2011年9月10日(土)
友人のお宅に寄ったら、玄関の土間に新聞紙が敷いてあった。
ご主人が家庭菜園をしていて、靴についた泥で汚れるのを防ぐためだそう。
そういえば、ムスメの家でも、新聞紙を敷いていた。庭の泥がここのところの
雨で柔らかくなり、わんちゃんを家に入れるとき、泥足で玄関が汚れるから
と、言っていたっけ。
ウィステは、今は新聞を取っていない。ニュースはテレビやネットで見られるしって、
節約志向が高まったときに、断ってしまったんだ。でも、新聞って、思いがけなく、
興味深い記事が目に飛び込んできたりして、良いよね。
おまけに、新聞って、最後まで、こういう使い方が出来て便利だ。
とはいえ、一回断ると、また再開する気分もなかなか湧かないんだけれどね。
そこで、かなり以前、まだダンナが元気だったころの新聞のエッセイ・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「新聞契約騒動記」
買い物に出かけた筈の夫が、すぐに戻って来た。近くの私の実家の前を通りかかると、玄関先で、
若い男と父が揉めている様子だったという。声をかけると、父は、助かったとばかり、
手にしていた○○新聞の契約書を夫に渡し、居間に逃げ込むように入ったそうだ。
男は、○○新聞の勧誘員だった。父が開けてしまった玄関扉の内側に入り込み、年寄りと侮ったのか、
再来年までの契約を迫っていたのだった。父がまだ判子を押していないので、夫は、まずは穏やかに
説得しようとしたそうだ。
「ここのおじいちゃんは、五十年△△新聞だから、○○新聞は取らないよ」
「他人のくせに、契約のじゃまをするな!」と、男は、一歩も退くかという顔付きで凄む。
「再来年までの契約なんて、べらぼうだ! 俺は息子だ!親父の家の契約は、うちを通すことに
なっているんだ!」
と、夫は、つい言わずもがなの言葉で応戦した。その言葉に、男の顔色が変わり、キレそうに
なった。危ないと思った夫は、
「あんたもノルマで大変なんだろう。うちは、今、△△新聞とっているけれど、○○新聞にしても
かまわないから、うちがとってあげるよ」
と、宥めて話をつけたのだそうだ。
「三ヶ月だったら、俺の一存でなんとかなるけれど、半年となると、お母さんの許可がいるから」
と勿体をつけ、男をやっと父の家の玄関先からどかせて、こちらに連れて来たという。
「いいだろう」と、夫に聞かれたが、否などと言える状況では無い。
判子を持った夫と外に出ると、門の脇には、黒っぽいスーツにサングラス、耳にはピアスの若い男。
人を刺すようなぴりぴりした雰囲気のこの男と、夫はよくぞ渡り合ったものだ。
半年契約の判子を押しながら、夫は、
「これで、恨みっこなしだよ」と、念を押し、
「ええ、もちろんっす」と、男は立ち去った。
その後姿を見送った私は、なんとか危ないところを切りぬけられたと、ほっとした。だが、
胸の内には、いくら父を庇うと言っても、本意ではない契約をせざるを得なかった口惜しさが
ぐっと込み上げてきていた。
その時、私は、両手に何も持っていないことに気付いた。怖い思いをさせておいて、このまま
行くつもりかと、弾かれた様に私は駆け出し、勧誘員の後を追いかけた。角の家のインターフォンを
押している男に追いつくと、私は、道の真中で大声で呼んだ。
「ちょっと、兄さん!」
ビクっと振り返った男に、畳み掛けた。
「洗剤は無いの。△△新聞なんて、半年も契約すると、いっぱい洗剤を置いていくわよ」
私は、近所じゅうに聞かれたってかまうものかと開き直っていた。男は、きょろきょろと辺りを
見回しながら寄ってきて、
「あの、今、仕事中なんで。帰りに届けますから」と、小声で言った。
「頼むわね」と、言い置き、せめて一矢報いたという気分で戻ってくると、門の前で男との
やり取りを見ていた夫が、
