元ライターの小説家への道

僕もまだ本気を出していません。

銭湯の先頭で千頭で戦闘

2007年01月22日 00時50分29秒 | 日々雑感
 あるあるには捏造うんぬん以前に、被験者10人とかで信憑性のあるデータが取れると思っているのかどうかを問い詰めたい。

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 タイトルに意味はありませんが、近所の風呂屋に行った。さめざめと雨が降る中を傘をサシサシ銭湯へ。

 到着した銭湯の入り口には傘立てがあったのだが、僕のビニール傘は大きくて穴に入りきらなかった。仕方がないので傘立ての脇に傘を立てかけて、銭湯の入り口のドアを開けた。

 そうして大きな湯船につかること30分。身体をホクホクさせて僕は男湯の暖簾を潜り抜け、待合所のソファに腰掛けた。ソファに腰を沈めながら普段は読まない新聞を読みながら、入り口に目をやった。

 するとどうだろう。身の丈140センチにも満たないような腰ががっくりと折れ曲がった老婆が僕のビニール傘を差し、今まさに出ようとしているではないか。僕は新聞を持ったまま、外へと飛びだしこう言った。

「おばあちゃん。それおばあちゃんの傘?」

 僕の傘には羽を束ねる紐がついていない。そのため柄の部分に輪ゴムを結び、たたむ時はそのゴムで縛っている。おばあちゃんが持っていたビニール傘の柄には輪ゴムがついていた。僕の傘に間違えない。そしておばあちゃんは言った。

「ああ…すみません。これは私の傘じゃないです。ごめんなさい…」

 大変申し訳ない。という感じがヒシヒシと伝わってくるような言葉だった。おばあちゃんは傘をたたんで僕に手渡した。僕は待合所から見える位置に傘を立てかけて、ソファへと戻った。

「齢80歳は超えているであろうおばあちゃんが僕の傘を盗んだ」と非難を浴びせられるほど僕は腐っていない。雨はまだしとどと降っていた。冬の夜空に落ちてくる冷たい雨に、老婆と言っても過言じゃない人を見捨てて、ソファで新聞を読めるほど僕は壊れてもいない。

 しかし僕の傘を渡してしまっては、僕が濡れてしまう。「だけど…」と僕は葛藤する。僕と老婆のどちらが濡れる方が気の毒か…。それにしても傘を盗まなくても…。しかしそのジレンマはすぐに解消された。

 老婆がガサガサと手持ちのビニール袋をあさると、中から折り畳み傘が出てきたのだ。濡れたアスファルトを照らす銭湯の明かりから逃げるように、老婆は去って行った。僕は新聞のくだらない記事に目を落としながら、何かを考えようとしてすぐにやめた。きっと誰も悪くない。
コメント (2)
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