わが母の白き歯見ゆれ―。我が哭けば、声うちあげて、笑ひたまふなり 釈超空(しゃく ちょうくう)
この歌だけでは、意味が判然としないかもしれない。この歌の前の一首は、
我が父の持てる杖して 打ちたゝくおとを 我が聞く―。骨響く音
今で言えば、家庭内暴力(ドメスティック・バイオレンス)だ。
子供を骨が響くまで杖で殴りつける父親。
そして、その暴力泣く子供を見て、白い歯が見えるまで大きく笑っている母親。
子供の心は荒むのだ。辛いのではない。悲しいのだ。
上記の歌は『倭をぐな』に載る一首。それ以前の歌集『海やまのあひだ』には、以下の一首が載っていた。
病む母の心 おろかになりぬらし。わが名を呼げり。幼名によび
幼い頃の呼び名で呼ぶことをどうして「おろか」になったと感じたのか、そのことが引っかかっていた。この頃ははっきりとは言い難かった告白を<わが母の>でしたのだ。
偉大な民俗学者(折口信夫)となった人の心の傷だ。