M7.6は「想定されていた」 能登半島地震の活断層は「未知」でもなかった? 周知や対策はなぜ遅れた2024年1月15日 06時00分:東京新聞
最大震度7、マグニチュード(M)7.6を観測した能登半島地震。震源となった断層(震源断層)は未知のものではなく、政府の有識者検討会が2014年に公表した活断層だったとの見方が専門家の間で有力になってきた。政府の地震調査委員会もこの断層を把握していたが、地震の切迫度などを調べる「長期評価」をしておらず、広く周知されていなかった。(小沢慧一)
長期評価 活断層で発生する地震やプレートの境界で起きる海溝型地震を対象に、地震の規模や「30年以内に何%」といった発生確率を予測。政府の地震調査委員会が検討し、現在114の主要活断層や6地域の海溝型地震などについて発表している。南海トラフ地震だけ他の地震と確率を出す計算方法が異なり、地震学者らから「水増し」の問題が指摘されている。
◆政府の地震調査委「調査に時間が必要」
「99%、調べていた断層が動いたと言える」。今回の地震について、東北大の遠田(とおだ)晋次教授(地震地質学)は語る。筑波大の八木勇治教授(地震学)も地震計のデータ解析から「少なくとも異なる三つの断層がずれ動いた。既知の活断層がずれて、周辺の地盤が破壊された可能性が高い」と話す。
地震調査委は震源断層は約150キロとするが、既知の断層だったかは「調査に時間が必要」としている。
能登半島沖は、産業技術総合研究所の調査で珠洲(すず)沖や輪島沖などに数十キロにわたる複数の断層が見つかり、北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の安全性を巡る評価で考慮されるなど専門家の間では知られていた。
◆地震起きたら「M7.6になる」との想定が現実に
政府の有識者検討会は13〜14年、日本海側全体の海底活断層を調査。海底地形のデータなどから60カ所について、活断層が動いた場合に起こる地震や津波の程度を予測する「断層モデル」をつくり、公表した。
今回の震源域には「F42」「F43」という断層モデルがあり、1日の本震後に起きた余震の震源域とほぼ重なる。検討会は、F43で地震が起きた場合はM7.6になると想定していた。
地震調査委が発表する主要な活断層の「長期評価」は当初、陸域の活断層に限っていた。17年からは海底活断層も加えて調査している。評価を終えたのは九州・中国地方北方沖のみ。能登半島沖は評価に向けた検討が始まったばかりで、強い地震に遭う確率を色別で示した「全国地震動予測地図」に反映されていない。地震調査委の平田直(なおし)委員長は2日の会見で「もう少し早くに(海域の活断層の)評価をやるべきだった。残念だ」と語っていた。
◆記者解説 住民にとっては「ノーマーク」再び
政府の地震調査委員会が所属する地震調査研究推進本部は、1995年の阪神淡路大震災の反省から設けられた。神戸周辺の活断層の存在は専門家の間では知られ、地震が懸念されていたが、地元自治体の対策が不十分で、住民にも危険性が伝わっていなかった。
能登半島地震が既知の海底活断層で起きたとすれば、調査委は存在を把握しながらも、危険性を地域住民にしっかり知らせることができておらず、反省が生かされたとはいいがたい。
日本の沿岸全体で海底活断層の評価が終わるまでには、まだまだ時間がかかる。その間は調査委の情報として周知されず、住民にとっても「ノーマーク」となるリスクをはらむ。調査委が中間評価という形でも、どこに活断層があるかを広く知らせることは急務だ。
最大震度7、マグニチュード(M)7.6を観測した能登半島地震。震源となった断層(震源断層)は未知のものではなく、政府の有識者検討会が2014年に公表した活断層だったとの見方が専門家の間で有力になってきた。政府の地震調査委員会もこの断層を把握していたが、地震の切迫度などを調べる「長期評価」をしておらず、広く周知されていなかった。(小沢慧一)
長期評価 活断層で発生する地震やプレートの境界で起きる海溝型地震を対象に、地震の規模や「30年以内に何%」といった発生確率を予測。政府の地震調査委員会が検討し、現在114の主要活断層や6地域の海溝型地震などについて発表している。南海トラフ地震だけ他の地震と確率を出す計算方法が異なり、地震学者らから「水増し」の問題が指摘されている。
◆政府の地震調査委「調査に時間が必要」
「99%、調べていた断層が動いたと言える」。今回の地震について、東北大の遠田(とおだ)晋次教授(地震地質学)は語る。筑波大の八木勇治教授(地震学)も地震計のデータ解析から「少なくとも異なる三つの断層がずれ動いた。既知の活断層がずれて、周辺の地盤が破壊された可能性が高い」と話す。
地震調査委は震源断層は約150キロとするが、既知の断層だったかは「調査に時間が必要」としている。
能登半島沖は、産業技術総合研究所の調査で珠洲(すず)沖や輪島沖などに数十キロにわたる複数の断層が見つかり、北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の安全性を巡る評価で考慮されるなど専門家の間では知られていた。
◆地震起きたら「M7.6になる」との想定が現実に
政府の有識者検討会は13〜14年、日本海側全体の海底活断層を調査。海底地形のデータなどから60カ所について、活断層が動いた場合に起こる地震や津波の程度を予測する「断層モデル」をつくり、公表した。
今回の震源域には「F42」「F43」という断層モデルがあり、1日の本震後に起きた余震の震源域とほぼ重なる。検討会は、F43で地震が起きた場合はM7.6になると想定していた。
地震調査委が発表する主要な活断層の「長期評価」は当初、陸域の活断層に限っていた。17年からは海底活断層も加えて調査している。評価を終えたのは九州・中国地方北方沖のみ。能登半島沖は評価に向けた検討が始まったばかりで、強い地震に遭う確率を色別で示した「全国地震動予測地図」に反映されていない。地震調査委の平田直(なおし)委員長は2日の会見で「もう少し早くに(海域の活断層の)評価をやるべきだった。残念だ」と語っていた。
◆記者解説 住民にとっては「ノーマーク」再び
政府の地震調査委員会が所属する地震調査研究推進本部は、1995年の阪神淡路大震災の反省から設けられた。神戸周辺の活断層の存在は専門家の間では知られ、地震が懸念されていたが、地元自治体の対策が不十分で、住民にも危険性が伝わっていなかった。
能登半島地震が既知の海底活断層で起きたとすれば、調査委は存在を把握しながらも、危険性を地域住民にしっかり知らせることができておらず、反省が生かされたとはいいがたい。
日本の沿岸全体で海底活断層の評価が終わるまでには、まだまだ時間がかかる。その間は調査委の情報として周知されず、住民にとっても「ノーマーク」となるリスクをはらむ。調査委が中間評価という形でも、どこに活断層があるかを広く知らせることは急務だ。