水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

世相ユーモア短編集 -60- 正直者

2025年01月20日 00時00分00秒 | #小説

 正直者が馬鹿を見る・・などと言う。昨今の世相は、特にこの傾向が顕著ではないか…などと、お大臣にでもなった気分で偉そうに筆を進めている訳です。お笑いをっ!^^
 とある市役所に勤めるこの男、原在(はらあり)平業(ひらなり)もそんな平安時代から抜け出たような穏やかな性格で、正直者だった。性格が穏やかということは、取り分けて自己顕示欲もなく、損をしたことすら柳に風と、すぐ忘れられたのである。
「原在さん、部長がお呼びです…」
「ああ、そうですか、どうも…」
 部下の課長補佐に告げられ、原在は部長室へと歩を進めた。
「部長、何でしょうか?」
「ああ、かきつばた、いや、原在君か。実は、二年前、君にお世話になったと一市民から私宛に手紙が届いてね…」
「…はあ、二年前ですか?」
「何か心当たりはないかね?」
「いえ、別にこれといって…」
 原在には、まったく憶えがなかった。というよりは、忘れ去っていた・・と表現した方がいいだろう。
「そうか、まあいい…。ごくろうさん」
 正直者の原在は、記憶がなかったから、そのままを部長に伝え、唐衣(からころも) 着(き)つつなりにし つましあれば はるばる来ぬる 旅(たび)をしぞ思ふ と、かきつばたのように立ち去った。^^
 だが、神仏はそんな彼にふと、目を止めていた。
『妙ですな、あの男…』
『ですな…。いつも損をしているのにねすぐ忘れてしまっている…』
『欲深な人間が増えた昨今、誠に感心極まりない…』
『では、何かご褒美でも…』
『そうしますかな、はっはっはっ…』
 その後、原在は定期異動で誰が推すともなく副部長に昇格したのである。めでたし、めでたし…。^^
 正直者には、遅れてもいい報いがある、ということです。皆さん、いい行いをしても期待せず、忘れましょう。^^ 

                   完


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世相ユーモア短編集 -59- 同士討ち

2025年01月19日 00時00分00秒 | #小説

 ━ 野党消え 政策集団 同士討ち ━
 ここ最近の政治世相を皮肉った拙(つたな)い私の川柳である。^^ 要するに、同士討ちをしていたのでは、与党さんの独裁政治を許すだけですよ…という警鐘の意味を込めた一句だが、…まあ、そうでしょう。^^
 とあるテレビ局の政治討論会が二人の論客を招いて中継されている。
「アメリカやイギリスのようにいかないのは、やはり民族性でしょう…」
「いや、それを言っちゃ、お終いです。過去、幾度か二極対立の時代もあった訳ですから…」
「しかし、そう長くは続かなかったじゃありませんか。やはり、この国の民族性ですよ」
「いやいや、そう考えちゃ発展形がない。我が国の政治には見込みがないって言われるんですかっ!?」
「いやいやいや、そこまでは言ってないでしょうがっ! 政策の違いで同士討ちしてちゃ相手の思う壺(つぼ)ですよ、と申し上げてるんですっ!」
「同士討ちっ! 何ですか、それは…」
「だから、同士討ちですよっ! 言うだけなら、私だって言えますっ!!」
「なら、議員になりなさいよっ!」
「ああ、いいですよっ!」
「あなたに投票する人がいるんですかねっ!?」
「ふんっ! 大きなお世話だっ!」
「一旦(いったん)、コマーシャルです…」
 二人の興奮度が高まってきたのを察知したのか、アナウンサーは水を入れて口相撲する両力士の言動を封じた。
 二人はコップの水をガブガブッと飲み干した。
 小さな政策の違いで同士討ちせず、与党と対峙できる組織作りこそが、今の世相に求められる政治課題だということは疑う余地がないようです。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -58- 真似(まね)

