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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

サスペンス・ユーモア短編集 -13- 闇の狩人(かりうど)

2025年03月15日 00時00分00秒 | Weblog

 警視庁・捜査1課の元刑事だった久松は退職後、悠々自適(ゆうゆうじてき)の生活を送っていた。なんといっても、捜査が絡(から)む不規則な生活から抜け出したことが久松にとっては大きかった。そんな久松が、朝遅く冷蔵庫を開け、おやっ? と思った。ブランチ[朝食と昼食を兼ねた食事]の惣菜にと冷蔵庫の中へ入れておいた刺し身パックと丹精込めて調理した楽しみのムツ[メロ]の味噌焼きが消えていたのである。これは偉(えら)い事件が起きたぞっ! と、長年の刑事癖が出たのか、久松はそう思った。まずは状況把握、そして聞き込みである。ここはまず落ちつこう…と久松はキッチン椅子へ腰を下ろすことにした。座ったあと、はて? と、考えれば、家族の者は出払っていないことがまず頭に浮かんだ。妻の美土里と娘の愛那は観劇に出かけていた。状況を思い返せば、昨夜は…そうだ! 冷蔵庫を開けたあとスーパーで買った刺し身パックを冷蔵庫へ入れた…という記憶はあった。だが、あのときは…冷蔵庫のドアをなにげなく開けただけで中を確認せずすぐ閉じたことを久松は思い出した。当然、味噌漬けがあったかまでは分からない。ただ、あのとき刺し身バックはあったのだ。それははっきりしていた。それが今、消えている。妻も娘の愛那もアリバイが有るか? といえば、無かった。消えたのは刺し身パックを入れた夕方から今朝までの間である。夜分の犯行であることは分かりきっていた。闇の狩人(かりうど)は誰だ! 久松は益々、色めきたった。
 美土里と愛那が帰ってきたのは夕方近くだった。
「ただいまっ!」
「ただいま! じゃないだろ。冷蔵庫に入れておいた刺し身はっ!」
「ああ、アレ。アレは朝、私が食べたわよ。消費期限が過ぎてたし…」
 美土里は買ってきた服の買い物袋を重そうに下ろしながら言った。消費期限の云々(うんぬん)は建て前で、美味(おい)しそうだったから食べちゃった! が本音だった。
「なんだ、お前か…」
 久松は、まあ仕方ないか…と思いながら続けた。
「じゃあ、味噌漬けは?」
「ああ、アレは私よ。和食もけっこういけるわね。温かい御飯に合うわよ、アレ」
 アレも食われたかっ! と久松は愛那の言葉にガックリした。闇の狩人は存在せず、事実はただ家族に先を越されただけだった。久松は今度は金庫に入れて鍵をかけ、冷蔵庫に入れよう…と恨(うら)めしそうに本気で思った。

                   完


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サスペンス・ユーモア短編集 -10- そうか…

2025年03月12日 00時00分00秒 | Weblog

 三神は風呂上りにテレビドラマを観ていた。長官官房付きでなに不自由なく働くエリート審議官の一人として、将来をほぼ100%約束された三神だったが、局長と課長の間に位置するポストで繰り返されるなおざりな日々に少し煩(わずら)わしさを覚えるようになっていた。
「三神さん、大変です!」
 部下の一人、神輿場(みこしば)が血相変えて審議官室へ入ってきた。
「どうした!」
「ぅぅぅ…日傘(ひがさ)が閉店するらしいです!」
「そうか…えっ! なんだって! あの日傘がっ!」
 日傘はウナギの専門店で三神達の行きつけの店として公私共に重宝(ちょうほう)されていた。ときには職員間の懇親会、またあるときは極秘裏の公務の打ち合わせにと活用されていたのである・・というのは建て前で、実は日傘のウナギ料理は、どれも頬(ほお)が落ちるほど絶品で美味(うま)く、しかも安かったのである。最近の三神にとって、コレを食べるのが唯一の楽しみで生きているといっても過言ではなかった。
「ど、どうしてだっ!」
 三神は怒ったように訊(たず)ねた。
「いや、それが聞いた話で、どうも腑(ふ)に落ちないんですよ」
「そうか…いや、なにがっ?」
「倒れた店主が元気になったのはいいんですがね、急に店をたたむ・・と言い出したそうなんですよ」
「そうか…それは妙だな。なにか裏があるぞっ!」
「どうします?」
「すぐ極秘で調べてくれ…。あの店がないと、いろいろと不都合だっ」
 三神は組織が困ることを暗にいったのだが、その実(じつ)、安くて美味いウナギが食べられなくなるのが困るのだった。
 そして一週間が瞬(またた)く間に過ぎ去った。
「分かりました…」
 神輿場がやや明るい顔で審議官室へ入ってきた。
「どうだった?」
「ははは…私の早とちりでした。店は一端、閉めるそうですが、ナマズ専門店で出直すんだそうです」
「そうか…理由は?」
「天然モノが品薄で対応できないそうでして…。店主の話によれば、味を落としてまでは・・とかだそうです」
「そうか…だが、それは困る。ウナギがナマズじゃいろいろと拙(まず)いからな。引き続き、なんとかならんか調査してくれ…」
 三神は暗に会合に影響が・・とでも言いたげだったが、その実、美味いウナギに未練たっぷりだったのだ。三神は今朝も、そうか…と言いたげに、神輿場の朗報を待ち続けている。

