ほんわか亭日記

ダンスとエッセイが好きな主婦のおしゃべり横町です♪

「ガムテープ」

2016-09-10 | エッセイ
2016年9月10日(土)

今日は、数年前のウィステの生還話を・・
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「ガムテープ」
 銀行の貸し金庫室に用があり、行った時の事。用事を済ませ、私の貸し金庫から
先ほど引き出した貴重品収納ケースをもとに戻そうとした。ところが、
金庫より一回り小さなはずのケースが、あと一、二センチのところで出っ張ったままで
金庫の扉が閉められない。
いったいどういうことだろう?
いつもの手順どおりに動いているときは、この金庫室の主のように自信を持って
振舞っていられるのに、それが急に滞ると、小さな銀色の扉に埋め尽くされた壁に気圧され、
閉じ込められてしまったと不安が募る。
 この精密そうな装置に私は何かとんでもないことをしてしまったのだろうか?
と、整然とした空間で、場違いな侵入者のように感じ、うろうろしてしまう。
 だが、まさか金庫の扉を開けたまま外に出るわけにもいかない。
とにかく、扉をちゃんと閉めて金庫室から抜け出したいと、ケースを力をこめて二度、三度と
押し込むのだが、何かにはじき返された。
 何がつっかえているのだろう?
 しかたなく出入り口近くの壁のインターフォンを取り上げ、恐る恐る行員に窮状を訴えると、
若い行員がすぐに金庫室にやって来てくれた。その手には、この金庫室には似つかわしくない
ビニール傘とガムテープが握られている。勢い込んだ私の説明を聞きながらも、彼はすぐに
ケースを引き出し、金庫の奥を覗き込んだり、金庫内部の側面を触ったりした。
「ああ」と頷いてから、彼は何が起きたのか、説明してくれた。
「このケースと金庫の内壁の間が少ししかないんですけれど、お客様がケースを戻すときに、
内壁に沿って配線してあるコードのカバーをケースの角で引っ掛けて、そのカバーが外れて
金庫の奥へ突っ込まれてしまったんです」
 やはり、私のせいだ……。
 この若い行員は、笑顔の裏で「これだから、おばさんは……」と思っていないだろうかと、
気を回す私の目の前で、ガムテープの接着面を外側に向けて傘の柄に巻きつけ、
がっしりした体を屈めてそれを金庫の奥に突っ込んだ。しばらくごそごそしてから傘を引き出すと、
先端に黒いプラスチックのようなものがくっついて出てきた。カバーが無事に回収できたのだ。
それを彼は、内壁にパチンと嵌め直してくれた。
助かったようだ・・。
 心配で後ろから覗き込んでいた私に、彼は、振り向くと愛想良く言った。
「お客様が初めてではないんですよ。もう、五、六人目なんです。金庫の構造に問題があるんでしょうねえ」
 どうりで、手馴れている。私以外やったこともない大失敗という訳ではなく、お仲間がいるのかと、
いくらか面目無さが軽くはなったが……。
 仕事は済んだとばかりに、彼が再びケースを金庫の中へ入れようとしたので、私は、
「あ、ちょっと待って。このままだと、私、またやりそうだから、そのガムテープで
カバーを固定してくれないかしら」
と、声をかけた。もっともだと思ったのか、彼は快く再び屈み込んで黒いカバーの上に
薄茶色のガムテープを貼ってくれた。
これで一応安心してよいのだろう。私は、
「余計なお世話をかけてしまって、すみませんね」
と、この場合常識的なお礼を言った。
 だが、金庫室の扉の外へ出ると、ほっとした気持の下から、もっと別の言いたい事が湧いて来た。
〈私、六人目の“犠牲者”だったんですか? 
 じゃあ、これは私のせいばかりじゃないですよね。
 助けてくれてありがたいことはありがたいけれど、この作業に手馴れるより
根本的に金庫の構造をなんとかしたほうが、いいんじゃないですか?
 でないと、七人目の“犠牲者”が出るのも時間の問題って思うけど……〉
 扉の外まで送り出してくれた行員さんの笑顔に、こんな正論をぐ~っと腹の中に引っ込めた。
檻のような空間から生還できたのだ。
私は、青空を仰いで、ほ~っと、息を吐いた。
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まあ、なんというか、原始的な救援方法にびっくりしましたね。

そうそう、今日は、スーパーの宝くじ売り場で、サマージャンボの換金をしました。
10枚買って、300円当たりましたよ。(^^)

 
コメント
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