夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

ウィーンで観た絵画~ヤウゼ

2005-08-31 | art
 ムソルグスキーの「展覧会の絵」はとても好きな曲で、ホロヴィッツがピアノで弾いた演奏なんかで聴くと、“プロムナード”がいかにも美術館の中を歩いている感じが出ていて気に入っています。ムソルグスキーがどういう意図で曲の流れを断ち切るような構成にしたのかは知りませんが、かえって展覧会らしい知的と言うか、クールな印象を与えているように思います。  でも、絵から絵へとずっと歩いていくと疲れるものです。美 . . . 本文を読む

ジャパン・レクイエム:Requiem Japonica(28)

2005-08-30 | tale
 会いたくて仕方がない相手から連絡があると年がいも何もなく、喜んでしまうものである。それほど電話の向こうから百合から連絡があったことを伝える仲林の声は弾んでいた。  春分の日の前夜にご都合がよろしければまた父がお会いしたいと申している、先日よりもっと具体的詳細に商談として話を進めたい。ついては、いくつか書類もご持参の上、どこそこの中華料理店にご足労願えないか云々といった内容を、欽二は律儀なメッ . . . 本文を読む

昔と今のリンク~1978-79年:不確実性の時代

2005-08-29 | review
 ガルブレイスの「不確実性の時代」が78年に紹介されるや言葉が独り歩きし、大きなブームになりました。その当時の世情と人びとの心情を的確に表したからだろうと思いますし、今でも“Uncertainty”確かなものがない時代は続いていると言えそうです。この年には「落ちこぼれ」や「窓際族」という言葉が流行しています。その後は、学力低下とリストラになりますが、みんながキラキラした目をして頑張ればささやかで . . . 本文を読む

私のバッハ体験~ブランデンブルク協奏曲

2005-08-28 | music
 ウィーンに住んでいたときに、バッハの生まれ、働き、亡くなったテューリンゲン州を中心とする地域を車で旅行したことがあります。アイゼナハ、ミュールハウゼン、ヴァイマル、ケーテン、ライプツッヒといったところですが、数時間のドライヴで次の町にいくことができるような狭い地域で、バッハが生涯のほとんどを過ごしたことが実感できましたし、自分の好きなペースで回ることができて、とても幸せでした。管弦楽曲、室内楽 . . . 本文を読む

ジャパン・レクイエム:Requiem Japonica(27)

2005-08-26 | tale
 焼肉屋での興奮覚めやらぬ次の日曜のミサには、百合の姿はなかった。宇八と欽二が拍子抜けしていると、終了後ルーカス神父が歩み寄って来た。 「羽部さんのレクイエムを東京で見せて、わたしがオルガンで少し弾いたらですね、とても評判になりました。植村さんとか、安田さんとかも、あ、テレビで司会のお仕事をされている方です、植村さんは。安田さんは霞が関のお役所の方です。いつもどうしたら教会に来られる方を増やし . . . 本文を読む

ウィーンで観た絵画~レンブラント「自画像」

2005-08-25 | art
 自画像の名手はレンブラント(1606-69)とゴッホだと私は思います。確かあの駅舎を改造したオルセー美術館だったと思いますが、そこで見たゴッホの自画像は向こうからゴッホが睨みつけているような恐ろしい眼光を放射していました。その精神の燃焼力の凄まじさと自分で耳を切り落とした直後の「パイプをくわえた自画像」の精神の荒廃との落差は痛ましい限りですが、彼だけが描きえた人間の心の解剖図とでも言うべきも . . . 本文を読む

ジャパン・レクイエム:Requiem Japonica(26)

2005-08-24 | tale
 ところが、思わぬところから救いの手は差し伸べられるものであった。以前にも同じような言い回しをしたのかも知れないが、単なる偶然である。2週間後のミサの後で、宇八が百合の顔を見るのが半分、煮詰まった状態の『オフェルトリウム』について神父と議論したいのが半分で、説教壇の近くで待っていると、欽二が袖を引っ張って、 「おい、探したか?見つかったか?」と訊く。  宇八は(カモノハシならともかく)カモ探しは . . . 本文を読む

今日聴いた音楽~マーラー“シンフォニー第8番”

2005-08-23 | music
 マーラーのシンフォニー第8番変ホ長調(1907年)は広く知られているように“千人の交響曲”と呼ばれる巨大な作品ですが、そのため象を撫でているような捉えようのなさを私は感じていました。あまりの大編成で、家庭のステレオでうまく再現するのは困難ではないかと思いますが、今回バーンスタイン、ウィーン・フィルらによるDVDで映像とともに聴いて(観て?)、少し中身がわかったような気になりました。  マーラ . . . 本文を読む

