水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

世相ユーモア短編集 -40- コンプライアンス

2024年12月31日 00時00分00秒 | #小説

 世相は残念なことに目に見えないコンプライアンス強化の方向へ少しづつ進んでいる。繰り返すが、実に残念な国の施政である。まあそれも、その方向を止めだてる組織が存在しないのだから、致し方ないといえばそれまでなのだが…。事件絡みの与党議員さん達も然(さ)りながら、それ以外の議員さん達にも猛省を促したいっ! などと偉そうに言える身の上ではない年金暮らしなのだが…。^^
 どこにでもいる中年男性の二人が、路地の片隅で寒さを避けながら話し合っている。
「少しづつだぜ…」
「コンプライアンス強化だろ?」
「ああ、そうだ。俺はガスから電気にした…」
「液化ガス取締法が強まったからな…」
「点検、点検って、議員さんを取り締まりたいよっ! まったく嫌な時代になっちまった!」
「だなっ! そういや、血圧基準の80~130が75~125になったぜっ!」
「なら、今まで何を測ってたんだっ! ってなるよなっ!」
「それは言えるっ!」
「おっ! いけねえやっ! 冷えてきやがったっ!」
「八尾卯で美味(うま)い出汁(だし)のかけうどんでも啜(すす)るかっ!」
「そうしよう! あそこは刻み葱が無料で、入れ放題だからなっ!」
「コンプライアンスの強化がねぇ~やっ!」
「ははは…違(ちげ)ぇ~ねぇ!」
 二人は哂(わら)いながら背を丸め、繁華街の方向へ寒そう立ち去った。

                    完


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世相ユーモア短編集 -39- 天水(てんすい)

2024年12月30日 00時00分00秒 | #小説

 他の短編集でもタイトルとしたが、天水(てんすい)とは、人の力ではどうすることも出来ない自然現象を指し、アレコレと画策するのは無駄なことを意味する。今の世相の一例を挙げれば温暖化が該当する。何年受験しても不合格となるのも天水だ。もう、やめなさい! と天が忠告しているのである。^^
 山室(やまむろ)は今年で五回目の大学受験に臨もうとしていた。^^
「山室君、来年はやめた方がいいよ…」
「先生、今年は受かりそうな気がするんですが…」
「君は毎年そう言ってるじゃないか」
「はあ、それはまあ、そうなんですが…」
 卒業した高校の進路指導を担当する教諭と、山室は今年も同じ教室の一角で話し合っていた。五年目である。^^
「天水には逆らえんよ、山室君」
「天水? 先生、なんですか、それは?」
「だから天水だよ。降る雨は止められんだろ」
「ええ…」
「今の世相は、何をするにも天水が増えてる」
「たとえば?」
「ポイ捨てゴミだよ。君が受験を諦めんようなもんだ、ハハハ…」
 山室は、何がハハハだ…とは思ったが、生徒と教師の関係ではどうしようもく、思うにとどめた。
 天水となる事柄は、奮闘せずに早くやめた方がいいようです。しかし、それにしても住みにくくなった世相ですね。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -38- 貨幣

2024年12月29日 00時00分00秒 | #小説

 最近の世相は貨幣を預けるにも手数料がかかる時代となっている。実に嘆かわしい世相だが、こればかりは、そう致しました…と、金融機関に告げられれば手の打ちようがなく、小市民にはどうしようもない。^^
 少額貨幣が貯まった禿川(はげかわ)は、とある金融機関の窓口で預けようとしていた。
「あの…この枚数ですと手数料がかかるのですが…」
「えっ! そうなの? 前はいらなかったんだけど…」
「前は前、今は今ですから…」
「それはまあ…」
 窓口の係員にそうにべもなく言われ、禿川は返す言葉がなく撤収することをを余儀なくされた。
「どうも、申し訳ありません…」
「あなたに謝られても…。そういう決めになったんなら仕方がないです。他を当たってみます…」
「おそらく、どの金融機関へ行かれても同じかとは存じますが…」
 大きなお世話だ…とは思えたが、そうとも言えず、禿川は窓口係員に軽くお辞儀をすると、その金融機関を去った。
『バーチャル貨幣の時代か…』
 カードや電子マネー決済に変化しつつある世相に禿川は少し嫌気がさした。
 確かに禿川さんが思われるようなバーチャルな世相になりつつありますね。昔人間としては悲しい現実です。ぅぅぅ…。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -37- 取説(トリセツ)

