野生生物を調査研究する会活動記録

特定非営利活動法人 野生生物を調査研究する会の会員による活動記録です。

猪名川流域の特徴植生<1>

2019-02-05 | フィールドガイド--植物編--

生きている猪名川 初版本での植物の話です

猪名川流域の特徴(1)植生
 猪名川流城の植生の特徴は、植生を支えている大地と人々の生活におおいに関係があります。
 猪名川は、太占から氾濫や侵食を繰り返し、ろうろうと流れてきました。
氾濫の後には、たくさんの土砂が堆積し、それまでの植生も失われてしまったにちがいありません。そのあとに、再び草が生え、木々が生い茂ってきたことでしょう。
 太古の人々が、この大地で生活を始めたころ、猪名川の川沿いには、ハンノキ、エノキ、ムクノキ、ケヤキ、ヤナギといった木が生い茂って森をつくっていました。猪名川の流域の山々や台地には、照葉樹林と呼ばれるカシのなかま、シイ、クスノキなどの木々が生い茂って森を作っていました。現在、伊丹市には、エノキ、ムクノキの群落が残っていますが、それは、太古の猪名川の川沿いにあった木々のなごりです。このなごりは、猪名川の川沿いにもところどころに残っています。
 特に、猪名川が北摂山地から平野部にでるところには、段丘が発達しています。この段丘面の植生も、太古のなごりであるエノキームクノキ群落が残っています。
 照葉樹の林はどうなっていったのでしょう。
 太古の人々が、狩猟・採取の生活をしていたころは照葉樹林の森は守られていました。しかし、その後農耕地に変わっていきました。
 流域の山々の照葉樹林は切り聞かれて、生活に必要な木が植えられるようになりました。その代表的な木がクヌギです。
 北摂山地には、たくさんの炭焼きの煙が立ち上がっていたことでしょう。特に、猪名川流域で銅がでると、精錬にたくさんの炭が利用されたはずです。
有名な鉱山に多田銀山がありますが、それ以外にもたくさんの鉱山が開発されました。
 現在は、照葉樹林のあとの森ということで、二植生の森といわれています。
二次植生には、クヌギ林、アカマツ林、ススキ草原などがありますが、大地のしくみと合わせて考えると面白いことがわかります。中流部の、丹波帯には、クヌギ林が広がり、反対側の有馬層群や上流の花崗岩帯にはアカマツ林が広がっています。それは、長い歴史の中で、人々は地質にあった木を育ててきたからに違いありません。こうした、二次植生によって、川沿いのエノキームクノキ群落にはオオムラサキやタマムシ、テングチョウなどの昆虫があつまり、土砂流失をおさえるために植えられたと考えられるタケ林には、ヒメボタルなどが生育しています。山々のクヌギ林には、カブトムシやクワガタ類やエゾスジグロチョウが生育しています。そして、昆虫を追って鳥たちが森に入り、動物たちの生活の場として定着してきました。 二次植生は、照葉樹の森に比べると、多くの種類の生き物を育ててきました。
 猪名川流域の自然は、その土地に適したクヌギが人工的に植えられて、林となり、人間の生活だけでなく、オオムラサキやクワガタ、フクロウなどの動物を育む生態系の林となりました。
この生態系が今日まで残っているのがほかの地域と違うところです。猪名川流域では、今なお“生きた里山”をみることができます。