「商品券をあんなに貰っておいて、その上、洗剤まで要求しに行くのか」
と、呆れたように言う。その言葉に、上着のポケットを探ると、確かに商品券がある。どうした
ことか、判子をついた後に勧誘員が商品券を差し出したという記憶が飛んでしまっていたのだった。
居間のソファーに、二人して座り込んだ。
「俺がせっかく苦労して纏め上げた話を、あんたが、ぶち壊しに行くのかと思ったぞ。待てと言おう
としても、あんた、足が速いんだもの。この話、あの男と、もう一度初めからやり直すのかと、
ぞっとしたぞ」
と、夫は言い募る。後先考えない私の行動に肝を冷やした夫には、さすがに悪かったと思ったが、
まだ興奮冷め遣らない私は、
「大丈夫よ。相手だって、せっかくの契約をフイにはしたくない筈よ」
と、強気で言い訳をした。やがて、夫が、
「本当は、やりあうの怖かったな……」
と、溜息をつき、私もようやく素直に頷いた。
勧誘員は、夕方、約束どおり洗剤を届けに来た。私は、当り障りがないよう、笑顔を作って
受け取ったが、こんないきさつの品物では、いつまでも持っていたくない。洗剤は父や息子の家にも
分け、商品券は、さっさと使ってしまった。
我が家は、今、その時契約した○○新聞を取っている。○○新聞が嫌いと言うわけではないが、
たまに立派な提言の記事などに出くわすと、
「なるほどね。でも、そんなこと言ったって……」と、あの日の強面の勧誘員の姿が浮かび、
――ギャップ、有り過ぎ!――
と、思わずにはいられない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今はもう、商品券とかの宣材って、使えないようになったとか聞いたことあるけれど、
どうなったのかな・・?
そして、ウィステも、今はもう、そんな無茶はできません・・・。
しかし、若かったなあ・・。ダンナも大迷惑だったろう・・・。(^^;)
友人のお宅に寄ったら、玄関の土間に新聞紙が敷いてあった。
ご主人が家庭菜園をしていて、靴についた泥で汚れるのを防ぐためだそう。
そういえば、ムスメの家でも、新聞紙を敷いていた。庭の泥がここのところの
雨で柔らかくなり、わんちゃんを家に入れるとき、泥足で玄関が汚れるから
と、言っていたっけ。
ウィステは、今は新聞を取っていない。ニュースはテレビやネットで見られるしって、
節約志向が高まったときに、断ってしまったんだ。でも、新聞って、思いがけなく、
興味深い記事が目に飛び込んできたりして、良いよね。
おまけに、新聞って、最後まで、こういう使い方が出来て便利だ。
とはいえ、一回断ると、また再開する気分もなかなか湧かないんだけれどね。
そこで、かなり以前、まだダンナが元気だったころの新聞のエッセイ・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「新聞契約騒動記」
買い物に出かけた筈の夫が、すぐに戻って来た。近くの私の実家の前を通りかかると、玄関先で、
若い男と父が揉めている様子だったという。声をかけると、父は、助かったとばかり、
手にしていた○○新聞の契約書を夫に渡し、居間に逃げ込むように入ったそうだ。
男は、○○新聞の勧誘員だった。父が開けてしまった玄関扉の内側に入り込み、年寄りと侮ったのか、
再来年までの契約を迫っていたのだった。父がまだ判子を押していないので、夫は、まずは穏やかに
説得しようとしたそうだ。
「ここのおじいちゃんは、五十年△△新聞だから、○○新聞は取らないよ」
「他人のくせに、契約のじゃまをするな!」と、男は、一歩も退くかという顔付きで凄む。
「再来年までの契約なんて、べらぼうだ! 俺は息子だ!親父の家の契約は、うちを通すことに
なっているんだ!」
と、夫は、つい言わずもがなの言葉で応戦した。その言葉に、男の顔色が変わり、キレそうに
