〈2012.12.08 sat 13:00~〉
戸田奈津子さん講演
「字幕の中に人生 女(ひと)と男(ひと)、ともに豊かに生きる」
【講演memo】
津市長挨拶
ライフワークバランス充実に向けて津市で取り組んでいる事が二つある。
1.幼保一元化に向けてこども園の検討を行っている。
2.子どもが公園で遊ぶ姿を見なくなった。
公園の担当(津市建設部)からは、近年劣化した公園の遊具を取り外してきたと聞く。
子どもが集う公園で、世代を超えた子育てができるよう考えていきたい。
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戸田奈津子さん講演
昨日東京では地震でグラッときた。
3.11の時は東京に居なかったが、今回は自宅に居たので怖い思いをした。
北の方の皆様は苦労をしていらっしゃると思う。
世の中の変化がスピーディになり、5年前に考えられた事がもう現実になる。
激変の時代。
私は映画の中に生きている。
5年前の映画の中の事が、今起こっている。
映画のデジタル化は画面がクリアすぎる。映画はぼやっとしたところに良さがある。
20世紀の映画と21世紀の映画は異質。
映像がCGに変わった。コンピューターで映画を創る。
最初にCGで映画を創ったのはジョージ・ルーカス監督「スター・ウォーズ」
これは宇宙オペラだと思う。
※ここで水を口に含み
「翻訳家は机に向かっているので声は使わない。」と云い会場の笑いを誘う。
「スター・ウォーズ」は全部で6話。4・5・6・1・2・3話の順で制作された。
なぜ4話からか?
制作者のビジョンを表す(表現する)技術が無かったので4話から創られた。
ジョージ・ルーカスがティーンエイジャーの頃のビジョン(考えた事)を
人に語りたいという思い(ストーリーテラー)から映画が造られたが、
技術が無く語る事が出来無かった。
ぬいぐるみではリアリティが無い。
映画を創りながらその収入で技術を開発した。
ヨーダは最初ぬいぐるみで登場し、後半からCGに変わった。
「ジュラシック・パーク」の恐竜がのっしのっしと目の前を歩く映像に私は腰を抜かした。
人間は新しい玩具を使いたい。つまり人間は新しい技術を使いたい。
CGが使われ過ぎて今は食傷気味。
バットマン、スーパーマンといった「〇〇マン」は人間では無く技術が主役。
映画は人間が主役である。
CGは何でも可能にする。つまりお金の力で何でも可能にできる。
CGは、
ジョージ・ルーカスが子どもの時に描いた事を人に伝えたいという思いがきっかけで成熟した。
ジェームズ・キャメロンの「タイタニック」は儲かった。
儲かったお金を3Dの開発に賭けた。
少年の頃に考えたお話を立体で見せたいと考えた。
それが「アバター」。
その後3Dが流行し多くの作品が創られたが、価値が有り素晴らしいのは「アバター」だけ。
それは映像が素晴らしいから。
ジェームズ・キャメロンは3Dカメラのデザインから考えた。
日本のSONYのカメラ制作にも貢献している。
CG・3Dが映画を変えた。
少年の夢が映画を変える原動力になった。
これが人間の素晴らしさ。
アメリカ人のパイオニア精神は日本人とは異なる。
向こう(草原の彼方)には何が有るか分からないが向かっていく。
海の中は分からない。
ジェームズ・キャメロンは潜水艇でマリアナ海溝を1万m潜った。
未知に挑む。チャレンジ精神が人間の世界を変えていく。
ノーベル賞を受賞するdr.山中の未知の世界にチャレンジするパイオニア精神はスゴイ。
若い人にバイオニア精神を開拓してほしい。
そうすれば世の中が変わっていく。
2人の少年が考えた事が映画を変えつつある。
進歩にはプラスの面があり素晴らしいが、反面マイナスの面もある。
ネガティブな面が必ずある。これは事実で決して忘れてはいけない。
字幕の世界は変わった。
昔は外国映画は字幕で観た。
「007」は35作まではすべて字幕で創られた。
今上映中の36作は初めて吹替で創られた。若い人が好むからだ。
字幕の付いた映画は日本だけ。外国はすべて吹替え。日本だけで俳優の本当の声が聞こえた。
実は貧しい国には字幕が有る。安価に制作できるから。
また、カンヌ映画祭にも字幕がある。これは業界者向けに特別に作られている。
何故日本人は字幕を好んだか。
日本人のマインド。
1.外国に興味がある。
外国の現状を知っている。
2.俳優の声を聴きたい。
私はゲーリー・クーパーとショーン・コネリーが好き。
外国人は文字を読むのが面倒がる。
3.識字率が高い。これは過去形で、今は活字離れが進んでいる。
アメリカはメキシコ・キューバなどからの移民が多い。
日本のホームレスは新聞を読んでいる。
ニューヨークのホームレスは毛布代わりに使う。新聞は読まない。
日本人が日本語から離れる。亡国。
字幕に難しい字を入れると若い人は読めない。
漢字は見ただけで分かり、文字に意味が有る。
平仮名ばかりでは読めない。
また、意味が分からないないのでやさしい言葉で書いて欲しいとも言われる。
文化が落ちている。
良い本を読むと自然に入ってくる。
携帯に文字を打つのは情報。文章ではない。
自分の言いたい事を紙に書くことは素晴らしい。
戦争末期に生まれ、戦後小学生時代を過ごした。
東京は全くの瓦礫。3.11の映像と同じ。
ボランティアや行政の支援も無く食べるモノが無かった。
