ちょっと困った曲です。はっきり言ってしまえば、後期のマーラーにしては内容的深みに乏しいような、もしかしたら全部の交響曲の中でいちばんとりえがないかも、ちゃらちゃらマンドリンなんか使ってるし、5番のハープと似て非なるものだぁ……なんてことでお仕舞い、ここで取り上げるのもやめとこって思ってたんですよ。何回聴いてもだいたい同じような印象だし。
「おまえもちょっとは兄さんや弟を見習ったらどうなんだ?」
「えーん。そんなこと言われたって……ぼくってお父さんの子じゃないの?」
かわいそうな話です。少年の純真な心を考えると涙が出そうです。どんな子どもにもキラリと光るものがあるはずです。やさしく母は言います。
「……えっと、『夜の歌』って言うのに歌がない、こりゃおもしろいじゃないか」
「ナハト・ムジークをそう訳しただけだよう。それじゃモーツァルトの『アイネ・クライネ……』もおもしろいってこと?」
「違うよ。母さんが言ってるのは、そのナハトなんとかがスケなんとかを挟んで2回出てくるってことだよ」
「シンメトリカルな構成なんて、ぼくらの兄弟にはいっぱいあるじゃないか。母さん知らないの?」
「知らないわけないだろ! おまえたちをおなか痛めて産んだんだから。大変だったんだよ。最初の頃はお金もなくて……」
「……ごまかしてる」
ね?困った曲でしょ?他のまあまあの作曲家だったら間違いなく代表作になれるくらいの実力の持ち主なのに……
ただ私がここで持ち出したのは、これをマーラーの代表作だって言う人がいるからです。しかもかなりクラシック(特に現代音楽)を聴き込んでて、私ともわりと意見が一致する人が。謎です。夜の湖の深みのように。
どなたか解明してくれる方はいませんか?