なった。危ないと思った夫は、
「あんたもノルマで大変なんだろう。うちは、今、△△新聞とっているけれど、○○新聞にしても
かまわないから、うちがとってあげるよ」
と、宥めて話をつけたのだそうだ。
「三ヶ月だったら、俺の一存でなんとかなるけれど、半年となると、お母さんの許可がいるから」
と勿体をつけ、男をやっと父の家の玄関先からどかせて、こちらに連れて来たという。
「いいだろう」と、夫に聞かれたが、否などと言える状況では無い。
判子を持った夫と外に出ると、門の脇には、黒っぽいスーツにサングラス、耳にはピアスの若い男。
人を刺すようなぴりぴりした雰囲気のこの男と、夫はよくぞ渡り合ったものだ。
半年契約の判子を押しながら、夫は、
「これで、恨みっこなしだよ」と、念を押し、
「ええ、もちろんっす」と、男は立ち去った。
その後姿を見送った私は、なんとか危ないところを切りぬけられたと、ほっとした。だが、
胸の内には、いくら父を庇うと言っても、本意ではない契約をせざるを得なかった口惜しさが
ぐっと込み上げてきていた。
その時、私は、両手に何も持っていないことに気付いた。怖い思いをさせておいて、このまま
行くつもりかと、弾かれた様に私は駆け出し、勧誘員の後を追いかけた。角の家のインターフォンを
押している男に追いつくと、私は、道の真中で大声で呼んだ。
「ちょっと、兄さん!」
ビクっと振り返った男に、畳み掛けた。
「洗剤は無いの。△△新聞なんて、半年も契約すると、いっぱい洗剤を置いていくわよ」
私は、近所じゅうに聞かれたってかまうものかと開き直っていた。男は、きょろきょろと辺りを
見回しながら寄ってきて、
「あの、今、仕事中なんで。帰りに届けますから」と、小声で言った。
「頼むわね」と、言い置き、せめて一矢報いたという気分で戻ってくると、門の前で男との
やり取りを見ていた夫が、
「商品券をあんなに貰っておいて、その上、洗剤まで要求しに行くのか」
と、呆れたように言う。その言葉に、上着のポケットを探ると、確かに商品券がある。どうした
ことか、判子をついた後に勧誘員が商品券を差し出したという記憶が飛んでしまっていたのだった。
居間のソファーに、二人して座り込んだ。
「俺がせっかく苦労して纏め上げた話を、あんたが、ぶち壊しに行くのかと思ったぞ。待てと言おう
としても、あんた、足が速いんだもの。この話、あの男と、もう一度初めからやり直すのかと、
ぞっとしたぞ」
と、夫は言い募る。後先考えない私の行動に肝を冷やした夫には、さすがに悪かったと思ったが、
まだ興奮冷め遣らない私は、
「大丈夫よ。相手だって、せっかくの契約をフイにはしたくない筈よ」
と、強気で言い訳をした。やがて、夫が、
「本当は、やりあうの怖かったな……」
と、溜息をつき、私もようやく素直に頷いた。
勧誘員は、夕方、約束どおり洗剤を届けに来た。私は、当り障りがないよう、笑顔を作って
受け取ったが、こんないきさつの品物では、いつまでも持っていたくない。洗剤は父や息子の家にも
分け、商品券は、さっさと使ってしまった。
我が家は、今、その時契約した○○新聞を取っている。○○新聞が嫌いと言うわけではないが、
たまに立派な提言の記事などに出くわすと、
「なるほどね。でも、そんなこと言ったって……」と、あの日の強面の勧誘員の姿が浮かび、
――ギャップ、有り過ぎ!――
と、思わずにはいられない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今はもう、商品券とかの宣材って、使えないようになったとか聞いたことあるけれど、
どうなったのかな・・?
そして、ウィステも、今はもう、そんな無茶はできません・・・。
しかし、若かったなあ・・。ダンナも大迷惑だったろう・・・。(^^;)