tokyoonsen(件の映画と日々のこと)

主に映画鑑賞の記録を書いています。

『塀の中のジュリアス・シーザー』

2013-03-27 20:37:09 | 映画-は行
 すごい映画だなあと思った。
 どの部分が現実で、どの部分がフィクションなのか、舞台なのか、刑務所なのか、現在なのか、ローマ帝国なのか、分からなくなってくる。
 パオロ&ビットリオ・タヴィアーニ監督による、2012年・第62回ベルリン国際映画祭金熊賞、受賞作品。

 ローマ郊外にあるレビッビア刑務所で、演劇演習としてシェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』が上演されることになる。囚人たちを集めたオーディションの様子から、刑務所内の様々な場所での、練習風景。役にのめり込み同化していく囚人たち。それを眺める囚人たちもまた、次第に観客そのものとなっていく。そしてついにはローマ帝国の住人となり、目の前にキャシアスを見、ブルータスを見、アントニーの話を聞く。

 喝采、怒声。友情、裏切り、野心、企み、闘い、絶望。シェイクスピアによって書き込まれた様々な感情が、刑務所から舞台から洪水のようにあふれ出て、私たちもそこへ巻き込まれて行くのだ。
 囚人たちが帰るのは、監房だった。一人の囚人が、「演じることを知ってからは、監房は牢獄になった。」と言う。演じることで自由を知ったのだろうか。目の前の人生や、監房の生活はただ一つの現実ではないと、彼の日常は横にずらされたようだ。それを観る私も、関節はずしのような憂き目にあう。2012年、イタリア。