水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第二章 (第八十七回)

2011年11月30日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             
    
第八十七回
これは、鉄砲や弓矢の的(まと)に当てる競技精度を高める練習に似通っていた。幽霊平林だけでも、ある程度は空間移動して現れることは出来る。しかし、国外、特に紛争が起こっているアフリカのソマリアともなれば、これはもう、かなりの距離にあり、如意の筆の偉大な神通力を借らねば、瞬時に空間移動するのは不可能なのだ。さらに、上山という人体も加えて移動するとなれば並大抵のことではない。国内で試した青木ヶ原樹海とは訳が違った。幽霊平林は最初、近隣諸国から練習を始め、次第にその距離を延ばしていった。無論、現れる位置は、霊界万(よろず)集というあらゆる情報を入手できる本を弔文屋(ちょうもんや)で筆記具とともに買い求め、十分に調べた挙句の実行である。
 綿密に地のりを調べるといっても、具体的には、よく知られたその国の建造物や地理的に名を知られた場所がターゲットになる。最近、撮られた写真やビデオなども参考になるのだが生憎(あいにく)、霊界にはそれらの世俗的なものがなかったし、第一、電気などという俗物は存在していなかったから、人間界での情報入手を余儀なくされ、幽霊平林は何度か人間界へ出かける破目になってしまった。まあそれでも、情報さえ得られれば、ほぼ正確に他国のその場へ現れることは可能となっていったのである。その間、約半月を要した。半月も無(な)しの飛礫(つぶて)の音信不通では、さすがに上山も気が気ではない。しかし、非常手段の左手首をグルリ! と回すアノ行為以外、自分からコンタクトは取りようもなく、ただただ幽霊平林の出現を待つしかない上山は、今一つ落ちつかなかった。
 幽霊平林が上山の前へ現れたのは、そうした半月後のある日である。上山としては、もう限界だ…とばかりに、左手首をグルリと回し、非常手段で呼び出そうとしていた矢先である。それも勤務日で、場所は会社のトイレだった。
『課長! OKです。もう完璧そのもの! 現れるターゲットは正確に捕捉できます』
「君なあ! 現れて、すぐ、それはないだろ。それよか私も待っていたんだよ。今、呼び出そうとしてたところさ」
 上山は左手首を幽霊平林に示して云った。


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第八十六回)

2011年11月29日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             
    
第八十六回
「ははは…。まあ、ある意味、試合だがな」
『相手は見えざる敵ですか?』
「人間の心理的(メンタル)な部分だから厄介だ」
『しかし、この如意の筆の威力といいますか、効力といいますか、そんなの凄(すご)いですよね。僕も最初は面食らいましたから…』
「いや、それは私も同感だよ。青木ヶ原樹海に飛んだなんて、夢としか未だに考えられんよ」
『いえ、それは厳然たる事実ですから』
「ああ、そうなんだが…」
 上山と幽霊平林の会話は、途切れることなく続いた。
 結局、幽霊平林が正確に現れる練習を重ね、自信がついた段階で上山に連絡をするということで二人(一人と一霊)は別れた。このことは当然、それ以後の活動も制限されたことを意味する。上山にしても、田丸工業に勤めている関係上、多少の心づもりもあったし、土、日を潰(つぶ)して外国での行動となると、それ相応の健康面のケアも考えねばならん…と思えた。さらに想いを馳(は)せれば、現れた外国で自分がすべきことは? と巡れるのだ。幽霊平林が念じて如意の棒を振る…そこまでは、いい。しかし、自分は何をするのだ。ただ黙って幽霊平林の行動を見守っていればいいのか…。それなら、自分が現れずとも幽霊平林だけで十分じゃないか…と、素直でない、いじけた気分が頭を擡(もた)げ、慌てて打ち消す上山だった。
一方の幽霊平林は、霊界の住処(住処)で練習に明け暮れていた。というのも、彼の技術力が高まらなければ、上山との共同作業ともいえる世界での正義の味方活動は一歩も進まないからだった。住処内の机を前に、霊界筆記具で計画を立てながら、幽霊平林は霊界⇔人間界の行き来を繰り返していた。要は、計画に決めたポイントの地点へ正確に現れることが出来るか、に尽きた。


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第八十五回)

2011年11月28日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             
    
第八十五回
『はあ、GPSのような正確な位置情報があれば可能です。それと、その地の現在の写真などがあれば、完璧ですね』
「そうなのか?」
『はい、ほぼまあ…』
 幽霊平林の自信ありげな返答に、上山は計画を進められると確信した。

