この事件まがいの一件は、うらぶれた裏通りの屋台で起きた。幸い、爆発事故や屋台の焼失までには至らず、屋台の屋根の一部を焦(こ)がす程度で済んだ。それでも、屋台の親父が大事にしていた提灯(ちょうちん)だけに、被害届が串焼(くやき)署に提出された。親父の炭火(すみび)は、火の不始末などは絶対、有り得ない! と串焼署の刑事、葱間(ねぎま)に訴えた。
「分かりました。犯人を見つけ次第、お知らせしますから、今日のところはお引き取りください。ただ、消防と科捜研の調べでは、放火の疑いはないとのことなんですが…」
「いや! アレは絶対、放火です。必ず引っ括(くく)ってくださいっ! ぅぅぅ…形見の提灯がっ!」
炭火は机の上で泣き崩れた。号泣の声は署内の隅々にまで行き届いた。何ごとだっ! とばかり、署長の藻津(もつ)が顔を出し、すぐ引っ込んだ。
その後、葱間により捜査は進められたが、不審人物の目撃証言やこれといった新事実は出ず、放火未遂事件の線は立ち消えた。
「一度、お払いを受けられた方がいいですよ」
屋台で準備をしている炭火を訪れた葱間は、最終報告のあと最後にそう言い残した。今でも屋台の提灯焼失事件? は不思議な一件として串焼署の語り草となっている。
完
事件? は深夜に起きた。所轄(しょかつ)の蚤多(のみた)署が通報を受けたのは明け方の6時前だった。通報したのは早朝のジョギングで偶然、通りかかったサラリーマンの蚊取(かとり)である。蚊取はようやく明け染めた目赤川に人が倒れているのを橋上から見たのである。おやっ? と思った蚊取は走る足を止め、その人影を凝視(ぎょうし)した。見間違えではなく、人に違いない…と思えたのは、しばらくしてからである。蚊取は慌(あわ)てて川岸へ急いで降りた。すると、やはり一人の男が倒れていた。蚊取は持っていた携帯で警察へ通報した。
倒れていた男、猪山は意識を失っていたが一命があったため救急搬送された。
「ふ~む。自殺か他殺か…」
蚤多署の刑事、芋畑は現場の川岸から落ちたと思われる橋を見上げ、呟(つぶや)いた。
「芋さん、害者の意識が焼けた、いや、戻(もど)ったそうです!」
息を切らせて駆けつけたのは、若手の刑事、落葉である。
「うむ、そうか…。まあ、とりあえずよかった」
「それが、妙なんですよ。本人は橋からフワッ! とナニモノかに押されて落ちたようだ・・と言ってるらしいんです」
「それは怪(おか)しい。目赤川のあの橋の上からだと、どう考えても助からんはずだ。全身打撲で内臓破裂だろうが」
「ええ、そうなんでしょうが、本人は掠(かす)り傷で、意識を失っていただけなんですから…」
「どうも、分からん…」
次の日、害者? の猪山への事情聴取が病院で行われた。
「なにげなく歩いていて、橋の上でフワッ! と押されたようだとおっしゃってるんですが?」
芋畑は、やんわりと穏やかに訊(たず)ねた。
「はい、休日の散歩をしていたときですから、その記憶は鮮明に残っております。ただ、その後の記憶がございません」
「橋から落ちていく感覚も、ですか?」
それまで黙っていた落葉が急に口を開いた。
「橋から何かの圧力を受けて身体が傾いたところまでです…」
「そうですか。何者かに押されたのなら傷害、いや殺人未遂事件になりますしね」
「あなたが、フラついて落ちたのなら、ただの事故です」
「こいつが言うとおりです。ただ、私らに分からんのは、本当にあの高さから落下されたのか? という疑問です。科捜研の話では、あの高さからの落下の場合、致死率は95%以上とのことですが…」
この一件は被疑者が見つからないまま、未解決の一件として忘れ去られた。見えるモノだけが怖いのではない。見えないモノが真のサスペンスなのだ。
完
抜毛(ぬけげ)は今日も張り込んでいた。ただ若い頃に起きた事件だけに、すでに時効となっている一件だった。あれから40年・・すでに抜毛の定年は来年に近づいていた。それでも抜毛は追っていた。必ず犯人は尻尾(しっぽ)を出すと確信しての張り込みである。
