『 邇摩(にま)の海
磯に向かひて、
ひろき道。
をとめ一人を
おひこしにけり 』
***
磯への道を歩いていたら、前に一人の「をとめ」が歩いていた。
広い道だが、作者の前にも後ろにも、この「をとめ」以外誰もいない。
この土地の「をとめ」だろうか。
初めて訪れた土地だから、この「をとめ」について作者は何も知らない。
この「をとめ」は、とぼとぼと俯(うつむ)いて歩いている。
作者は自然と「をとめ」を無言で追い越した。
そのときも「をとめ」は俯いたままだった。
作者は、そのまま磯に向かって歩き続けた。
***
このうたも宿超空のうたに繰り返して現れる心象風景の一つだろう。
その心象風景とは、高市黒人(たけちのくろひと)の羇旅歌の心象風景である。
何処(いづく)にか船泊(ふなは)てすらむ 安礼(あれ)の崎
漕ぎ回(た)み行きし 棚無小舟(たななしをぶね) (万葉集巻一、五八)
すなわち、山本健吉の言う以下の心象風景だ。
『またと会うことのない小舟であり、船人であるが、たまたますれ違ったということに、人生のかりそめならぬ、だがかすかといえばかすかな、因縁を感じているのである。』
***
作者も二度とこの「をとめ」に会うことはないだろう。
かりそめの旅の途中の道で、たまたま追い越しただけという、それだけの『かすかといえばかすかな、因縁』を作者は感じ、その日の宿で、夜、作者は脳裏にこの「をとめ」を思いだしているのだろう。
***
国木田独歩に『忘れえぬ人々』という短篇がある。
私は中学生の頃読んだきりなので、内容はほとんど忘れてしまったが、
この短篇の雰囲気は憶えている。
この「をとめ」も、おそらく釋超空の「忘れえぬ人々」の一人だろう。
磯に向かひて、
ひろき道。
をとめ一人を
おひこしにけり 』
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磯への道を歩いていたら、前に一人の「をとめ」が歩いていた。
広い道だが、作者の前にも後ろにも、この「をとめ」以外誰もいない。
この土地の「をとめ」だろうか。
初めて訪れた土地だから、この「をとめ」について作者は何も知らない。
この「をとめ」は、とぼとぼと俯(うつむ)いて歩いている。
作者は自然と「をとめ」を無言で追い越した。
そのときも「をとめ」は俯いたままだった。
作者は、そのまま磯に向かって歩き続けた。
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このうたも宿超空のうたに繰り返して現れる心象風景の一つだろう。
その心象風景とは、高市黒人(たけちのくろひと)の羇旅歌の心象風景である。
何処(いづく)にか船泊(ふなは)てすらむ 安礼(あれ)の崎
漕ぎ回(た)み行きし 棚無小舟(たななしをぶね) (万葉集巻一、五八)
すなわち、山本健吉の言う以下の心象風景だ。
『またと会うことのない小舟であり、船人であるが、たまたますれ違ったということに、人生のかりそめならぬ、だがかすかといえばかすかな、因縁を感じているのである。』
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作者も二度とこの「をとめ」に会うことはないだろう。
かりそめの旅の途中の道で、たまたま追い越しただけという、それだけの『かすかといえばかすかな、因縁』を作者は感じ、その日の宿で、夜、作者は脳裏にこの「をとめ」を思いだしているのだろう。
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国木田独歩に『忘れえぬ人々』という短篇がある。
私は中学生の頃読んだきりなので、内容はほとんど忘れてしまったが、
この短篇の雰囲気は憶えている。
この「をとめ」も、おそらく釋超空の「忘れえぬ人々」の一人だろう。