いつの間にか二人(一人と一霊)とも気分が高揚してウキウキしている。
「よし! 次は手順だが」
『現地では、まず身を隠して様子を窺(うかが)うのが無難でしょう。正確な場所に現れたとしても、そこの環境までは分からないですからね』
「そうだな…。君はいいが、私の方は即、射殺されるってことも考えられるからな。…まっ! それは、ないか。ははは…」
『はい、用心したに越したことはありません』
「手順を進めよう。で、身を隠したあと、君が念じると…」
『はい、出来るだけシンプルに念じます』
「そして、如意の棒だ。すると、効果は…」
『まず、国民の宗教感を消しますが、効果はメンタル面ですから外部には現れませんし、それを確認することは出来ませんから、時の流れを待って確認するしかないですね』
「ああ、そらまあ仕方のないところだな」
『はい…。あとは情報を吟味して、その場所へ正確に現れることです』
「それは私には出来んことだから、君の技術力に尽きるよ」
『技術力ですか。死んでから久しぶりに耳にする言葉です』
「そうだったな。君は田丸工業のキャリア組だったからな」
『いや~、キャリア組は関係ないんですがね』
「あっ! そんなこたぁ~どうだっていいんだ。腕を磨いといてくれよ、実行日までに」
『はい! 練習を重ねます。…なんかプロの選手になった気分ですね。試合の練習のような…』


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第八十四回)

2011年11月27日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第八十四回
『食べ残しとか、食べものの好き嫌い、なんて、悠長なことは云ってられません。死んじまいますからね。まっ、僕には関係ない話ですけどね』
「ははは…。君は死んでるんだからな」
 上山が笑い、幽霊平林も陰気に笑った。上山はレンジで温めたコンビニ弁当を食べ始めた。
『今の話のあとだからですよ』
「…かもな」
 上山はその後、黙々と食べ続けた。その姿をただ見ているのもなんなので、幽霊平林は一端、外へと壁を透過して出た。
『今の話のあとだからですよ』
「…かもな」
 上山はその後、黙々と食べ続けた。その姿をただ見ているのもなんなので、幽霊平林は一端、外へと壁を透過して出た。
 十五分後、もういいだろう…と思った幽霊平林は、ぐるりと上山の家を一周、飛んだあと、壁を透過して部屋へと戻った。
『もう済みました?』
「んっ? ああ…。ご覧のとおりだ」
 上山の座るテーブルの上には、すでにコンビニ弁当は、なかった。
『じゃあ、続きをやりますか、課長』
「ああ、そうだな。それにしても、君は金がかからんから、いいよな」
『はい、幽霊にお足は、いりません』
「ははは…、上手いこと云うなあ。しかし、そのとおりだ」
 上山は妙なことに納得し、笑いながら頷(うなず)いた。
「さてと…。ああ、第一点が宗教感、で、民族と軍隊が二点、三点か。…要は、君が、この三点をケース・バイケースで念じると。まあ、こんなところだな。これ以上、複雑にすれば、君が困るしな」
『ええ、それはまあ…。出来るだけシンプルにお願いします』
「次に、手順と場所だな。ソマリアのどこに現れるかだ。正確な場所へ現れることが出来るのかい、君?」


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第八十三回)

2011年11月26日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                
    
第八十三回
「ああ、近所の小学校だ…」
『なんだ、そうでしたか』
 ただ、それだけの会話だったが、昼になったことは上山も意識したから、作業を中断することにした。
「君は、いいだろうが、ちょいと昼にするよ」
『あっ! はい。生きてると辛(つら)いですね、三度の食事は』
「ははは…、そこへいくと君はいいよな。食わなくてもいいんだから」
『それは楽になりましたね。食事は美味しくて楽しいですが、毎日だと、いろいろと厄介ですからね』
「ああ、まあな…」
 話が妙な方向へと転げたので、上山は口を閉ざして厨房の冷蔵庫へ向かった。
冷蔵庫の中は三日ほど前に買っておいた水煮缶とビール缶が一本、それに深夜、コンビニで買った弁当一個のみで、なんとも味気なくシンプルだった。幽霊平林に出会い、それ以降、どこか上山の生活は偏(かたよ)りを見せていた。満杯になるほど詰め込まれていた冷蔵庫も、外食が増すにつれ、その容量を減らしていた。上山は、その冷蔵庫からコンビニ弁当を取り出した。
「500W(ワット)で、1分30秒か…」
 上山は小声で呟くと、コンビニ弁当を電子レンジへ入れてチンした。上山の後方上をプカリプカリと漂っている幽霊平林は、その一部始終を、さも第三者的に眺(なが)めている。
『こうして食べるものがある日本は、ほんとに、いい国ですよね』
「ああ、そうだな。ソマリアやシリアじゃ、コンビニ弁当なんて年に一度、食えるか食えないかのご馳走だろうな」
『はい、僕もそう思います。それが消費期限や賞味期限が切れたらポイ捨てですからね』
「そうそう…。もったいない話だ。そのうち、日本は罰(ばち)が当たるぜ」
『ええ…。放射能汚染された食糧でも、アフリカじゃ取り合いだろうな…って思えます』
「君! いいこと云うな。そのとおりだ! 飢えや渇きには人間、耐えられんからな」