話は事件が起きた40年前に遡(さかのぼ)る。当時、抜毛は新米(しんまい)刑事として、先輩刑事達のチョイ役で、こき使われていた。食料調達役、連絡係、雑用・・と、およそ刑事とは関係がない仕事ばかりだった。それでも、そのうち俺も刑事らしい仕事が出来るはずだ…と信じ、抜毛は頑張った。
その日もすっかり雑用で疲れ、ようやく仕事から開放されて家路についていた。抜毛はそのとき、腹が限りなく減っていることに気づいた。仕事中は失敗をしまい! と緊張していて、腹が減っていることに気づかなかったのだ。それもそのはずで、よく考えれば頼まれた雑用に忙殺され、昼を食べていなかったのだ。抜毛は通勤路にある一軒の定食屋へ入った。店はかなり混んでいた。
「相席(あいせき)でよろしいですか?」
店の女店員が訊(たず)ねた。相席以外、誰も座っていない席は見渡したところなかった。
「ああ…。焼肉定食」
「はい! じゃあ、こちらへ、どうぞ…」
指定された席へ仕方なく抜毛は座った。対峙(たいじ)して座っていた男は、すでに丼(どんぶり)鉢を二つ空(から)にし、三つ目のカツ丼を食べていた。
「お近くの方ですかっ?」
男は親しげに抜毛に語りかけた。
「えっ? ああ、まあ…」
抜毛はそう返す以外になかった。男は浮浪者風で薄汚れていた。変な男だな…とは新米刑事の抜毛でも分かったが、別に悪いことをした訳でもないから仕方なく話を合わせる他なかった。
「そうなんですか? ははは…私もすぐ近くで」
「ああ、そうですか…」
「それじゃ!」
男は食べ終えると抜毛に一礼しながら席を立ち、出口の勘定場へ向かった。そして、勘定場の女店員と二言(ふたこと)三言(みこと)話すと、素早く出て行った。その後、抜毛は焼肉定食を食べ終え、勘定場へ向かった。
「いくら?」
「2,000円になります…」
「えっ? 550円でしょ?」
「連れのお客さんの分が1,450円ですから…」
抜毛は、しまった! やられた…と思った。知能犯的食い逃げだった。
その日以降、抜毛は来る日も来るも定食屋を見張っている。だが、その男は40年経った今も、現れていない。
「今日も、いない…」
食いものの恨(うら)みは恐ろしいのである。
完
四方波(よもなみ)署の刑事課では、ああでもない、こうでもないと状況調べが続いていた。謎を秘めた事件まがいの一件で、捜査員達を梃子摺(てこず)らせていたのである。
「害者が右折したときは晴れていたんだったね?」
「ええ。そのときは、ですが…」
「辺(あた)りに誰もいないのに押し倒されたと…」
「はい。目撃者がいないですから、誰もいなかったことになりますね」
「太陽に目が眩(くら)んで倒れたとも考えられる…」
「はい。ただ、その日は風が強かったですね」
「強い風に押し倒されたか…」
「はい。ただ、害者は背中に衝撃があったとも言ってます」
「なるほど、風に押し倒されたのなら衝撃はないな…」
そのとき、刑事が一人、署へ戻(もど)ってきた。
「警部、害者の意識が戻り、証言が取れました。太陽は雲に隠れたそうです」
「そうか…」
「ところが、風が強かったようで雲は風に吹き飛ばされたんですよ」
「まあ、そうなったのか…」
「はい。また太陽が害者を眩(まぶ)しくさせたのですが、幸い右折した壁が日差しを止めたんです」
「だったら押し倒されないじゃないか」
「はい、そうなります。しかし、そのとき風で近くの家の植木の枝が飛んだようです」
「その枝は?」
「現場から少し離れたところにあることはあったんですが…」
そこへまた、一人の刑事が現れた。
「科捜研の話ではその枝の折れた痕跡ですが、ネズミに齧(かじ)られた跡があったと…」
「犯人はネズミか?」
「齧られはしていたんですが、そのときの枝は折れていなかったようです」
「となると、やはり風が犯人か…」
話は童話のような話となり、事件まがいの一件として立ち消えた。
完
コトは公園に屯(たむろ)するホームレスへの突然の退去命令で発生した。
甘谷署である。役所に出動を要請された機動隊長と署長の会話である。
「一端、退去したホームレスが一日ごとに塒(ねぐら)を変える頭脳作戦に出たようです!」