2024年12月28日 00時00分00秒 | #小説

 過去の短編集にも登場した取扱説明書の略語が取説(トリセツ)であることは、現代の世相なら明々白々な時代となっている。ただ、この取説は、かなり複雑化している点を見逃してはならない。フツゥ~程度の頭の良さの方でも分かり辛くなってきているのである。^^
 山毛は、とある電気製品を購入し、さっそく使おうと付属の取説を読み始めた。
『なになに…? AをBに設定したのち、CをDに接続し、しばらく点滅状態を確認して下さい、だとっ!?』
 ここで、山毛は分からなくなってしまった。点滅状態を確認する時間が説明されていなかったのである。
『どれくらい確認すんだっ!!』
 山毛は半分切れかけていた。切れたとしても誰に鬱憤を投げていいのか? も分からなかったのだが…。
『まあ、いいか…』
 怒っても仕方ないか…と心を静め、山毛は、とにかく取説通りに動作を進めた。ところがそのとき、小学生の長男が山毛の書斎に飛び込んできた。
「パパ、夕飯だって…」
「ああ、今行くってママに言いなさい…」
「今って、どれくらい?」
 今は今だっ! と怒鳴ろうとしても、子供に怒鳴るのも大人げないか…と、山毛は思うにとどめた。
『クソッ! 取説の奴めっ!』
 ああ、取説をもう少し簡単にしろっ! 今の世相にプッツンした山毛は取説を読むのをやめ、キッチンへ向かった。
 山毛さん、取説は、ゆったりした気分で読みましょう。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -36- 黒くない灰色(グレー)

2024年12月27日 00時00分00秒 | #小説

 最近の世相に感じることといえば、なんとも黒くない灰色が増えたということである。いい状況の灰色ならいいのだが、悪い場合の灰色、分かりやすく言えば黒に近い灰色(ダーク・グレー)が席巻する時代になっているのだ。パール・グレーとかホワイト・グレー、シルバー・グレーの類(たぐ)いならいいのだが、その手の灰色は目には見えず、いろいろと悪さをする。黒に近い灰色だから黒(ブラック)とも言えず、お灸をすえることも出来ないから手に負えない。^^ 人、物、事すべてに言える黒くない灰色である。^^
 ここは、とある時代の地方検察庁の内部である。特捜部は賑わって欲しくないほどガヤガヤと賑わっていた。黒くない灰色議員がワンサカと獲れた、いや捕れたのである。
「こんな事件、過去にもあったな…」
「はあ、私の若い頃です…」
「ははは…今も若いじゃないか」
「いや、気持は若いんですが、この春で定年退官です…」
「そうなの? ということは、だ。私の方が五年以上、若いってことになるが…」
「はあ、そうなります、部長…」
「それにしても与党も与党さんだが、他の議員さんもね…」
「はあ、我が国には真(まこと)の意味の野党がありませんから…」
「増えた政策集団ばかりじゃ、黒くない灰色議員さんが増えるか…」
「ですね…。独裁政治ですから…」
「まあ、軍国主義じゃないだけが救いか…」
「まあ、そんなとこでしょう…」
「ここは、賑わって欲しくないな…」
「ですよね…」
 暮らしにくくなった昨今、黒くない灰色よりは白っぽい灰色の人、物、事が増えて欲しいですよね。関取衆の星取表も同じです。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -35- 物価

2024年12月26日 00時00分00秒 | #小説

 最近(2024/01現在)の世相を見れば、数年前より物価が高くなったことに気づかされる。政府は低所得者層に対し生活支援金を交付している。私も大層、助かっている訳です。^^
 鳥餅は正月の残り餅を焼いて食べていた。
「これがあるから随分、助かる…」
 鳥餅が助かるとは、食費が助かる・・という意味である。家計の総支出に占める飲食費の割合を示す数値にエンゲル係数というのがあるが、世相は激しくエンゲル係数が高い鳥餅の家計を攻め続けていた。それでも負けまいと、土俵際の徳俵でしぶとく鳥餅は残っていた。その鳥餅に有り難い生活支援金が振り込まれた。年金生活者支援給付金の支給に関する法律に基づき市町村に交付する事務費に関する政令によってである。こんな令はいいな…と思う鳥餅としては、地獄に仏さま・・の気分である。^^
『これで今月は、なんとか…』
 退職後、年金暮らしの慎(つつ)ましい暮らしを続ける鳥餅は、心底そう思った。
 心から助かる…と思えるほど、低所得者の暮らしは辛(つら)い世相になっている訳です。ああ、辛いっ!^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -34- 秋刀魚(サンマ)