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第八十二回)

2011年11月25日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第八十二回
 行動目的を纏(まと)め、そのために、どういう内容を念じればいいのか…。二人は模索に入った。正確に云うならば、一人と一霊である。
「十羽ひと唐揚(からあ)げ、でいかんとな」
『要は、効果大を狙うってことですね?』
「ああ、そういうことだ。宗教なんてものは、個人の心に根ざすところが大きいからな」
『ソマリア全土を範疇(はんちゅう)に置いて念じるということですね』
「それに限っちゃことでもないが、グローバルに念じてくれ」
『宗教感を全国民から喪失させる。まず、これが一点ですね?』
「ああ…」
 二人の模索は佳境に入っていった。もう昼が近いが、まったく時間は忘れ去られている。
『宗教と民族と軍隊ですか?』
「んっ? ああ、まあな。独裁とかもある…」
『貧しいのに高価な武器はあります』
「売らなきゃ、ないのさ」
『OILの利権とかがある国々ですからね』
「いや、利権のない国のシリアだって武器はあるし、独裁政治で殺人家がトップだぜ」
『中東アジアやアフリカは滅茶苦茶な国が多いですよね』
「ああ…。今回はアフリカだが、中東アジアも悲惨だなあ」
『ええ…』
 二人の声はテンションを下げた。
 十二時を告げるチャイムが家の中へ届いた。上山の近くにある小学校の時報であることは紛(まぎ)れもない。そのことは、この地区の住人である上山は当然、知っているが、幽霊平林は知らないから、キョロキョロと部屋を見回している。


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第八十一回)

2011年11月24日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 
    
第八十一回
『本当は、こういう私的なことに使っちゃいけないのですが、今は仕事の打ち合わせ、…まあ仕事というとなんなんですが、活動中ですので、特別サービスです』
 幽霊平林は陰気にニヤリと笑った。
 注がれた茶を妙な気分で上山は半分ほど飲んだ。現実に起きている事実ながら、どうも上山には絵空事か夢を見ているとしか思えないのだ。確かに、急須が宙を漂って茶を淹(い)れる、などということは現代科学では否定される事象なのだし、もしそれを世間で語れば、気がふれた、狂ったと揶揄(やゆ)されるのは必定なのだ。しかし、現実にこうして淹れられた茶を啜っていると、やはり信じない訳にはいかない上山なのである。
「私には分からんが、君がその筆で念じれば、すべて思いどおりになるのか?」
『えっ? いや、それは分からないです。ただ、今までの経緯(いきさつ)で云えば、ほとんど思いどおりになっています。失敗といいますか、念じて成らなかった試しはないです』
「そうなのか。そりゃ、大いに期待が持てるぞ。規模や人数、事の大きさは関係なくなるからな」
『はあ。それは、まあ、そうです…』
 幽霊平林はプカリプカリと漂いながら頷(うなず)いた。上山は茶を飲み終えて椅子を立つと、ツカツカと歩いて、ふたたび掲示板の前に立った。そして、自分の書いたマジックの箇条書を見ながら腕組みをした。
「現地では、すぺて君に念じてもらうしかないんだが、出来るだけ念じる内容をコンパクトに纏(まと)める必要があるな。何が起こるか分からんソマ
リアだから、手短(みじか)に念じて如意の筆を、ということだ」
『そうですね。アレもコレもでは、僕も困りますし、忘れてしまいます。だいいち、時間が、いりますし…』
「そういうことだ。この箇条書きにした文章を、もっと短く的(まと)を得て纏めよう」
『はい!』
「君も、私が纏める文章に気づくことがあったら云ってくれよ」
『分かりました』


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第八十回)

