うえぽんの「たぬき鍋」

日々のつれづれ、野球ネタ、バカ話など、何でもありの闇鍋的世界?

重い扉、開く。(その4)

2014-08-09 00:30:30 | 野球
代わり端こそ不安定で「こんなんで帝京打線抑えきれるの…?」と悲観的な目線で見ていた2番手の大江くんだが、ピンチを迎えても全く動じるそぶりがなく、常にひょうひょうと腕を振って投げていた。本人には悪いが、見た目は小柄だし線も細いし、あまりにもひょうひょうとしているからすぐには気付かなかったのだが、しばらく見ている内に、彼の凄みがジワジワと伝わってきた。とても1年生とは思えない。8、9回はいずれも2死からバックのミスでピンチを迎えるも、不思議とピンチに見えない投げっぷりで、帝京の強力打線を抑えてみせた。「まさか」が、起こるかも知れない…!

延長10回表の二松の攻撃は、1死から2番・北本くんが弾丸ライナーでサードの頭上を抜いた。長打かと思われたが、レフトの小幡くんが素早いダッシュで追いついて、単打で止める。このあたりがやはり帝京の強さだ。1死一塁で、3番・キャプテンの竹原くん。今日はここまで3打数ノーヒットである。手堅く行くなら、2死にはなってもバントで北本くんを得点圏に進めて、前の打席で同点タイムリーを打っている4番・小峯くんへ回すという作戦もあったろう。しかし、市原監督はベンチから物凄い目力で「打ってこい!」と竹原くんに無言のメッセージを送っていたらしい。ワタシも
「セコいことせずに、長打で一気に北本くんをホームに還すぐらいの勢いで打って欲しいなぁ」
と思っていた。そして、レフト方向へ目をやり「レフトが結構前にいるから、左中間をうまく抜けてくれたら…」と、理想的な弾道をイメージしていたその瞬間、竹原くんが、帝京・清水くんの投じた落ちる球を掬い上げた!

「あ、今イメージした通りの打球だ…!」

打球は、スローモーションを見るかのように、左中間へ向かってフワリと舞い上がり、フェンスまで転がっていく。一塁走者の北本くんが一気にホームインして、喉から手が出るほど欲しかった5点目が入った。何て理想通りの展開!従来なら、こんな想像してたらショートかセカンド正面へのゴロになってゲッツーになるのがオチだった。これも、今までとは違う。まぁ、そこから追加点が入らないあたりはいつも通りだったが(笑)。

勝ち越し点を入れたとは言え、相手は何度も涙を呑まされ続けた強豪・帝京である。「このまますんなりとは終わるまい。最後の瞬間まで、気は抜けない!」という覚悟のもと、10回裏の守りを祈るように見つめる。動画機能付きのデジタルカメラを持参して「優勝の瞬間を動画で撮れれば…」と思ったが、「録画を始めたとたんに何かあるんじゃないか」と思うと、とてもスイッチを入れる勇気は出なかった。動悸が高まってくる。並んで見ているりゅーや氏やミッチー氏も同じような心境だったのではなかろうか。お互いに口数も減っていた。
先頭の5番・清水くんは懸命にファールで粘るも、最後は大江くんが高めの速球で詰まらせてセンターフライ。続く6番・安竹くんは緩い変化球を打たせてセカンドフライ。大江くん、この期に及んでもまったく緊張のそぶりが見えない。中継を見たら、笑顔さえ浮かべているではないか。こいつは大物だ!

最後の球、7番・笠井くんが放った緩いバウンドのゴロが、やけにゆっくり見えた。セカンドの三口くん、捕れるかな。序盤にエラーしてたから心配で…よし、捕った!一塁送球、大丈夫かな。慌てないで、落ち着いて…よし!ファーストの小峯くん、こぼすなよ。間に合うかな…間に合った!終わった…勝った!勝った!!勝った!!!

頭の中が真っ白になった。りゅーや氏、ミッチー氏とともに、拳を振り上げてただただ絶叫していた。今までの人生で、応援しているチームが優勝する瞬間を生で見届けるという経験は初めてであったが、こんなにも気持ちが良い、こんなにも素晴らしいものだとは。この日も、一度は心を折られかけていただけに、喜びもひとしおであった。
ワタシは、プロ野球ではベイスターズを応援しているが、ファンになってから優勝までにかかった年数は12年。しかも、あと一歩のところで優勝を逃すという経験も、優勝前年の1回だけである。対して、二松は応援するようになってから夏の予選で優勝までにかかった年数は19年。しかも、あと一歩のところで優勝を逃したのは実に5回もある。だから、二松の今回の優勝の方が、喜びの濃さで言ったら上かも知れない。

二松が初めて夏の予選決勝戦に出たのが、ワタシが生まれる前の1971(昭和46)年。それから43年、11度目の正直。重かった、本当に重かった、夏の甲子園への扉が、ついに開いた。選手たちには、プレッシャーはあまり感じずに、とにかく目一杯楽しんでプレーしてもらいたいと思うが、願わくば1勝して、アルプススタンドに高らかに校歌を響かせていただきたいものである。

ちなみに、コインロッカーの下に消えた100円玉は、二松が負けたら取りに行くつもりだったが、勝ったのでそのままにしておくことにした。あれが良い「厄払い」になったのだとしたら、安い安い!(笑)

(終わり)