「なにっ!? どういうことだ?」
「公園にいること自体は都市公園法違反にはならないからです」
「… だが、6条があるだろう」
「いや、それが彼らは衣服の一部だとして、帽子部分を大きくした衣服まがいの寝袋[シュラフ]で眠るようです」
「そんな複雑な服を作る金がホームレスにあるとは思えんが…」
「聞き込みによれば、福祉ボランティア団体の寄付による配布だそうですが…」
「そうきたか…」
憲法25条[健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障した条文]⇔都市公園法の目に見えない長い難解な訴訟合戦が始まろうとしていた。
後日の甘谷署内である。署長と副署長が小声で話していた。
「なんか難しい話になってますな」
「遵法(じゅんぽう)占拠か…。民事事件は我々の感知せざるところだが、下川刑事の署内での寝癖はなんとかならんのかね? アソコは臭(くさ)くて堪(たま)らん!」
「はあ、下川警部補ですか。刑事課長に注意させた上で強制退去させましょう」
「頼んだよっ。あの男はホームレスより厄介(やっかい)だ」
「確かに…」
二人は顔を見合わせ無言でニヤけた。
完
物事にはサスペンスタッチで進行していても、必ずしもサスペンスにはならない事件も多く存在する。
縦走(たてばしり)署では起きた傷害事件の取調べが行われていた。殴(なぐ)ったのは登坂(とさか)で、殴られた相手は登坂の友人の下山(しもやま)である。二人は場末(ばすえ)の屋台でおでんを肴(さかな)に酒を飲んでいた。
「下山さんとは古い友人だそうだが?」
傷害事件を専門にしている刑事の寝袋(ねぶくろ)は、不思議そうな顔で対峙(たいじ)して椅子に座る登坂を見た。
「はあ、会社に入ったときからの付き合いで、かれこれ30年になります…」
「そんな仲のお前が、なぜ殴ったんだ?」
「殴ったんじゃないんですよ。私と下山は叩(たた)き合いをしていたんですよ」
「叩き合い? どういうことだっ!」
「いや、私も下山もかなり酔ってたんですが、酔いもあって話が妙な方向へ盛り上がり、昔の記憶で間違った方が相手を叩こうじゃないか・・ってことになりましてね」
「ほう! 妙なゲームだな。それで…」
「はい、始めのうちは間違っても遠慮して、どちらも軽めに叩いてたんですがね」
「それで…」
「次第に力が入ってきて殴り合い寸前になり、私が殴りました」
「それで下山さんは意識を失ったんだな。酒の上とはいえ、訴えられれば傷害事件だぞ!」
寝袋は少し脅(おど)かしぎみに語気を強めた。
「はあ、覚悟はしてます…。それで下山は?」
「まだ意識が戻(もど)らんそうだが、詳しい情報はあとから連絡が入る」
「そうですか…」
数時間後、病院からの電話連絡が縦走署に入った。
「もう帰っていいですよ。下山さんの意識が戻ったそうです」
「…」
「あなたが叩いたからじゃないそうです。なんでも、持病の癲癇(てんかん)が出たそうです…」
傷害事件を想起させる偶然の一致だった。寝袋の態度は一変し、客扱いになっていた。
完
松ノ木(まつのき)署では、とんでもない告訴が発生していた。訴えたのは松ノ木村の村長、小宇多(こうた)である。
「あの木はずっと昔からある由緒(ゆいしょ)…由緒はないが、我々の子供時代からある馴染(なじ)みの木だっ! 誰が切り倒したのかは知らんが、私に一言(いちごん)もなく無断で切るとは許せん破壊行為である! 是非、署の方で調べていただき、犯人を引っ括(くく)ってもらいたいっ!」
「はっ! 村長みずからお出ましとは、かなりご立腹のご様子ですな」
署長の御地(おんち)は小宇多のご機嫌をとりながら窺(うかが)うように言った。なんといっても村では一番の長者である御地が言うことは、村のすべての者を右に倣(なら)え・・させるだけの重さがあった。
「無論だっ! 君には期待しておるから、よろしく頼むっ!」
「ははっ!」
どちらが警察なのか分からない。御地は署を出ようとする小宇多に直立して停止敬礼をした。
小宇多が松ノ木署から消えると、署内はフゥ~~っという安堵(あんど)のため息がどこからともなく漏(も)れた。