2025年01月18日 00時00分00秒 | #小説

 真似(まね)は、どこまで行っても真似であり、オリジナルではない。発明や発見ではなく、飽くまでも実用新案なのである。戦後日本の発展の歴史はこの手が実に多く、今までの世相を振り返れば、資源のない負い目を先進国の真似+実用新案で、ようやく先進国の仲間入りをした・・という経緯がある。ジョブ・シェアリング[イギリス]を真似して有り得ないワーク・シェアリングなどと国会でどぅ~たらこぅ~たら[どうのこうの]と論議された過去は真に恥ずべきであり、耳を覆うものがあった。反省をっ![お猿さんのように立って片手をつくポーズ]^^
 とある中堅会社に勤務する如月(きさらぎ)は、真似が上手い社員で副部長にまでのし上がった中年男だった。宴会芸が得意で、同期の社員達は全て課長で、この芸があったら副部長以上に成れたな…と、彼を羨(うらや)ましく思っていた。
 そしてついに、人気ある真似によって代表権はないものの取締役へと抜擢されたのである。
「ははは…如月君、取締役といっても飽くまでも形だけの真似だよ。誤解しないように…」
 専務にそう言われた如月は、甘くない世相の厳(きび)しさを肌にヒシヒシと感じるのだった。ぅぅぅ…憐(あわ)れっ!^^
 如月さん、世間はそんなものです。真似は宴会芸だけに致しましょう。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -57- きな臭い

2025年01月17日 00時00分00秒 | #小説

 きな臭い紛争や戦争が世界各地で起こる今の世相である。修羅道→人道への攻撃が激しさを増しました・・と、朝七時のニュースとしてお伝えすれば、このテレビ局のアナウンサーは何を言ってんだっ! とお叱りを頂戴するかも知れません。しかし、よくよく考えればその通りなんです。^^
 とある場末の屋台である。二人の中年男がラーメンを食べながら語り合っている。
「ズルズルズル[?を啜るS.E{効果}音]…最近は、きな臭い世の中になっちまったなぁ~」
「だな…。ズルズルズル[?を啜るS.E{効果}音]…そこへいくと、この国は平和だっ!」
「それは言えるっ[?を啜るS.E{効果}音] ズルズルズル[?を啜るS.E{効果}音]…。だが、平和過ぎるんじゃないか?」
「平和過ぎて、平和の有難みを忘れちまったんだぜ、たぶん。ゴクッ![コップの水を飲むS.E{効果}音…」
「前の大戦じゃ300万人以上、死んでるって聞くぜ、ゴクッ![コップの水を飲むS.E{効果}音…」
「まあ、きな臭いよりはいいがな…」
「それはまあ、そうだっ!」
 ラーメンを食べ終えた二人は歯をシーハーシーハーしながらお愛想を置くと屋台の椅子を立った。
「へい、毎度っ!」
 きな臭くない国に住める今を素直に喜びましょう、皆さんっ!^^ せいぜい、特捜部が踏み込むくらいですからっ!^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -56- 回りもの

2025年01月16日 00時00分00秒 | #小説

 金は天下の回りもの・・とは、よくいうが、ちっとも私のところへ回って来ないのはどうしてだろう…などとは言わないが、^^ 回ってくる金額が少な過ぎ、貯えを取り崩す現実には、些(いささか)か怒れてしまう。^^ 今の世相を観望すれば、億単位のお金が議員各位の周辺を駆け回っているニュースを羨(うらや)ましく見聞きするが、住民税非課税世帯の私のところへは少しも駆けっ回ってくれないのは、どうしてだろう…と、思ってしまう訳だ。^^ 実に悲しい機械仕掛けの世相には、ただただ無常を感ぜずにはおられない。私事の愚痴はこの辺りにして、今日のお話と参ります。^^
 冬の寒気がようやく緩もうとしていた、とある年の春のことである。戸坂は陽気に誘われ、コケコッコ~~! と威勢よく、桜見物に出かけることにした。戸坂が毎年、桜を見る場所は決まっていて、ニワトリのようにアチラコチラと歩き回ることはなかった。ただ、最近の世相は物価高で、年金暮らしの戸坂に回りもののお金は回らず、僅かな援助金が国から下りたものの焼け石に水だった。毎年、か細くなる準備する酒の肴に、戸坂は思わず深い溜息を吐(つ)いた。出かける日の天候や時間は例年、決まっていて、前もって調べた挙句のお出かけとなっていた。
「さあ! これでいいだろう…」
 毎年、花見は朝早く家を出る関係からか、防寒対策も心得ていて、完全装備+準備万端で家を出るのが戸坂の常だった。馴れとは妙なもので、早朝の寒さも、さほど気になるものではなかった。桜の下へ折り畳みのテントを広げ、ホエブスでコッヘルに汲んだ土手べりの川水で燗をし、寒の冷えを防ぐべく軽く一杯の酒を喉へ流し込む。そして、厚切りのベコンを食パンに包(くる)んで頬張る。えも言えぬ幸福感が金の回らない戸坂に回った。
 回りもののお金が回らなくても、幸福感は考えようで回るものなのです。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -55- レジ 2

