昨年入院した時は、達子や光子はすぐに見舞いに来たが、2度目ということもあって(輪子は父親に言われたように言うことができた)、1週間以上経ってから見舞いに来た。ただ前回とは違う姉の様子、特に肉が落ち、顔色が妙に黄色いことに驚き、病室を出るなり、達子は地下の喫茶店に、光子は薬局の前の長いすに、宇八を引っ張って行って詰問した。やはり姉妹というものは、同じような反応をするものだと彼は感心した。その時に . . . 本文を読む
○スーク交響曲、ヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲:ノイマン、スーク、チェコ・フィル
孫のヨセフ・スークがヴァイオリニストとして非常に有名なので、同じ名前の祖父(1874-1935)も名前は知っていましたが、作品を聴くのは初めてです。ドヴォルザークの娘を妻にしたから言うわけではありませんが、義父の音楽と似ていて、シンフォニーはあまり感心しませんでした。幻想曲は孫が弾いたもので、内容的にはヴァ . . . 本文を読む
9 病院の神々~コンムニオ
我々はこれから悲しい話ばかりしなくてはならない。すぐ前にルーカス神父の帰国について触れた。その傷が癒えたかのように見えた頃、翌年の2月から話を再開しようと考えているが、その主な内容は栄子の闘病と死である。これを悲しまずしてどうしようかと我々も思うが、ただそれを悲しみの色だけで語っていいのだろうか。我々の物語の登場人物たちは、悲しみという通奏低音の上に様々な色 . . . 本文を読む
アニュス・デイ(神の小羊)は、通常のミサでも歌われますし、アグネスという女性によくある名前との関係もあって広く知られていると思います(アグネス・チャンとかアグネス・ラムとかいうと年がばれちゃいますがw)。これはヨハネ福音書の第1章第29節で、洗礼者ヨハネがイエスを見て、「見よ、世界の罪を消し去る神の小羊。私が『私のあとから来る人がある。その方は私に優る方である。私より先におられたからだ』と言っ . . . 本文を読む
9月のお彼岸にいつものように、教会におはぎを持って行った。ルーカス神父も見舞いに来てくれていたので、そのお礼の意味もあって家族3人で行ったのだった。入院時に病院の食事に辟易していた栄子がこっそりと大福餅を輪子に持って来させたのが口に白い粉が付いていて看護婦に見つかってしまったといったエピソードなどを話しながら、みんなおはぎを2つ、3つ食べた。神父が淹れてくれたお茶もお代わりした頃、神父が訊い . . . 本文を読む
フランシス・コッポラの映画「地獄の黙示録」は79年の作品ですが、日本では80年の公開だったと思います。“Apocalypse now”(現代の黙示録)という原タイトルですが、「地獄」ってつけたのは、キャッチーではあるでしょうけど、必要以上におどろおどろしい感じ印象を与えたのかなって思います。しかし、むずかしい話は抜きにして、戦闘ヘリで「ヴァルキューレの騎行」をかけながら、機関銃でヴェトナムの住 . . . 本文を読む
○ダラバーコ協奏曲集:コンチェルト・ケルン
ダラバーコDall’abaco(1675-1742)はトレルリの弟子にして、コレルリと並び賞せられた作曲家だそうです。ただ彼らに比べると地味で、あか抜けないような鈍重さを感じざるを得ません。演奏はそうした前期バロックっぽい感触をうまく出していて、落ち着いた気分にさせてくれます。
○シュミット交響曲第4番、シェーンベルク管弦楽のための変奏曲:メータ . . . 本文を読む
東京から帰ると宇八は、『アニュス・デイ』の構想をまとめていった。弦楽五部と通奏低音のオルガンだけなので、そんなに複雑なことはできない。独唱と合唱に工夫をすることにした。かつて親戚の新年会でやった十字形の配置を思い出した。これは、シュッツも『音楽のお葬式』の演奏で推奨している配置でもあった。教会の場合の奥、祭壇のある方にソプラノの独唱を置き、そこから反時計回りにアルト、テノール、バスと配置する。 . . . 本文を読む
ブックマークの最初に掲げているHPですが、ずっとほったらかしにしてて、ひさしぶりに見たらなんだか広告ががちゃがちゃ入ってやだなって思いました。でも、gooの簡単HPなんで、無料だから文句を言う筋合いではありません。
元々はここで連載していた物語「すべてがデータになる前に」をまとめて載せようと思って作ったんですが、どうも簡単HPの造りは日記向けで、いろいろやってみましたが、物語を最初から読ん . . . 本文を読む
その次には電話のベルで目が覚めた。ホテルの電話のベルというものは、音が小さすぎるか、大きすぎるかのどちらかだ。この時には、後者の方で、びくっと飛び起き、電話の向こうで植村がかんかんに怒っているような先入感を持って、
「あ、すみません」と出るなり謝ってしまった。
「伯父さん、どうしたの? おはよ、もう10時だよ」
「ああ、おはよ。二度寝しちゃったよ」
「昨日の晩、遅かったんじゃないの?……まあい . . . 本文を読む
○ヤナーチェク弦楽四重奏曲(クロイツェルソナタ、内緒の手紙)&バルトーク弦楽四重奏曲:東京クヮルテット
ヤナーチェクの弦楽四重奏曲は今ひとつユニークさや切れ味に欠けるような気がして、それはこの演奏でも払拭できなかったですね。バルトークの弦楽四重奏曲はショスタコーヴィッチと並ぶ名作ですが、演奏は間然するところがないって言えばいいのか、優れた演奏なんでしょうけど、最高峰の4番や5番でリズムにしても . . . 本文を読む
宇八は渋谷に向かった。演奏が行われるホールの中の会議室で、打ち合わせが行われるからである。電話で道順を聞いていたにもかかわらず、駅で降りてから道に迷ってしまった。元々方向音痴っぽいところがあるにもかかわらず、こっちからも行けるはずだと、人通りの少ない方をわざと選んだりしているうちにわからなくなり、さらに道を変えるとまた傷口が広がっていく。この時期にはめずらしいかんかん照りである。……早めに到 . . . 本文を読む
7月初旬のある日の午前、宇八と月子は仲良く新幹線の座席に座っていた。
「伯父さん、夜あたしに変なことしないでよ」
「おまえ、期待してるのか?」
「お生憎様。夜は別行動だから」
「ふん。そんなところだと思ったよ。……こっちはダシにされてるようなもんだ」
「へへ。……彼ってさ、バンドやってて、すっごくギターうまいんだよ」
『知り合い』が新幹線に乗ったとたんに『彼』になっている。民家がまばらになる . . . 本文を読む
○ブルックナー交響曲第3番&第8番:セル、クリーヴランド管弦楽団
セルって名前くらいは知ってましたが、ほとんど聴いたことがなかったです。浅薄な本場趣味みたいなのが私にはあって、何もドイツ系の音楽をアメリカのオケで、しかも過去の人の演奏で聴かなくても言うことだったんだろうと思います。第3番は初稿と第3稿(だったかなw)では同じ曲と思えないほど違っていて、ブルックナーのシンフォニーは12曲あるなん . . . 本文を読む
8 さらば聖徳太子~アニュス・デイ
1981年2月にローマ教皇ヨハネ・パウロ2世が来日した時は、大騒ぎだった。ルーカス神父を始めとした教会関係者が大忙しだったのはもちろんだが、栄子もあちこち走り回っていた。この時には、日本中ににわか信者、ミーハー信者が大量に発生したのだった。もちろん宇八は、こんな一時的なブームにはそっぽを向いていた。ヴァチカンの実態も、政治的な思惑も知らないおめでたい奴 . . . 本文を読む