修行中の二人の僧侶が川にさしかかり浅瀬を渡ろうとしていた。その時、着飾った娘に出会った。娘は川を前に途方に暮れている様子だ。きれいな服を汚したくないのだろう。
すると、僧侶の一人が娘を背負い、川を渡り、向こう岸の土手におろしてやった。
僧侶たちは再び旅を続けた。一時間ほど経ったころ、もう一人の僧が、
「女に触るとはもってのほかだ。み仏の教えに反するではないか。修行僧の掟を破るとは、お前はどうかしているぞ!」
娘を背負った修行僧は、しばらく黙って歩いていたが、とうとうこう言った。
「わたしが背負った娘をあの土手においてきたのは一時間も前だ。だのに、おまえは、まだあの娘を背負っているのか!」
何事も独りで「背負う」と、独り占めされて後悔している人、納得がいかない人、感情的になっている人など、様々な人から批判が出る。
※版画は瀬川巴水