映画の中の女性~小津安二郎「東京暮色」

2005-08-22 | art
 この作品は1957年(昭和32年)のもので、「早春」と「彼岸花」の間の時期に作られた、すなわちモノクロ最後の作品です。小津監督は54年に「今度は何か一つ、変わったものをやらないかとよく人から云われる。そんな時、いつも僕は、豆腐屋なんだから、精々、豆腐の他、焼豆腐か、油揚げか、飛龍頭しか出来ないのだ、と返事をする。そう変わったものは、一人の僕からは生まれそうにもない。今のところは、うまい豆腐を、 . . . 本文を読む

レクイエム・ノート~シャルパンティエ「深き淵より」

2005-08-21 | music
 シャルパンティエ(1643-1704)はルイ14世、すなわちフランス絶対王政の絶頂期に活躍した作曲家で、華やかながら深さも兼ね備えていて、音楽史全体を見ても極めて高い位置を占める存在ではないかと思います。彼は3つのレクイエムを作曲しているそうですが、そのうちのH.(ヒッチコックによる作品番号)7は、キリエ、怒りの日(最初の2節のみ)、サンクトゥス(前半)、ピエ・イエス(怒りの日の最終節)、ベネ . . . 本文を読む

ジャパン・レクイエム:Requiem Japonica(25)

2005-08-20 | tale
 翌週の日曜日は朝から粉雪がちらつくほどの寒い1日だったが、ミサに参列した二人のにわか信者は、白いハイネックのセーターを着た百合の姿を見た時、同時に「神様のお導き」という言葉を思い浮かべていた。ルーカス神父の言葉など聴いていなくても、斜め後ろから彼女の姿を見ながら、「本当に百合のようだ」などとあらぬことを鼻をうごめかせながら考えているだけで、眠気に襲われる心配はなかった。  ミサが終わって、 . . . 本文を読む

今日聴いた音楽~山田耕筰ピアノ作品集

2005-08-19 | music
 山田耕筰(1886-1965)と言えば、北原白秋作詩による「からたちの花」、「この道」、「ペチカ」、「待ちぼうけ」や「赤とんぼ」(三木露風)、「兎のダンス」(野口雨情)などで知られていますが、まあ由紀さおりあたりが歌ってる昔懐かしい日本の歌をいっぱい作った昔の人って感じでしょう。ところが、このピアノ曲集の解説書を見るとベルリン留学の帰りにモスクワに行ってスクリャービン(1872-1915)に心 . . . 本文を読む

映画の中の女性~「ビューティフル・マインド」

2005-08-18 | art
 この映画のストーリー紹介では、次のように書かれています。「1947年秋、数学者ナッシュがプリンストン大学の大学院に到着するところから始まる。すべてを支配する真理、真に独創的な着想をみつけたいと、数学の研究に没頭する彼は、ときに変人にも見えた。友だちはルームメートのチャールズだけ。方程式で占められた頭に、遊びや恋の入る余地はなく、いつも研究への焦燥感でいっぱいだった。だが、数年後、あるひらめきか . . . 本文を読む

ジャパン・レクイエム:Requiem Japonica(24)

2005-08-17 | tale
 頬を冷たく切るような寒風の中をアパートに戻ると、仲林欽二が勝手に上がりこんで、ストーブにあたっている。 「やあ、お帰り。部屋暖めておいたぜ」  宇八は欽二の表情に、おやと思ったが、それには触れずいつもの調子で応えた。 「人の家のストーブを勝手に使って暖めておいたもないもんだ。……それより現われたぜ、時木百合が、教会に。色っぽいぜ」  そう聞くと、欽二はくるりと90度回って、宇八に向き直って、 . . . 本文を読む

レクイエム・ノート~モーツァルトのレクイエムの補筆について

2005-08-16 | music
 モーツァルトのレクイエムは映画「アマデウス」以降、宗教曲としては異例の人気を誇っているように思います。曲の内容のすばらしさだけでなく、謎の人物からの作曲依頼といった伝説が夭折した天才の最期を飾るのにふさわしいと考えれられたのでしょう。  私としては彼の最高傑作は「フィガロの結婚」か「ドン・ジョヴァンニ」、ジュピターなどだろうと思いますが、この曲もザルツブルク時代に多く書いた宗教曲の土台の上に . . . 本文を読む