娯楽の無い時代に映画にはまった。
映画有りきの人生。
もともと本が好きで、本の世界がビジュアルになったのが映画だった。
映画が学ばせてくれた。
中学になると英語を初めて教わった。ABCというアルファベットを初めて見た。
好きという事の持つパワーがモチベーションになる。
例えば恋愛は自分から能動的に相手の事を知りたくなる。
私の場合は映画だった。
英語も映画の一部として興味を持った。好きな事に引っ張られて勉強した。
興味(モチベーション)の有るものから好きになる。
どうすれば英語が好きになるか。
戦後70年、同じ事を云っているが日本人の英語力は低い。
◎自分の好きな事から入りなさい。
良いアプローチで、勉強としての意識が無い。
好きな分野から入る。
好きな事が有りませんと云われると腹が立つ。カッとくる。
好きな事が無いのは自分を知らないから。
自分の小さい頃を見失っている。
子どもには必ず好きな事がある。
白けた子どもはいない。
情報を知りたいためにボーナスとして入ってくる。
大学時代は勉強より、好きな映画をたくさん観た。
その頃字幕を意識した事が無かった。
良い字幕は意識させない。
下手であったり、文字が読めなかったりすると、字幕を意識する。
当時DVD等無かったので、今この日しか一生観られないと思って映画を観た。一期一会。
その頃字幕の事は意識しなかった。
映画を真剣に切ない気持ちで観ていた。
職業の選択において嫌いな事はしたくない。好きな事は何か考えた。
映画と英語。
「字幕を仕事にする」と決める。やりたい事が見つかったが、世の中は甘くない。
どんな仕事もどんな時代も同じ。
字幕の世界を初めて知った。
東京にしか無い。
10人足らずの人間だけの世界。
全部男性。大学を出たばかりの女性の自分では口も利けないようなジェントルマン達ばかり。
女性が入れる世界ではなかった。
字幕の世界は門が無い。塀で囲まれている。
ドアが無いから20年間塀の周りをぐるぐる回った。チャンスが無かった。
大学卒業後10年間は映画の世界に近づけなかった。
排他的でプロの世界。
30才を過ぎ臨時雇用で洋画会社に採用された。
タイプライターができた。英語を書いたり読めたりできた。
そんな時、海外から俳優が来日。
今では当たり前の事だか、当時は非常に珍しい事で、通訳が居なかった。
宣伝部長(水野晴郎)から通訳をするように云われた。
英語を書いたり読んだりは出来たが、通訳は出来ないので断った。
宣伝部長は言い出したら聞かない。
30過ぎるまで外国人と喋った事が無いのに、いきなり記者会見に出された。
無我夢中。絶望的。
一年後再来日。
あんなに下手だったので断ったら、あれでいいからやって欲しいといわれた。
語学力が全てでは無いと学んだ。
映画の事は知っていた。英語は下手でも知識があれば話せる。
その分野の事をどれだけ知っているか。
語学力プラス知識(教養)がある事。
成り行きで通訳が一人歩きしたものの、会話はやれば巧くなる。
プラクティス。
頭の中での勉強だけではダメ。しかし基礎知識は大事。
何でも基礎は重要。基礎力が無ければ成長は無い。
通訳の仕事は、本当に会って現場の話が聞けるので嬉しい。
フランシスコ・コッポラ「地獄の黙示録」は映画を超えた映画。
撮影は2年間に亘り、フィリピンのジャングルでロケが行われた。
彼は好奇心が旺盛。
フランシスコ・コッポラとの交流の中で、40代の時初めて日本から出してもらった。
「君は何をしたいの。」と尋ねられ「字幕がしたい。」と答えた。
そしたら地獄の黙示録の字幕を「戸田さんにやらせて。」とオファーがあった。
大作で苦労した。
それまで字幕の仕事は10作ほどしかやった事がなかった。
それから、1本/週くらいの仕事がふりかかった。
字幕の仕事は一人で1本、1週間で仕上げる。お情けがあっても10日で仕上げる。
忙しかったが、20年間待った仕事なので嬉しくて嬉しくて、無我夢中でこなした。
好きな事をやっているのは楽しい。
長い文章を短くするのが字幕の難しさ。
喋っている間に読みきれるように日本の文字を入れるのが、字幕翻訳の特徴。
文学の翻訳には文字数の制約が無い。
1秒間に3文字が基本ルール。
翻訳は日本語力がないと出来ない。
英語力は当たり前。
日常会話を短いことばで表現する。
助手は使わない。ドラマを一人の感性で翻訳する。分業の出来ない仕事。
「The Iron Lady」に主演したメリル・ストリープは本当に素晴らしい女性。
女性としての素晴らしさ。
演技の上手さは周知の事実。
質素でブランド物は持っていない。煌びやかな服装はしていない。
大女優であり、妻・母・チャリティ(素晴らしい)。
しつも朗らかで尊敬している素晴らしい女性。
男性ならロバート・デ・ニーロ。
第一線で活躍し経験に裏付けされた戸田奈津子さんのお話に何度も頷き、ふふっと笑い、
背筋が伸びるような気持ちになりました。
講演の後、戸田奈津子さんが字幕を書かれた
「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」を観賞。
イギリス初の女性首相の栄光と挫折を描いた作品。
子どもや夫との家庭生活で敵わぬ事、鉄の女であらねばならない苦悩と政治での決断。
結局孤独である自分を俯瞰し苦しむ女性をメリル・ストリープが演じ切る。
慌ただしい師走の午後を、素晴らしいお話と映画で過ごしました