備前の国に家を買って、週に四日間ほど大阪から通っている友人の誘いで、霜月の六日、友人の車に便乗して大阪を立った。
本来は一日に発する予定だったが、早期大雨注意報が出ていたので取り止めて延期した。
「晴れの国」をキャッチフレーズにしている備前の国なのだが、とにかく私が行くと雨が降る。
時には晴天続きの日に訪問したいという私の願いで、四日間、晴予報がでているこの日の出立となった。
予報通りの雲一つない晴天となり、大阪、神戸、姫路の高速をひた走る。
途中、昼食代わりに明石のサービスで助六寿司を買った。
歌舞伎十八番『助六由縁江戸桜(すけろくゆえんのえどざくら)』に由来する寿司である。
江戸の侠客であった花川戸の助六(実は曽我五郎)が、源氏の宝刀を取り戻さんと吉原に足しげく通い、刀を取り戻す騒動を描いた歌舞伎である。
劇中、助六は、三浦屋の「揚巻(あげまき)」という名の花魁(おいらん)と恋仲になる。
その 「揚巻」の「あげ」を油揚げの「いなり寿司」、「まき」を海苔で巻いた「巻き寿司」になぞらえて、この二つを詰め合わせたものを「助六寿司」と呼ぶようになったという。
なんとも爽やかな秋晴れの下で、ベンチに座って助六寿司のパックを開ける。
歌舞伎では、助六が登場する時には、出端(では)というお囃子が入る。
尺八の音が聞こえると、黒の着付けに紫の鉢巻をした助六が、花道を傘をさし下駄の音を響かせて勢いよく駈け出してくる。
その水際だった男っぷりの助六を頭に描きながら、寿司をほおばる。
歌舞伎の幕開きは、裃(かみしも)姿の口上役が出て「河東節(かとうぶし=お囃子)御連中の皆々様、なにとぞお始め下されましょう」の挨拶で幕が開く。
御簾(みす)内で「ハォーッ」という合の手が入り、華やかな三味線の音にあわせて浄瑠璃の演奏になる。
食べ終わって、吸い込まれそうな明石の空を見上げる。
思わず「ハォーッ」と声を出してしまった。
なんとも派手な旅立ちである。
助六の見栄きるごとき秋の空
※②に続く