2011年11月23日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  
    
第八十回
『昨日より断続的に繰り返しているソマリアの宗教対立暴動は益々、その深刻さを増し、拡大の一途を辿っている。国連本部は緊急の常任理事会などの協議を開始した』
「ストップ! …要は、暴動が沈静化していないというこったな?」
『ええ、そのようですね。拡大しているんですから』
「ああ…、続けてくれ」
『はい。…軍部首脳は不介入の方針を、すでに表明していることから、政府は警察による治安維持部隊編成、衝突の起こっている地区に派遣の意向を固めた』
「ストップ! …軍部は不介入だと…。で、政府は警察の特殊部隊を送り込もうとしている訳だな…」
『そのようです…』
 上山はマジックを走らせて箇条書きで状況を纏(まと)め書いた。
「暴動の規模は、首都より全土に拡大する傾向にあり、と…」
『はい、そうです。読み続けますか?』
「いや、ちょっと休憩しよう…。少し喉が渇いた」
『でしたら、お茶でも淹(い)れましょうか?』
「ああ、そうしてくれ。えっ? …って、君、そんなこと出来んのか?」
『いや~、僕は出来ませんよ、課長。すべては、この如意の筆の力です』
 そういうと幽霊平林は両眼を閉じて軽く念じると、如意の筆を二度ばかり振った。すると、どうだろう。急須がテーブルを離れてプカリプカリと浮き上がり、給湯ポットの下へ静かに落下して置かれた。続いて急須の蓋(ふた)が、これもフワリフワリと外れ、ポットの湯が出始めた。そして、湯が止まると、浮いていた蓋が元のように閉じられ、急須は、ふたたびプカリプカリと浮いて湯呑みに近づいて茶を注ぎ始めた。上山は、その一部始終を茫然と眺めながら、如意の筆の壮大な霊力を感じるのだった。


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第七十九回)

2011年11月22日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  
    
第七十九回
「おっ! これなんか、手頃じゃないか。そう危険そうでもないし、二人の第一弾としてはバッチリだと思うんだが、君はどうだ?」
 右上を見上げるように、上山は幽霊平林に訊(たず)ねた。
『いいんじゃないですか、それ。僕もそれくらいが確実だと思いますよ』
 幽霊平林は即座に肯定した。上山が手にする新聞には、部族の宗教間対立によるアフリカ某国の暴動勃発記事が掲載されていた。
「ひどいことになってるなあ…。そこへいくと、我が日本は平和だ…」
『ありがたいことです。死人の僕が云うのもなんですが…』
「そうそう。素直に感謝しないとな。その心を忘れた日本人が増えつつあるのは悲しいが…」
『おっしゃるとおりです。困ったもんですよ』
 幽霊平林は頷(うなず)いて肯定した。
「よし! じゃあ、私がマジックで要点を書くから、君は、これを読んでくれ」
 上山は、新聞を示しながら云った。
『はいっ!』
 幽霊平林は新聞にスゥ~っと接近しながらそう云った。
「軍事紛争じゃないだけ増しだわな」
『ええ…。僕は死んでますから、どちらでもいいんですが、課長は生身ですからねえ』
「生身か…。なんか生肉のユッケ的表現で、いやだな」
『すいません…。それじゃ、記事を読みますよ』
「ああ…」
 上山はケント紙の前でマジックを片手に聴き耳を立て、幽霊平林は新聞記事に目を凝らした。


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第七十八回)

2011年11月21日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   
    
第七十八回
「ああ…。いやなに、そう云われると、なんか選挙に出馬する前の心境になるなあ」
『ははは…。問題はまだひとつ、あります…』
「なんだ、それは?」
『どこに現れるかです。それと、何をどうするか、です』
「そうだなあ。漠然と出現しても正義の味方には、なれん」
『そうです。退治する社会悪と、その方法を煮詰めてからの出現でなきゃ駄目です』
「その場所もな」
『ええ、少し話を煮詰める期間を設けましょうか?』
「ああ、そうしよう」
 二人は石橋を叩いて渡る策を取ることにした。
 二人が練った計画策は、まず上山の材料購入から始まった。材料とは、計画表を描くことで具体的に計画を遂行可能とする作戦表のようなものである。その行動による探索者は、もちろん幽霊平林である。上山は、この段階では田丸工業に身を置いているから、社内で気づかれないようにせねばならない。課長、最近、お疲れのようですが、何かあったんですか? などと云われぬよう注意が必要だから、敢(あ)えて実行者を外し、幽霊平林にした訳だ。彼の身には疲れなどないし、だいいち、国外への移動は容易なのだ。だから、上山は文房具と紙などを求める裏方をやる分担を引き受けた。
 ノート、ケント紙、鉛筆、ボールペン、マジックなどの筆記具、日々の新聞、世界地図、パソコンなどを上山の書斎に揃え、新聞記事の主だったものをノートにピックアップし始めるのは三日後とした。そうして、纏まったところでケント紙に書き、二人で話を煮詰める手筈(てはず)を整えた。
 そして、三日後である。上山の書斎の壁には買ってきたケント紙が画鋲(がびょう)で四隅が止められ、貼られていた。上山は徐(おもむろ)に地図帳を手前へ置き、数日分の重要記事を探し始めた。幽霊平林は上山の右隣り上から覗き込む格好でプカリプカリと浮いて漂っている。


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