                    完


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サスペンス・ユーモア短編集 -6- 正義の味方

2025年03月08日 00時00分00秒 | Weblog

 多山は今年で35になる町役場の中堅職員だ。税務課に配属され、幸か不幸かその人当たりのよさを買われ、税金未納の徴収を一手に引き受けている。全職員が嫌がる仕事の3本の指に入るその1つの仕事だ。多山は払えない貧しい家庭には自腹を切って当てていた。これは無論、多山にとっては経済的に大損失で身を切る辛(つら)い決断だった。決してゆとりがある給料はもらっていない多山だったから、それも当然といえば当然だった。

「どうしても、無理ですか?」
「…」
 やつれた外見の中年女に多山は小声で訊(たず)ねたが返答はなかった。この家へ足を運んでいるのは、今日で5度目だった。家の中の荒れようからして、これは無理だな・・・とは思えていた多山だったのだが、一応、訊ねたのだ。
「いいでしょう! …ここに、これだけあります!」
 多山は背広のポケットから財布を取り出すと、中から札を数枚抜き取った。すでに、払ってもらえないな…と、ほぼ推断していた多山はその額よりやや多めの札(さつ)を財布に入れて家を出たのだ。そのときの気分は自分が正義の味方になったいい気分と、今月は月半分か…という生活費半減の憂いだった。
 多山が札を女に手渡すと、女は、よよ・・と泣き崩(くず)れた。ここで言っておくが、なにも多山は慈善でそうしたのではなかった。彼は5度足を運ぶ間、極秘裏に未納のこうした家々の生活状況を探っていたのだ。恰(あたか)もそれは、刑事の張り込みか探偵のような情報収集によるもので、勤務の公休はほぼ全(すべ)て、実態調査のために使われていた。そして、その探った結果が今日の多山の行動に繋(つな)がっていた。女の夫と子は事故死していた。生きがいを失った女は廃人同様になっていたのである。そんな身の上の女だったが、多山にも生活があった。神仏でない以上、食べねば飢え死(じ)ぬことくらいは多山も分かっていた。正義の味方も弱かったのである。これは恐ろしいこの世のサスペンスである。正義の味方は、残念ながらドラマのように格好よくも強くもなかったのだ。

                        完


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世相ユーモア短編集 -89- 戦争好き

2025年02月18日 00時00分00秒 | Weblog

 落久保がテレビのリモコンを押すと、報道番組が映っていた。番組のキャスターがゲスト数人の指揮者を招いて、アァ~でもないコォ~でもないと語り合っていた。そして時折映る映像は、燃え爛(ただ)れた戦車の残骸や爆撃されて崩れ落ちた住居や建物、さらに両陣営の地図が映し出された。ふと落久保は思った。人類は戦争好きなんだなぁ…と。まだ悲惨な画面を風呂上がりのカップ麺を啜りながらビールを飲み、こうして第三者として観ていられる。俺はなんて幸せなんだ…と落久保は、しみじみと思った。世界の世相は幾つかの地域で戦争が続く現状にある。落久保が暮らすこの国からは想像が出来ない争いだった。落久保はビルをグビッ! とひと口飲むとリモコンでチャンネルを変えた。映し出されたのはCMだった。とあるゲーム・メーカーの戦争ソフトが流れていた。そのとき、小学生の次男が二階の勉強部屋から降りてきた。
「やっと新発売か…。これが欲しかったんだっ!」
 それとなく耳にした落久保は、人類の戦争好きを確信した。
 戦争好きは、戦争の悲惨さを実感しないと嫌いにはなれないようです。^^

                   完


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <32>

2024年07月20日 00時00分00秒 | Weblog

 ところが、どういう訳か鳩村署長は二人が後を追ってくることを予見していた。いや、鳩村が予見していたというより、鳩村に乗り移った[憑依した]Й3番星から来た異星人が予見していたと言った方がいいだろう。
『口橋君と鴫田君は間もなく来るな…。よし、ここで待っていよう』
 鳩村は警察から失踪した理由を考えていた。その理由とは、署長自らミイラが消えた真相を調べていた・・というものだった。無論、その理由は二人を欺(あざむ)くための異星人の詭弁(きべん)なのだが…。
 五分後、口橋と鴫田は鳩村に追いついた。
「やっぱり署長だっ! 署長~っ!!」
 鳩村の姿を遠目に認めた口橋は片手を振りながら走った。鴫田も当然、走った。
「やあっ! 口さんですかっ!」
「…いったい、どうされたんですっ!? 署内じゃ、署長が消えたって大騒ぎになってますよっ!」
「ははは…いや、申し訳ない。実は私も現場捜査に参加しようと思いましてね」
「現場捜査は私らがやりますからっ! 署長はドッシリ構えて陣頭指揮をお願いしますよっ!」
「口さんが言うのも、もっともなんですね。今回はフツゥ~の事件じゃないでしょっ! ですから…」
「公安がらみ、ってことですか?」
「さあ…私にはよく分かりません」
 Й3番星から来た異星人が乗り移った[憑依した]鳩村は逃げを打った。


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ユーモア時事川柳・百選 [37] <再掲>

2023年05月31日 00時00分00秒 | Weblog

変動す 利差や儲(もう)けの ノン企業^^


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