2013年9月11日(水)
それでは、昨日のエッセイサークルに出したウィステのエッセイを・・。(文中仮名)
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「ご厚意の行方」
ダンス用の黒いブラウスの話が出たのは、三日ほど前、大下さんと二人でダンス衣装の店に
行って、緑と茶色の間に金色がチラチラ光るラテンドレスを見つけた時だった。丈も長めで
脚もあまり出さずに済み、まさに私の希望する「大人のラテンドレス」だから、六月の
パーティに着るのに良さそうだと心が躍る。ただ、スリップドレスなので、肩紐のみで
胸から上と腕が丸出しという点が、この齢でちょっと辛いかな。迷っていると、店員さんが
すかさず黒いネット素材のTブラウスを持ってきて、
「これを下に着ると、胸元も腕も隠れて良いですよ」
と、勧めてくれた。しかし、大下さんが、
「こんなの自分で作れば良いって。三千円なんて高すぎよ」
と、さっさと断り、私のほうは、以前千円で買った黒いネットのTブラウスは有るので、
それを使おうと心積もりして、ドレスだけを買った。
ところが、今日、ダンスサークルに行くと、大下さんが紙袋を持って来た。
「黒くて透ける布が沢山余っているから、あげるわ。これで、ドレスの下に着る
ブラウスを作りなさいよ」
思いがけないご厚意だった。私はむしろ、既製品で楽をしようと思っていたのだ。
だが、せっかくのご厚意を無碍にするのはと、紙袋ごと頂いた。
家で開けてみると、黒い布のほかにも、「参考にして」と入れてくれた、大下さんが自分用に
作った肌色のネット素材のブラウスもある。一般のTブラウス形ではなく、腰までの長さが
あって、股の下で前身頃と後ろ身頃をホックで止めるという本式な形になっていた。
赤ちゃんのロンパースのような格好なのだが、このほうが、どんなに腕を伸ばしても、
緩みが出ず、裾が上に上がってこないのだ。小柄な彼女のものなので小さかったけれど、
私が着てみると、さすがネット素材、ぐ~んと伸びて私の身体にフィットした。それで、
六月のパーティには大下さんも参加するから、よし、この布でブラウスを作って、着て見せ
ようと、心を決めた。
一週間ほどで四月末、ゴールデンウィークとなった。庭では燦燦とした陽を浴びて雑草が
育っているけれど、見ないふり。サークルも休みで暇なので、いよいよブラウス作りに
取り掛かった。
まず、大下さんのブラウスから型紙を作る。大下さんのアドバイスによって、胸元は、
頭が通りやすいよう、U字型に直す。
伸びる縦地に、採寸した型紙の上下方向を揃えて置く。
裁断する。
くたびれたミシンで、前身頃と後ろ身頃を縫い合わせ、袖も付ける。
試着する。
と、ここで、問題が発生した。きつくて着にくいのだ。袖に腕を通すとパンパン。
身頃にきつきつの肩をねじ込み、頭を出す。裾をぐっと下に引っ張るのだけれど、腰までしか
届かない。
どうもおかしい。袖付けの部分が狭すぎるので、袖付けの位置を下方向へ五センチ広げてみた。
すると、肩の辺りは楽になったけれど、余波で袖が五センチ短くなってしまった。ようやく、
この黒い布はネット素材じゃないので、伸びがそれほどでも無かったのだと分かった。失敗だ。
「出来ませんでした」で、逃げ出したくなったけれど、大下さんがご厚意で下さった黒い布地は
まだたっぷりある。なんとか頑張ろう。そもそも型紙が良くなかったのだと、以前、自分が作っ
たTブラウスの型紙を出してきて、下半分は、大下さんの型紙をなぞった。
この型紙を元に再度作ってみたら、今度は着るときが、ほんの少しきついだけで、前よりは
楽になった。
姿見を見ると、まあまあだ。肩のラインがちょっと浮いていて、U字の胸元のラインがやや
曲がっているけれど、よしとしよう。
右腕を真上に上げてポーズをとってみると、腕から脇にかけて黒い布地が充分伸びて、
格好良さげだ。完成と思ったのに、脱いだら、なんと、右のヒップの辺りの縫い目がはやくも
解れていた。それを見て、はっと気づいた。横方向にこそ伸びなくてはならないのに、
九十度向きを間違えて型紙を布の上に置いてしまったので、横への伸びが足りなくなったのだ。
とはいえ、もう作り直す気力は無い……。
黒いブラウスを身体に当ててみると、千円の既製品のほうがあっさりすっきりだと弱気も
沸いてきた。
いや、いや!横への伸びの足りなさは、脱ぎ着の時だけ気をつければ良い。腰の解れを直し、
六月のパーティで着て、
「手作りでプライスレス。でも。微妙~」
と、大下さんと笑い合おうと、私は、鏡の中の自分に、大丈夫!と頷いた。
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頑張って作ったTブラウスだけれど、6月はばたばたしていてパーティには着られなかった。
今度、10月のパーティで着てみよう。
なにしろ、「衣装5割、化粧3割、ダンス2割」って言われたものね~。(^^)
