「うつ病」は、なぜ原因のストレスが消えても治りにくいのか? 脳科学で見えた「一つの答え」(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース
うつ病」は、なぜ原因のストレスが消えても治りにくいのか? 脳科学で見えた「一つの答え」
3/15(水) 7:02配信
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注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症、統合失調症......。
多くの現代人を悩ませる発達障害や精神疾患について、原因解明や治療法開発のための研究が進んでいます。脳科学の視点から最先端の研究をわかりやすく紹介した話題の新刊『「心の病」の脳科学』(講談社ブルーバックス)のコラムの中から、「うつ病」と「適応障害」の違いについてご紹介しましょう。 *本記事は『 「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』を一部再編集の上、紹介しています。
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【画像】神経細胞が「縮んで」いた!? わかってきた「うつ病」のメカニズム
「うつ病」と「適応障害」の決定的な違い
私たちは日常の中で、「うつ」という言葉を気軽に使っています。これは海外でもそうで、 depressionという英語は日常用語になっています。それだけに、病気としての「うつ病」と日常語の「うつ」のあいだの見極めは、簡単ではありません。
日常語の「うつ」というのは、失恋など誰でも嫌な気分になってしまうようなストレス因があって、気分が落ち込んでいる状態です。この落ち込み方が、その原因に比べて不釣り合いに強い場合に、適応障害と診断されます。
そして、適応障害の診断基準の中には、ストレス因がなくなれば治る、ということが書かれています。うつ病でも、ストレス因がきっかけになることが多いのですが、うつ病は、ストレス因が解消されたからといって治るものではありません。
適応障害がなかなか治らない理由
仕事の失敗で損失を出したことが契機となって適応障害になった人は、「あの損失、間違いでした!」と言われたら飛び上がって喜びますが、仕事の失敗で損失を出したことが契機となってうつ病が発症した人は、「あの損失は解消したから大丈夫ですよ」と言われても、「いや、そんなはずはない。自分の損失は決して解消しないはずだ」などと悪いほうにしか考えられません。
うつ病は、きっかけとなったストレスがなくなったからといって、自然に治るわけではないのです。 このように、適応障害は「ストレス因が解消されたら治る」わけですが、実はこれがくせ者です。なぜなら、適応障害の原因となったストレスは、解消される場合ばかりではないからです。
「うつ病」と「適応障害」をどうやって見分けるか
ストレス因がなくなれば治る、とひと言で言われても、そのストレス因は、なくなるまで何十年かかるか分からない。いや、なくならないかもしれないのです。となると、「ストレス因がなくなれば治る」という基準では、うつ病と適応障害の鑑別ができないではないか? ということになります。
そのため、ある程度以上、症状が重く、持続していれば、ストレス因との関係性はさておいて、自動的にうつ病と診断することになっています。
経験的に、このくらい重ければ、ストレスがなくなっただけでは治らない場合が多い、ということで設定された基準ですので、ひょっとして、ストレスがきっかけにうつ病と診断される状態になった人の中には、ストレスがなくなったら、スカッと治ってしまう人もいるかもしれません。
この場合は、本当は適応障害だったのだろう、ということになるわけです。とはいえ実際には、臨床現場でそのような方はほとんどおられないように思います。
それぞれの病気で「脳」はどう変化するのか
ストレス因がなくなっただけでは治らないうつ病では、脳の中で、神経細胞の形が変わるほどの変化が起きていると考えられています(参照〈実は脳の神経細胞が「縮んで」いた! ついにわかってきた「うつ病」のメカニズム〉)。
それに対して、ストレス因がなくなれば治る適応障害は、ストレスによる可逆的な、機能的な変化に留まると考えられます。
適応障害の動物モデルの研究、というのは聞いたことがありませんが、ストレスによって直接的に生じ、ストレスがなくなれば収まる行動変化を適応障害とすると、適応障害こそ、動物実験で山ほど研究されているものといえるのかもしれません。
本書『「心の病」の脳科学』では、うつ病が生じるメカニズムや治療法など、最新のうつ病研究の成果も、詳しくご紹介しています。