2024年12月25日 00時00分00秒 | #小説

 宮住(みやずみ)は、こんな夢を見ていた。今、焼いたばかりの美味(うま)そうな秋刀魚(サンマ)が皿から忽然と消えたのである。暖かいご飯を茶碗に盛り、熱湯を茶葉を入れた急須に注いで湯呑みへ流し入れ、さあ、食べるかっ! と意気込んだ次の瞬間、消えたのである。皿には添えられた大根おろしが、どこへ行ったのよっ! という怒り顔で消えた焼きたての秋刀魚を探すように見回していた。どうも秋刀魚の奥さんのようだな…と宮住は思った。すると突然、どこからともなく一面識もない一人の漁師が現れた。
『いやねぇ~旦那っ! 最近の温暖化で、さっぱり獲れなくなっちまいましてねっ!!』』
 宮住はボリボリと申し訳なさそうに頭を掻く漁師に説明され、忽然と消えた秋刀魚の訳を朧(おぼろ)げながら理解することが出来た。流石に惣菜が大根おろしだけでは…と宮住は思ったが、よくよく考えれば、これも暮らしにくくなった世相の変化なのか…とも思えた。
『秋刀魚、お高いんでしょうねぇ~?』
『はあ、そりゃもう…。なにせ、漁獲量が最盛期の一割以下になっちまっちゃぁ~ねぇ~。ははは…』
『そうですか…』
『ようがしょ! 旦那に値を訊(き)かれたんじゃぁ~、こちとら漁師の意地ってぇ~のがありやすしねっ!』
 漁師がそう言うと、消えた焼きたての秋刀魚が、宙にフワフワと浮きながら、どこからともなくスゥ~っと皿の上へ鎮座した。宮住はマジックを見ているかのように、皿の上で湯気を立てる秋刀魚をシゲシゲと見つめた。
『そいじゃ~あっしは、これで…』
 漁師は軽く宮住にお辞儀をすると、いつの間にかスゥ~っと消え去った。宮住は不思議な心持ちで箸を手にし、秋刀魚の身を解(ほぐ)すと口中へ放り込もうとした。そのとき、ハッ! と宮住は目覚めた。宮住は、いい夢を見たな…と思うでなく思い、上半身をベッドから起こした。すると、どこからともなく秋刀魚を焼いたいい匂いが宮住の寝室へ漂ってきた。宮住の見た夢は正夢だったのである。宮住は、美味い秋刀魚が食えりゃ、それでいいさ…と、世相の変化などどこ吹く風で忘れることにした。
 食べられる健康とシチュエーションがあれば、それで十分に幸せです、宮住さんっ!^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -33- 慣例

2024年12月24日 00時00分00秒 | #小説

 日本人はどうも慣例に弱い民族のようだ。この慣例という魔物は、目に見えない速度で少しずつ人々の間にウイルスのように忍び寄る性質がある。人々の目には見えず、時折り、悪さをする点は、どちらもよく似通っている。^^ 最近、巷(ちまた)を席巻している国会議員さん達の政治資金収支報告書・未記載問題も、少しずつ資金記載の流れが緩んで慣例となった悪い一例だろう。地検・特捜部も俄かに色めき立っているが、この立件にしたって、かなり以前に立件出来たはずなのである。どうも仕事が慣例となり、少しずつ緩くなっているようだ。議員さんは当然、そうだが、官憲さんもこれでは、もはや手の施しようがない。^^
「あれっ! 俺の海老はっ!!?」
 戸澤家の長男、大也(たいや)が部活を終えて帰るや早々、冷蔵庫を開けて叫んだ。たかが海老の天麩羅一匹なのだが、大也にすれば事件のような大ごとである。
「なんだ大也、帰ってたの。お帰りなさい…」
 抜けたタイヤのように萎(しお)れている大也を見て、キッチンに入ってきた母親の里香が気のない返事をした。
「俺の海老はっ!!?」
「昼、出張帰ってきたお父さんが、腹が空いたってインスタント・ラーメンに乗せて食べてたわよ…」
「チェッ!! またかよ…」
「お父さんが冷蔵庫を物色するのは慣例なんだから、どうしようもないでしょ。ラップに包(くる)んで、名前書いて入れときなさいよっ!」
「ラップにっ!?」
「そう赤マジックがいいわね…」
「そこまで…」
「慣例は、そこまでしないとダメね…」
「そうするか…」
 大也は頷いて浴室へ消えた。
 慣例になっている内容は、相当手荒なことをしないと防止出来ないようです。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -32- 緻密(ちみつ)