2025年01月15日 00時00分00秒 | #小説

 -17- レジと同じタイトルですが、別話です。^^
 最近の世相は全自動を心がけているのか? までは分からないが、機械化が進捗しつつある。まあ、機械化自体は悪くはないが、どうもスキンシップに欠けて味気ないから、私の好みではない。よくよく考えれば、全てをセルフで熟(こな)すというのは建前で、企業サイドの人件費削減が、どうも見え隠れする。^^
 雨が鬱陶しく降っていた。だが箱川は、そんなことにはめげず、とあるDIY専門店へ買物に出た。最初の店は類似品があることはあったが、それが適合するかどうかが箱川には分からなかった。しかし、そのまま買わずに帰るというのも…と思った箱山は一か八か買って帰ることにした。支払いはセルフの全自動レジだった。帰路、相変わらず雨が降り続いていた。帰ってその品を装填すると、動くことは動いたがどうも力不足で機動に覇気がなかった。仕方がない…と、箱川は次に思い描いた店で適合品を買うことにし、雨の中、家を出た。ところがその店は休日で閉ざされていた。箱川は、ダメか…と諦めかけたが、ここで箱川の不屈の闘志が箱川を援護した。雨は相変わらず降り続いていた。
『お前はこのまま帰るのかっ! それでいいのかっ!』
 メラメラと燃え滾(たぎ)った不屈の闘志は、箱川を別の店へと誘(いざ)った。そして、雨にも負けずその店へ入ったとき、その店には適合品が入荷していた。レジには店員がいて全自動レジではなかったが、どこか温(ぬく)もりがあった。箱川はその品を買うと一目散に家を目指して帰宅した。帰ってすぐ、その品を装填すると順調に回転し始め、以前と遜色(そんしょく)なく起動した。箱川はホッ! としながら、安息の息を吐いた。雨は相変わらず降り続いていたが、箱川の心は晴れ渡っていた。
 箱川さん、晴れ渡ってよかったですね。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -54- 元気

2025年01月14日 00時00分00秒 | #小説

 ここ数年の世相で感じられるのは、どうも人の動きに元気がない…と思えることだ。ということは、病気なの? となるが、どうもそうらしい。世界の二か所で争いが生まれていることは誰もが分かるはずである。そんなことを考えながら村尾は怒りながら歩いていた。別に怒りながら歩く必要もないのだが、村尾は怒っていた。村尾が怒っても世界の二か所で起きている争いが止まる訳でもないのに、村尾は偉そうに怒っていたのである。
「やあ、村尾さん!」
 スクランブル交差点を通り抜けようとしたとき、知人の町前が近づいてきて後ろから声をかけた。
「ああ、町前さんでしたか…」
 村尾は慌てて振り返り、返事した。
「元気そうでなによりです…」
「いや、あなたも…。今日は?」
「ははは…孫の迎えで幼稚園まで…」
「そうでしたか…。私は婆さんの代わりで買物を…」
「では…」
 町前が反対方向に消えると、村尾はスーパー目指して歩き出した。村尾が思うのは最近、人の動く姿に元気さが消えた…ということだった。人々は元気なのである。だが、なぜか元気さが前とは違って見えたのである。
『景気のせいか…』
 活気さが消えたのは景気が余りよくないからかも知れない…と村尾は思ったのである。村尾は、景気が悪いのなら景気をよくしよう…と偉そうに思った。
 村尾さんが偉そうに思っても世相が元気になることはないのですが、一人一人が、よくしよう…とポイ捨てをやめれば、よくなるかも知れませんね。^^  

                   完


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世相ユーモア短編集 -53- 朝飯前(あさめしまえ)

