かも、どのみち「吾」じゃないよね。



・狛犬さん 「ア」、狛犬さん 「ン」
・仁王さまも向かって右は「阿」と口開き、左側は「吽」と、睨んでござる。

・五十音も「あ」で始まって「ん」で終わる。
   //////宇宙の全てがこの中にいるからなんだとさ//////

・幸田露伴に「音幻論」という一文がある。
  音は幻(まぼろし)。言うねえ!
  曰く。
 「言語が変遷する所を掴みたいのが音幻論の生ずる所以で、言語が金石に彫刻したもののようにそのまま永存するものではないのは、恰も幻相が時々刻々に変化遷移するものである如く、生きて動くものである。そこで音幻の二字を現出したのである。・・・(中略)・・・
 しかし幻と言うても法無く動くものではない。法といふものは物と倶生するもので、・・・・
物があって、そこに法が存し、法と物と倶生のものであるからして、倶生の法則につきて、先づ観察を尽くしたいのが本意である。」

             ・・・・・今日はこれまで・・・・・・

「届いて、はじめて“ことば”になる」…もとNHKアナウンサー塚越恒爾さんのブログから

2012-07-30 18:56:09 | 日本語学習法
このブログを始めたころ、“ことば”に対する基本的な考えとして、「届かなければ“ことば"でない!」と書いた。
・・・いくら熱弁をふるっても、音が届かなければ、聞こえない。
・・・いくら大声で怒鳴ったとしても、意味が分からなければ、伝わりはしない。
・・・いくら明晰な言語で語っても、聞き手が聞こうとしなければ、やはり伝わらない。
 相手に届かなければ、どんな名言・名説でも、空中に拡散する只の音なのだ。



 「いいや、おれはちゃんと言ったぞ」
 そう頑張ったって、聞こえなければ、詮無い話さ。
 「直接、きちんと話したじゃないか」
 そう談じ込んだって、
 「そうは受け取れなかった」
 と、言われれば、それまでなのさ。
 相手が「聞こえる」言葉で話すだけじゃあダメなんだ。
 相手が「聴いて」くれなくては、相手に届いたとは言えないね。
 もう一度、“ことば”を替えて言おう。
・・・「届いて、はじめて“ことば”になる」・・・
この一年、うんざりするほど、「子供じみた論争」を聞く度に、なさけなくなるんだよ。

 ◎「言った」というが「聞いていない」
  そもそも、「行った」のがウソかどうか。 
  「言いに行った」のだけれど「そうは言わなかった」のか。
  「言った」けれども「そうは聞こえなかった」のか。
  「聞こえた」けれど、「伝わらなかった」のか。
 ーーーーいいかい。どちらにしたって「伝わらなかった」のなら「言ったことにはならない」のだよーーー。
・ 東電は「停電などの状況下だったので、直接「言いに行った」というが、浪江町長は「知らない、聞いていない」という。
 「何時来たのか」
 「13日だ」
 「そんな記憶もないし、記録もない」
 「いいや確かに言いに行った」
 「じゃあ誰が来たのか」
 「持ち帰って精査する」
 ーーーあのね。精査とは、「事細かに事実関係をつぶさに調べる」ということなのだよ。「13日」だというからには、「誰が行った」かぐらいは、分かっての話じゃなかったのかね。   
 この話。
 「行った」「来てない」、「言った」「聞いていない」・・・それほどに、不確かなコミュニケーションでしかなかったということだけは確かなようだな。
 ことは、人の命に関わることだ。はっきりした決着を知りたいね。
 
 ◎ 清水社長は「全員撤退」とは言っていないという。頭の中にさえ無かったという。ならば・・・
 ・なんと言ったのか。
 ・具体的に、どんな“ことば”で言ったのか。
 ・相手に、その“ことば”は届いたのか。
 
