大阪俄が生まれる前から、南河内には素人による狂言を真似た芝居〈物真似狂言〉が行われていた。
もちろん、南河内に限らず全国各地に存在していただろう。
出雲の阿国は三十郎という狂言師を夫に持ち、それに傳介(でんすけ)という狂言師くずれの男が加わり、三人で狂言仕立ての芝居を踊りの合間に入れていたという。
しかし、オチはなく、最後は座員全員の総踊りでしめくくっていた。
念仏踊りや風流踊りに〈物真似狂言〉が加えられたものが〈歌舞伎〉になる。
〈物真似狂言〉にオチがつくと〈にわか〉になる、
河内俄の一例を紹介する。
銭形平次(平)・子分の八五郎(八)・男
右手から男が出てくる。真ん中で突然苦しみだす。見ると胸に包丁が刺さり血がたらたらと流れている。男は中央で一分ほど苦しみ、バタと欄干に顔を乗せて、死んだように倒れる。そこへ、平治の子分の八五郎が登場する。
八「ああ、平和やなあ」
男「ウッ、ウッ、アアッー。助けて」
八「ああ、事件も無いし、静かやなあ」男を無視する
男「ウワァ、ウッ、ウワアア、アー」 大声をあげる
八「人が苦しんでるがな、なんや男か」やっと気づく
男「こら、ええかげんにせえよ。礼はなんぼでもするさかいに助けてくれ」 札束をちらつかす
八「それを早く出さんかいな。てえへんだ。おやぶーん!」 平次が登場する
平「おいおいおい。どないしたんや?」
八「親分、殺人です」
平「ええ、なんやと、なんや男やないかい」
男「こ、この札束が、め、目にはいらんか」
平「おっ、これは大事件や。おい、大丈夫か?」
男「あっ、あっ、あかん」 ばたと息絶える
八「親分、どないしまひょ?」
平「どうせ旅の者(もん)やろ!」
男 死んだまま、足袋を手で上に挙げる。
平「見てみ、やっぱし、タビのもんや!」。
男 足袋を横に振り、「ちゃうちゃう」
八「ナニ、足袋を出して、旅のもんと違うとは?」
平「ハテ?」
八「ハーテ?」
平「ハテ! わかったわい!。足袋の裏に書いてある。こいつは「ここのもん(ここの者)じゃ!」
※足袋の裏に大きく「九文(ここのもん)」と書いてある。1文=2.4cm
河内俄は、最後に何か物を出す。「ハテ?」とツッコミのあと、物に絡めてオチをつける。
これは河内俄の約束事、掟でもある。
〇無銭飲食した男Aが店主に問い詰められ、無地の羽織を差し出して
A「これで、許しとくなはれ」
B「羽織を出して許してくれとは。ハテ?」〈ツッコミ〉
C「ハテ! わかったわい。無地の羽織で紋無しじゃ(=一文無し)」〈オチ=ボケ〉
単純な駄洒落のようだが、話の筋から必然的に出しても不自然でない物でオトス。
〇浮気をした男が、雨の降る夜の遅くに、蓑(みの)を着て家に帰って来た。
じっと忍んで待っていた女房が「寒かったでしょ」と一升徳利を出す。
その優しさに改心した男は、蓑と一升徳利を出し、
男「これが、わしの気持ちや」
女「蓑と一升徳利で今の気持ちとは? ハテ?」
男「ハーテ?」
女「ハテ! わかった! 徳利(とっくり)と見なんだが、蓑(身の)一升(一生)のあやまりや!」
駄洒落と言って侮るなかれ。
洒落言葉に粋(すい)言葉。
ちょっとした洒落でその場を和ます。これが大阪の粋(すい)である。
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