2025年01月13日 00時00分00秒 | #小説

 朝飯前(あさめしまえ)と表現される言葉がある。そんなことは朝飯前です・・などと遣(つか)われる言葉だが、分かりやすく言えば、そんなことをするのは簡単なことです・・というような意味になる。ただ、今の世相をよくよく見れば、朝飯を食べてからする人の方が多くなったように思われ、実に嘆かわしいことだ。^^ 中には朝飯を食べてからもされない食い逃げのような方が大勢おられるのは如何なものか…と思われます。政治家の方々は特に耳をかっぼじって、よくお聴き願いたいものです。^^
 いつやらも登場した、とある国会の衆議院本会議場である。
 白富士首相が一生懸命、施政方針演説の質問に答えている。とはいえ、大方は、議会対応をする省庁の職員が頭に鉢巻を撒いて練り上げた文面に違いなかった。^^
「今、申し上げましたような経緯で現在、進捗しておりまして、百年後には特例法の上程は必要なきものと確信を致しております。以上で、ありますっ!」
 その後、百年後を見据えた財政再建法は、衆参両院の満場一致で可決成立を見た。かくして、我が国は膨張する国債発行残額の財政破綻の危機から脱したのである。めでたし、めでたし…。^^
 とは、夢のようなお話ですが、朝飯前にやって下さる不言実行の議員の方々の御登場を期待しております。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -52- 幸せ

2025年01月12日 00時00分00秒 | #小説

 様々な災害や戦争、事件を見聞きする最近の世相には、ただただ目を瞑(つむ)る他ない…などと実(まこと)しやかな言い訳を思いながら、今朝は朝寝坊を致しました。^^ いや、本当のところを言いますと、身体が疲れていたようですが…。しばらくぶりに快眠し、朝シャワーを浴びて英気を養ったところです。家庭菜園のダイコンを湯がいて温野菜にし、ポン酢+マヨネーズで食すと、まさにこれこそが小さな幸せだ…と思える朝になりました。^^
 舘花(たちばな)は新聞の震災記事を読みながら、幸せとはなんだろう? と小難しいことを偉そうに考えていた。記事には妻と三人の子を失くした夫の顔写真が一面トップに掲載されていた。
『家族に恵まれなかった僕の方が幸せか…』
 そんな思いが舘花の胸中を過った。大きな幸せを得た分、失くした幸せの絶望感は、より深く辛辣(しんらつ)に胸を抉(えぐ)る…と感じられたのである。そのとき、ネット注文しておいた品が配達された。おおっ! これこそが幸せっ! と、舘花は幸せを肌で感じた。
 大きな幸せは、失くしたときの絶望感が大きくなりますから、小(中ーα)か末(すえ)くらいの吉運が現在の世相では、いいようですね。^^

 ※ αは社会の中で生きる上での、様々なマイナスの軋轢(あつれき)です。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -51- 予約

2025年01月11日 00時40分00秒 | #小説

 最近の世相は、何かにつけて予約が幅を利かせている。それだけ人と人とのコンタクトが取りにくくなった・・と考えれば、何故か寂しい気分になるのは私だけだろうか。今日、お話するこの男、篠口もそんなことを思う一人だった。
 朝の通勤電車である。篠口はいつものように地下鉄に揺られ職場へ向かっていた。篠口が勤める区役所の、とある課はここ最近、住民の予約に追われていた。
「はいっ! 次の方…」
 開庁と同時に、その日も大勢の住民が受付へ押し寄せた。
「ええ~~っと…はいっ! 予約票は?」
 住民が予約票を受付台へ置くと、篠口は馴れた手つきで予約票を確認して受理し、処理し始めた。それもそうで、篠口が予約の受付係になってから三年ばかりの月日が流れていたのである。不器用な者でも三年も同じ仕事をしていれば身体が自然と覚えるというものである。
「はいっ! 次の方…」
 篠口は次から次へと立ち並ぶ住民の受付を処理していった。
「はいっ! 次の方っ!」 
 二十人ばかりを受理し終えたとき、篠口は相手を見ず、思わず声を出してしまった。
「ははは…私だよ、篠口君。おはよう…」
 篠口はその声に慌てて相手の顔を見上げた。受付台の上には予約票が置かれ、前には課長の鼓原(つづみはら)が立っていた。
「あっ、課長! おはようございます。今日は?」
「予約だよ、予約!」
「はあ…」
「嫌だな、君! 今日はプライベートで予約に来たんだよ」
「ああ、そうでしたか。そう言っておいて下されば、先に処理してましたのに…」
「ははは…馬鹿を言っちゃいかんよ、君っ! 公私混同はダメだろ?」
「ははは…ですよね。私も明日」
「そうなの? 君のは誰が受付するんだ?」
「さあ、そこまでは…」
 同じ課内の者とは分かっていたが、誰になるか…までは篠口にも分からなかった。
 と、いうことで、予約は今の世相でコンタクトを取る手段として必要不可欠になっています。ただ、どこか機械的で味気ないのが残念といえば残念です。^^

                   完


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