 ・官邸側は、口を揃えて「撤退」と受け取って、飛んでもないことだと思い、首相はへりで飛んだ。
 ・あとになって、東電の報告書は、「あれが問題を大きくした」と、逆ねじを喰らわしている。
 ・それならば、どんな表現で、どのように言ったのかを明らかにするべきじゃあないかね。
 ーーー自己正当化をするのは、人間の弱さだからな。ーーー
 
 ◎「大きな音だ」とドジョウ首相がつぶやいた。「音」とは何かと民衆は怒った。
 ・「声」を「音」としか捕らえていなかった人間に、信頼を寄せることが出来るだろうか。
 その舌の乾かぬうちに、「私の責任で・・・」と原発を動かした。なにほどの手当も完了していないというのに。
 
 ・「つい口が滑った」と言うが、「ふと漏らした“ことば”は、人間の本性をかいま見せる」。
 ・「腹に思い」があるからこそ、舌のスキマから本音は滑り出すのだよ。
 「衣の下の鎧が、見てとれる」というのとおなじだよ。

 ーーー政治には、つくづく愛想をつかしているので、「もう、書くまい」と思ってはいるんだけどねえ。まったくーーー

 音のイメージ3 「あ」その一 …もとNHKアナウンサー塚越恒爾さんのブログから

2012-07-08 06:05:37 | 日本語学習法

 新聞の訃報欄に、思いがけない人の名を見つけて、驚くことは多い。「え、あの人が亡くなったのか! あの人も・・・」
 そして、己の馬齢を顧みる。

 ☆☆☆波瀬満子(はせみつこ)本名・白波瀬智子さん。4月19日急性腎不全のため死去・・・劇団四季を経て、谷川俊太郎さんらと「ことばあそびの会」を設立。NHKの・・・☆☆☆

 波瀬さんに初めて会ったのは、代官山の小部屋での“会話会”だった。ゲストスピーカーとして参加していただいた。胸に大きな星の縫い取りをしたセーターを着て、大きな瞳をくるくる回しながら話し始める。
 ・・・神奈川の受賞身障児の施設で、子供を前に、「あ」という言葉だけで、対話をしたいと申し出た。施設長は笑って言った。
 「そりゃダメですよ。ココの子はね。話に集中して聞けるのは、せいぜい20秒ですから・・・」
波瀬さんは、絨毯の上に思い思いの姿勢で転がっている子供たちの中に立った。そして、さまざまな 「あ」という音を出し続けた。
 「あ あっ あああ あああああ あーあーあああ・・・」
 波瀬さんの表現力は無限に広がる。「あ」の音が打ち寄せる波の如く、川のせせらぎの如く、雲の行くなすが如くに続いた。「あ」の山道だ。「あ」の津波だ。
 子どもたちの表情が、次第に解けてゆく・・・
 やがて、子ども達は不自由な体をずらしながら、波瀬さんを囲んだ・・・中には涙を流して反応する子供もでてきた・・・
 もっとも驚いたのは施設長だった。
 そして一時間半、「あ」の音はようやく止まった。
 感動の渦が巻き起こった・・・
 
 聞き入っていた“会話会”の参加者の目には、涙が溢れていた。
 「人間の肉声の持つ表現力の地平」を誰もが感じていた。

 その波瀬さんに、私は頼んだ。
 「今、三省堂から“中学生向けの教材作成を頼まれている”力を貸してくれませんか」
 彼女は、全面的に、協力してくださった。
 「あっ あっ あーあ あ・あ・あ・ああーーーあっあああ・・・」

 久しぶりに、教材のCDのホコリを払って耳を傾けた。
 NHKの「あいうえお」の「オコソトノ姫」のイメージも浮かんでくる。
 もっと生きていて頂きたかった人だった。純粋に、日本語の音を楽しみ、味わうことを、実践し、教えてくれた人だった。
 「あ ああ ああああああ」
 素敵な人は、なぜ皆、逝ってしまうのか。
 大きい目を、倍の大きさに拡げて、波瀬さんは逝かれたのだろうか。
 「嗚呼」