正直者が馬鹿を見る・・などと言う。昨今の世相は、特にこの傾向が顕著ではないか…などと、お大臣にでもなった気分で偉そうに筆を進めている訳です。お笑いをっ!^^
とある市役所に勤めるこの男、原在(はらあり)平業(ひらなり)もそんな平安時代から抜け出たような穏やかな性格で、正直者だった。性格が穏やかということは、取り分けて自己顕示欲もなく、損をしたことすら柳に風と、すぐ忘れられたのである。
「原在さん、部長がお呼びです…」
「ああ、そうですか、どうも…」
部下の課長補佐に告げられ、原在は部長室へと歩を進めた。
「部長、何でしょうか?」
「ああ、かきつばた、いや、原在君か。実は、二年前、君にお世話になったと一市民から私宛に手紙が届いてね…」
「…はあ、二年前ですか?」
「何か心当たりはないかね?」
「いえ、別にこれといって…」
原在には、まったく憶えがなかった。というよりは、忘れ去っていた・・と表現した方がいいだろう。
「そうか、まあいい…。ごくろうさん」
正直者の原在は、記憶がなかったから、そのままを部長に伝え、唐衣(からころも) 着(き)つつなりにし つましあれば はるばる来ぬる 旅(たび)をしぞ思ふ と、かきつばたのように立ち去った。^^
だが、神仏はそんな彼にふと、目を止めていた。
『妙ですな、あの男…』
『ですな…。いつも損をしているのにねすぐ忘れてしまっている…』
『欲深な人間が増えた昨今、誠に感心極まりない…』
『では、何かご褒美でも…』
『そうしますかな、はっはっはっ…』
その後、原在は定期異動で誰が推すともなく副部長に昇格したのである。めでたし、めでたし…。^^
正直者には、遅れてもいい報いがある、ということです。皆さん、いい行いをしても期待せず、忘れましょう。^^
完