2024年12月23日 00時00分00秒 | #小説

 最近の世相は一瞬の隙(スキ)も許されないほど殺伐感が増している。外へ出るのも緻密(ちみつ)な先読みが必要となる。本人は緻密に考えたつもりでも、世相はその緻密な読みを崩すのである。
 竹林はスーパーでいつものように食品の買物をしていた。紙にメモ書きして出たから、書かれたものを買うだけだった。ところが、である。メモ書きした食品がその日に限って棚に並んでいなかった。どうも、先に買われてしまったか…と竹林はガックリとした。だが、竹林の緻密な先読みは、すでにその結果を読み、緻密な対応を考えていたのである。流石(さすが)は竹林名人っ! とでも声をかけたくなる緻密さだった。竹林は、その空になった食品棚をチラ見して、ひと言、呟いた。
「なんだ、売り切れか…」
 竹林は慌てることなく、その隣の類似品を手に取ると買物かごへ躊躇(ちゅうちょ)することなく入れた。そして、徐(おもむろ)にメモ書きの買い忘れがないかを確認し、レジへと向かった。こうして、竹林のその日の買物は平穏に終了したのである。
 まあ、買物が平穏に終わるのは当然と言えば当然ですが、買う品がなかったとしても、緻密な先読みでその対応を考えておけば、別に何の問題もない訳です。この緻密な先読みは、世相の中の行動すべてに言えるようです。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -31- 速(はや)過ぎる

2024年12月22日 00時00分00秒 | #小説

 最近の慌ただしい世相に、思わず時の流れが速(はや)過ぎると思うのは私だけなんですかね。^^ 車社会になってしまったからかも知れません。^^
 木地師の村吉は山へ入り、器になりそうな木を探していた。これはっ! と思える木を適当に切り倒して適当な寸法に裁断して山裾の製材場へと運び、製材後の適当な寸法の木を加工小屋で個々に器にするのだ。この山では木地にするまでで、漆の塗りは山を下りた村でやっていた。その村にも最近は隣町から車が頻繁に出入りするようになり、どことなく時の流れが速くなったな…と村吉は思うでなく感じていた。
「村吉さん、腹が減りましたね。そろそろ昼にしましょう…」
 仕事仲間の山神はそう言うと、チェーンソーのスイッチを切った。喧しいほどの音が半減し、村吉も切ったことで山に静けさが戻った。その静けさは人が忘れつつある自然の静かさであった。なんとなく心も落ちつきを取り戻し、村吉は山神に続きいて切り倒された木に腰を下ろした。いつものように保温ポットに入れた熱い味噌汁を木地椀に注ぎ、握り飯と沢庵を頬張る。総菜は温室栽培のレタスと焼き豚のスライスだ。動いたあとだから無性に美味かった。瞬く間に握り飯の数個は胃の腑へと治まり、別の保温ポットの熱い茶を飲み終え、村吉は人心地ついた。さて、そうなると、辺りは人っ子一人いない時が完全に停止した山中である。村吉はふと、慌ただしい下界の動きとのギャップを感じ、下界の時の流れは速過ぎるな…と、思うでなく思うのではなく、完全そう思った。^^
 確かに、車は激しく動き続けてますが、人の動く姿は最近、時折り見かけるだけで、ほとんど目の当たりにしませんよね。^^

                   完


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