風天道人の詩歌、歴史を酒の肴に

短歌や俳句の鑑賞を楽しみ、歴史上のエピソード等を楽しみます。
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世の中に 在原業平 (比歌句 15 右)

2018年03月24日 | 和歌

世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし 在原業平(ありわらのなりひら)

 

「世の中に桜というものがなかったならば、うららかな春に、私の心はどんなにのどかになることだろうか。」

 

惟喬親王一行が鷹狩りに出かけ、「なぎさの院(親王の別荘)」に立ち寄った際に、桜の木の下で歌を詠むことになった。その時にお供として随行していた業平が詠んだ歌とのこと。

「世の中にたえて桜のなかりせば」と詠いだしたところで、その宴に居た人々は、きっと詠っている人に注目しただろう。「桜がなかったら、春の情緒なんかあったもんじゃあない。さわ、どう詠い次ぐのか。」

「春の心はのどけからまし」で、お見事とやんやの声援を送ったことだろう。

ユーモアと情感を上手に合体させて、桜に恋焦がれている気持ちを表現している。

 

ついでだが、業平はこういうきわどいユーモアが好きだったのだろう。

藤原基経の四十歳の算賀で

<桜花散りかひくもれ老いらくの来むといふなる道まがふがに>

と詠っている。

「桜花散りかひくもれ老いらくの」で祝いの歌で禁句のような<老いらくの>と詠った時点で、その場にいた人々は、はらはらしたと思う。

<来ると聞き及んでいる道が分からなくなるまでに>で、ああそうかと納得したしたと思う。

<老いらくの>に意識が集中してしまっているところに、やっと、<桜花散りかひくもれ>が繋がったからだ。将に際どいユーモアだ。