音のイメージ⑥ 鋭い母音 “い音考”
さて月の初めは音のイメージです。
先月は「う→お→あ」という、日本語の“音のバックボーン”について話しましたが、今日は“い”音について述べましょう。
前述のように、“う”は口腔の奥で自然に出す音だし、“あ”は口腔全体を共鳴させて出す音、そして、その中間にある美しい響きを持つのが“お”なのですね。この三つの音は、いずれもけれんみのない母音らしい音ですし、日本語の音の組み立てからすると、音の土台というか、人間で言えば背骨・軸になる音なのです。
しかし、“い”の音となると、鋭い母音”と名付けているように、5つある母音の中で、最も硬い扱いづらい音なのです。
どちらかというと、子音に近い母音とでも言ったらよいのかも知れないのです。
少々、昔の話になるけれど、NHKの放送番組で金田一春彦先生には、数多くの番組に出演していただいた。
私も随分とインタビューしたことを想いだしますね。
テレビだと、対談でも台本があったりして自由がきかないのですが、ラジオの時などでは、先生は話の途中で、俄に歌い出されることもちょくちょくありましたね。
「あのね。高い音に“い”がくると、歌いにくいんですよね。声楽家の四家文子さんも、言ってましたがね、“a”とか“o”の音は歌いやすい音だけれど、“i”はイヤなの。歌いにくいのよって言ってましたよ。
ことに、高く延ばすところに“i音”が来るのが困る。
例えば、シューベルトの野ばらを日本語訳で歌うと、最後のレレミファソラシドーと歌い上げるところが、ほら♪♪♪ バラ、バラ、アカキー ♪♪♪ってなるでしょ。
「バラバラアカ」までの母音は、みんな“a”の母音なのに、肝心の最後の高く延ばすところにくると“i”になっている。
随分バカな訳詞をつけた人もいるもんだつって、彼女、怒ってましたねえ」
・・・・・・・
また、藤山一郎さんもご存命中は、紅白歌合戦の最後で、毎年「蛍の光」の指揮をされていたけれど、実は、自分では決して歌わなかったのは、有名な話です。
これは、私が若い頃、ご本人から直接聞いた話ですがね。
「本来、ことばにメロディーを付けるのが歌なのですが、翻訳の場合には随分無神経というか、言葉の音に逆らった節を付けているものがありますね。そんな歌は歌いたくないのです」ときっぱり言っておられた。
「でも、ご自分で指揮はなさるのでしょ そのときも・・・ですか」
「だってね。ホタールノヒイカーリと、出だしからして、“ほたる”でもない“ひかり”でもないでしょ。日本語のアクセントとは、まるでかけ離れている。それに高い音になると、なぜか“イ”が多くなる。ヒカリ、窓ノツキイー、フミヨムツキーイヒイー・・・いやですね。歌いたくなくないんです」
藤山さんのキッチリした姿勢や考え方が思い出されます。
・・・・・
“い”音を出すときは、口蓋の前の部分(手で触ってみると前の部分は固く、後ろの部分が柔らかいのが分かる)が主に共鳴する。
これは、「う→い→う→い」と繰り返してみると、はっきりと分かるでしょう。
よく、キンキン響く若い女性の声を「頭の天辺から出す声」と言いますがね。“い”音を強くだそうとすると、元来が堅い音なのに、喉の筋肉まで締め付けてしまう。喉を締め付ければ、頭蓋骨も響き始める。
聞いている方は、たまったものじゃあありませんぞ。
練習の方法としては、前記の「う→い→う→い」を繰り返しながら、喉の筋肉をゆるめてやることがコツでしょうかね。
日本人の発声で、もっとも大きな悪癖は、
① アゴを開かないで、口先だけ動かす。
② 喉を締め付けて音を出す。
この二つなのですがね。
ーーーーーーーーー来月につづくーーーーーーーー
さて月の初めは音のイメージです。
先月は「う→お→あ」という、日本語の“音のバックボーン”について話しましたが、今日は“い”音について述べましょう。
前述のように、“う”は口腔の奥で自然に出す音だし、“あ”は口腔全体を共鳴させて出す音、そして、その中間にある美しい響きを持つのが“お”なのですね。この三つの音は、いずれもけれんみのない母音らしい音ですし、日本語の音の組み立てからすると、音の土台というか、人間で言えば背骨・軸になる音なのです。
しかし、“い”の音となると、鋭い母音”と名付けているように、5つある母音の中で、最も硬い扱いづらい音なのです。
どちらかというと、子音に近い母音とでも言ったらよいのかも知れないのです。
少々、昔の話になるけれど、NHKの放送番組で金田一春彦先生には、数多くの番組に出演していただいた。
私も随分とインタビューしたことを想いだしますね。
テレビだと、対談でも台本があったりして自由がきかないのですが、ラジオの時などでは、先生は話の途中で、俄に歌い出されることもちょくちょくありましたね。
「あのね。高い音に“い”がくると、歌いにくいんですよね。声楽家の四家文子さんも、言ってましたがね、“a”とか“o”の音は歌いやすい音だけれど、“i”はイヤなの。歌いにくいのよって言ってましたよ。
ことに、高く延ばすところに“i音”が来るのが困る。
例えば、シューベルトの野ばらを日本語訳で歌うと、最後のレレミファソラシドーと歌い上げるところが、ほら♪♪♪ バラ、バラ、アカキー ♪♪♪ってなるでしょ。
「バラバラアカ」までの母音は、みんな“a”の母音なのに、肝心の最後の高く延ばすところにくると“i”になっている。
随分バカな訳詞をつけた人もいるもんだつって、彼女、怒ってましたねえ」
・・・・・・・
また、藤山一郎さんもご存命中は、紅白歌合戦の最後で、毎年「蛍の光」の指揮をされていたけれど、実は、自分では決して歌わなかったのは、有名な話です。
これは、私が若い頃、ご本人から直接聞いた話ですがね。
「本来、ことばにメロディーを付けるのが歌なのですが、翻訳の場合には随分無神経というか、言葉の音に逆らった節を付けているものがありますね。そんな歌は歌いたくないのです」ときっぱり言っておられた。
「でも、ご自分で指揮はなさるのでしょ そのときも・・・ですか」
「だってね。ホタールノヒイカーリと、出だしからして、“ほたる”でもない“ひかり”でもないでしょ。日本語のアクセントとは、まるでかけ離れている。それに高い音になると、なぜか“イ”が多くなる。ヒカリ、窓ノツキイー、フミヨムツキーイヒイー・・・いやですね。歌いたくなくないんです」
藤山さんのキッチリした姿勢や考え方が思い出されます。
・・・・・
“い”音を出すときは、口蓋の前の部分(手で触ってみると前の部分は固く、後ろの部分が柔らかいのが分かる)が主に共鳴する。
これは、「う→い→う→い」と繰り返してみると、はっきりと分かるでしょう。
よく、キンキン響く若い女性の声を「頭の天辺から出す声」と言いますがね。“い”音を強くだそうとすると、元来が堅い音なのに、喉の筋肉まで締め付けてしまう。喉を締め付ければ、頭蓋骨も響き始める。
聞いている方は、たまったものじゃあありませんぞ。
練習の方法としては、前記の「う→い→う→い」を繰り返しながら、喉の筋肉をゆるめてやることがコツでしょうかね。
日本人の発声で、もっとも大きな悪癖は、
① アゴを開かないで、口先だけ動かす。
② 喉を締め付けて音を出す。
この二つなのですがね。
ーーーーーーーーー来月につづくーーーーーーーー