それでは、昨日のエッセイサークルに出したウィステのエッセイを・・。(文中仮名)
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「ご厚意の行方」
ダンス用の黒いブラウスの話が出たのは、三日ほど前、大下さんと二人でダンス衣装の店に
行って、緑と茶色の間に金色がチラチラ光るラテンドレスを見つけた時だった。丈も長めで
脚もあまり出さずに済み、まさに私の希望する「大人のラテンドレス」だから、六月の
パーティに着るのに良さそうだと心が躍る。ただ、スリップドレスなので、肩紐のみで
胸から上と腕が丸出しという点が、この齢でちょっと辛いかな。迷っていると、店員さんが
すかさず黒いネット素材のTブラウスを持ってきて、
「これを下に着ると、胸元も腕も隠れて良いですよ」
と、勧めてくれた。しかし、大下さんが、
「こんなの自分で作れば良いって。三千円なんて高すぎよ」
と、さっさと断り、私のほうは、以前千円で買った黒いネットのTブラウスは有るので、
それを使おうと心積もりして、ドレスだけを買った。
ところが、今日、ダンスサークルに行くと、大下さんが紙袋を持って来た。
「黒くて透ける布が沢山余っているから、あげるわ。これで、ドレスの下に着る
ブラウスを作りなさいよ」
思いがけないご厚意だった。私はむしろ、既製品で楽をしようと思っていたのだ。
だが、せっかくのご厚意を無碍にするのはと、紙袋ごと頂いた。
家で開けてみると、黒い布のほかにも、「参考にして」と入れてくれた、大下さんが自分用に
作った肌色のネット素材のブラウスもある。一般のTブラウス形ではなく、腰までの長さが
あって、股の下で前身頃と後ろ身頃をホックで止めるという本式な形になっていた。
赤ちゃんのロンパースのような格好なのだが、このほうが、どんなに腕を伸ばしても、
緩みが出ず、裾が上に上がってこないのだ。小柄な彼女のものなので小さかったけれど、
私が着てみると、さすがネット素材、ぐ~んと伸びて私の身体にフィットした。それで、
六月のパーティには大下さんも参加するから、よし、この布でブラウスを作って、着て見せ
ようと、心を決めた。
一週間ほどで四月末、ゴールデンウィークとなった。庭では燦燦とした陽を浴びて雑草が
育っているけれど、見ないふり。サークルも休みで暇なので、いよいよブラウス作りに
取り掛かった。
まず、大下さんのブラウスから型紙を作る。大下さんのアドバイスによって、胸元は、
頭が通りやすいよう、U字型に直す。
伸びる縦地に、採寸した型紙の上下方向を揃えて置く。
裁断する。
くたびれたミシンで、前身頃と後ろ身頃を縫い合わせ、袖も付ける。
試着する。
と、ここで、問題が発生した。きつくて着にくいのだ。袖に腕を通すとパンパン。
身頃にきつきつの肩をねじ込み、頭を出す。裾をぐっと下に引っ張るのだけれど、腰までしか
届かない。
どうもおかしい。袖付けの部分が狭すぎるので、袖付けの位置を下方向へ五センチ広げてみた。
すると、肩の辺りは楽になったけれど、余波で袖が五センチ短くなってしまった。ようやく、
この黒い布はネット素材じゃないので、伸びがそれほどでも無かったのだと分かった。失敗だ。
「出来ませんでした」で、逃げ出したくなったけれど、大下さんがご厚意で下さった黒い布地は
まだたっぷりある。なんとか頑張ろう。そもそも型紙が良くなかったのだと、以前、自分が作っ
たTブラウスの型紙を出してきて、下半分は、大下さんの型紙をなぞった。
この型紙を元に再度作ってみたら、今度は着るときが、ほんの少しきついだけで、前よりは
楽になった。
姿見を見ると、まあまあだ。肩のラインがちょっと浮いていて、U字の胸元のラインがやや
曲がっているけれど、よしとしよう。
右腕を真上に上げてポーズをとってみると、腕から脇にかけて黒い布地が充分伸びて、
格好良さげだ。完成と思ったのに、脱いだら、なんと、右のヒップの辺りの縫い目がはやくも
解れていた。それを見て、はっと気づいた。横方向にこそ伸びなくてはならないのに、
九十度向きを間違えて型紙を布の上に置いてしまったので、横への伸びが足りなくなったのだ。
とはいえ、もう作り直す気力は無い……。
黒いブラウスを身体に当ててみると、千円の既製品のほうがあっさりすっきりだと弱気も
沸いてきた。
いや、いや!横への伸びの足りなさは、脱ぎ着の時だけ気をつければ良い。腰の解れを直し、
六月のパーティで着て、
「手作りでプライスレス。でも。微妙~」
と、大下さんと笑い合おうと、私は、鏡の中の自分に、大丈夫!と頷いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
頑張って作ったTブラウスだけれど、6月はばたばたしていてパーティには着られなかった。
今度、10月のパーティで着てみよう。
なにしろ、「衣装5割、化粧3割、ダンス2割」って言われたものね~。(^^)