あゝ惨五連隊の凍死兵
やがて途中鳴沢から数町手前の小高い丘で軍銃の逆に立っているのをみた。
大尉が渋い顔をしていった。
「どんな馬鹿が銃を捨てたのか」と憤慨の様子。
吾等に命じてその銃を担がせて進むと又も一丁発見した。
これをも担がせて鳴沢の峡をよじ登り、小屋より北方へおよそ十五・六町
(今の銅像の地点)に達した時は午后時頃と思われる。
此の地は北西に面し、青森市を一望のもとに眺めることができる場所。
遠く函館と相呼びあうことが出来る地で高さ千二百尺、
冬季になって寒風が吹けば何物でも吹き飛ばすと云う難関の高所である。
此処より田茂木野村へと目指して下っても暴風は尚止まない。
すでに案内者各自は疲労が甚だしく、意識ははっきりせず眼はもうろうとして白雪も色彩を帯び、
着衣は上下共(麻織製)氷結して少しも曲がらず棒のような足で夢遊病者のように降りて行った。
ふと黒色の物を発見し近寄って見ると凍死兵!
是が五連隊雪中行軍遭難兵であった。(後刻判明)
嗚呼彼等はこの難所で一命を失ったのか、 仰向けに打倒れ銃を握り締め眉毛に雪が凍りついている。
一同は深く冥福を祈りつゝ吾身に引き換えこの惨たらしき屍をしばらく呆然として眺めていた。
いつしか暗黙の夜となった。
しかし大尉の「手を触るゝべからず」との命に空しく同情しつゝ山を下ること約一~二町、
又数個の凍死体を目撃し同情の念を投げつゝ下り続けた。
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