ほんわか亭日記

ダンスとエッセイが好きな主婦のおしゃべり横町です♪

「落ち葉」

2010-11-16 | エッセイ
2010年11月15日(月)

家の前に落ち葉が溜まるようになった。朝、掃いたので、以前の落ち葉のエッセイを・・。

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「落ち葉」

 ピンポンと鳴ったインターフォンの画面には、五、六軒先のTさんが映っていた。自治会費の集金に
いらしたそうだ。急いで財布を持って外に出ると、Tさんは、薄暗くなったなか、門柱の傍らにしゃがんで
膝に乗せた箱から受領証などを取り出している。私も彼女と並んでしゃがみ会費を払うと、彼女は、私たちの
足元に吹き寄せられた落ち葉を気にするように、
「うちの葉っぱがこんなところまで来ちゃって、すみませんねえ」
と、言う。坂の上の彼女のお宅には、道沿いに数本のブナが植えてある。毎年秋には金色に燃え立つ様となり、
犬の散歩の折に目を楽しませてくれるのだが、それからは山なす落ち葉の時期が続くのだった。Tさんも毎朝
落ち葉を掃いているようだし、私は、自分の家の前まで飛んでくる落ち葉を特に拘りもなくさっさと掃いている。
「別に、気にしないで」
と、答えると、彼女は、
「ところで、最近、お母さんはいかがですか」
と、聞いてきた。彼女のご主人はこの辺りの民生委員。わが家の隣に住む母の情報がさっぱり入ってこないと
気にしてくださっているそうだ。
 この新興住宅街に越してきて父と二人で暮らしだしたのは、母が六十を少し過ぎたころだった。私は子供の
お母さんつながりで友人を作っていったが、社交的でない母はひとなかに出かけることをあまり好まなかった。
私が勧めた俳句サークルも長続きせず、とうとうお茶飲み友達は出来なかった。たまに、Tさんのお姑さんと、
家の前で箒を持つ手を止めて立ち話をしている姿を見かけるくらいだった。
そういえば、数年前まではよく手押し車を押しながら散歩をされていたTさんのお姑さんの姿も見かけなくなり、
Tさん宅の前にはデイケアの迎えの車が止まるようになった。母もホームへ入り、この土地に母が二十数年も
住んだ跡が風に吹かれたようにすっと無くなってしまったような寂しさを感じていたので、母の消息を聞いて
貰えたのは嬉しかった。 私が、「母は肺炎をきっかけに体力を落とし、一年前から近所の老人ホームに入っている」
ことを話すと、
「このあたりに越していらした頃はお元気だったのにねえ……」
と、二十数年前の母の姿を思い浮かべるように呟いたTさんは、
「あの頃、通りかかったお宅のお母さんが色づいたうちのブナを見上げて、こんな和歌があるのよと、
ブナの和歌を教えてくださったの。和歌をすらすらと言えるなんて、素敵だなあと憧れたのよ。ああ、でも、
せっかくのあの歌、書きとめておかなかったから、どんな歌だったか、思い出せなくて」
と、思いがけない言葉を継いだ。
〈母にそんなことがあったとは……。
 母の心に沁みていたブナの和歌って、どんな歌だったのだろう。
 知りたい……〉
 今は母をホームに見舞う毎日なのだが、私の顔を見ると母は、
「あら、久しぶりな感じがする」
と、言うこともあるほど、記憶があやふやだ。今となっては、Tさんとの会話はもちろんのこと、ブナの和歌が
どんな歌だったのかも、母は覚えてはいないだろう。それだけに、元気な頃の母に繋がるようなその歌が知りたい
と思った。私はTさんには、
「今度、母に聞いてみるね。覚えているといいのだけれど……」
と、希望的観測を込めて答えた。彼女は、
「分かったらお願いね。もう一度、どんな歌だったか、知りたいから……」
という言葉を残して、次のお宅へと曲がり角を曲がっていった。
 足元の落ち葉に達者だった頃の母の思い出が絡まっていた。朝までには、落ち葉は次々と舞い落ちてくるだろうと、
私はすっかり暗くなった坂の上を見上げた。

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喉がまだ赤いので、マスクをして、ハハの病院へ行った。
時間外だったけれど、先週は行かなかったので、お支払いをしなくちゃならないからね。
ハハにはマスクのまま、
「風邪なの~。今度ゆっくり来るから」
と言っただけだったから、本当にウィステだったか、はっきりしなかったかもしれないね。(^^;)

コメント
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