「こういう類(たぐい)は、事件にしたくない一件ですな…」
迷惑顔で警部の声良(せいら)が机椅子から立ち上がると、署長席に近づきながら小宇多に言った。
「事件にはしたくないっ! ああ、どうして私は署長なんだっ! あの村長の顔は見たくもない、見たくない、見たくないっ!」
かなり村長に対するトラウマがあるのか、小宇多は見たくないを強調して言った。
「器物損壊の事件性はないように思えますが?」
「ああ…冷静に見れば通行の邪魔だがな、アソコは。まあ、自然破壊には変わりはないが…」
「まあ、自然破壊といえば自然破壊ですが、そういう手合いは人間の私らが裁くことではないですからな」
「ああ! 神さま仏さま、キリストさま、ホニャララさまだっ」
「実害がない難儀(なんぎ)な一件だっ!」
「声さん、迷宮入りにしておこうや」
「ですねっ!」
二人は顔を見合わせ、ニンマリした。
完
物は傷(いた)むものである。目有(めあり)家では、主人の目有が物干し台から柿を採ろうとしていた。毎年、収穫しているのだが、今年はよく出来たせいか、たいそう手間取っていた。ほぼ半ばほど採ったとき、うっかり置いた高枝切り鋏(バサミ)を落としてしまった。当然、鋏(ハサミ)は地上へ数mほど落下した。そのとき、カチン! という音がするのが聞こえた。目有はしまった! とばかりに下へ降りた。鋏を拾おうとすると、取っ手の部分が割れて傷んでいた。一番重要な部分で、この取っ手が欠けては鋏は無用の長物となり、開閉が出来ないから切れない。もう少し慎重に採ればよかった…と目有は悔(く)やんだが、時すでに遅(おそ)し・・だった。これが人なら…と刑事の目有はゾォ~っとした。人なら、明らかに過失傷害の事件捜査となるからだ。鋏には申し訳ないが、まあ許してもらうしかないか…と目有はテンションを下げ、別の鋏をショップへ買いに行った。それにしても後味(あとあじ)が悪い事件ならぬ物損になってしまったものだ…と思えた。
「お父さん、晩ご飯ですよ…」
「ああ、今行く…」
目有は密かにそのときの状況捜査を開始した。者ではないモノだけに、捜査は難航(なんこう)した。なぜ、安易(あんい)に物干し台の勾配(こうばい)がある位置に挟を置いたのか…そのとき落ちる危険性を感じなかったのか…鋏を置いた瞬間の気持はどうだったのか…。謎(なぞ)は謎を呼び、迷宮入りの様相(ようそう)を帯びていた。目に見えるモノの力より目に見えないモノの力は恐ろしい…と目有が感じたのはこのときからだった。
完
朝の出勤ラッシュで駅構内は人の波であふれ返っていた。事件はその中で起こった。ホーム階段で一人の老人が足を滑(すべ)らせ転倒したのである。その余波で数人の一般乗客が巻き添えを食らったが、幸い、命に別状はなく、軽い軽症でコトは済んだ。ただ、そのときの状況は複雑で、転倒した乗客の前の夫婦は、激しく口論しながら階段を下りていた。そして急に夫婦は階段途中で停止して激しく言い合った。夫婦が停止すると思っていなかった老人は二人に追突し、転倒したのである。当然、老人の後方を降りていた数人の乗客も巻き添えを食らって倒れ、軽症を負った・・となる。
事件を担当した所轄警察の十月(とげつ)署は事故、傷害の両面から捜査を開始した。現場検証が念入りに行われ、この一件はサスペンス的な展開に発展しようとしていた。
「いや! そうともかぎらんぞ。夫婦が口論で止まったのは事実だが、老人が偶然、転んだとも考えられる」
一課の主任刑事、出汁(だし)は若い鳥鍋(とりなべ)に反論した。
「転んだのは立ち眩(くら)み・・とかですか?」
「まあ、そういうことだったのかも知れん…」
「老人の後ろの数人は老人とは赤の他人ですが、ひょっとすると、老人に何らかの恨(うら)みがあった・・とは考えられないでしょうか」
「うむ、なるほど…。そういう可能性も否定は出来んな」
「あるいは、階段途中で止まった夫婦と老人の後ろの数人はグルで、老人の持っている遺産を狙う親戚に雇われていた可能性は?」
「う~~む! その可能性も捨てきれんぞっ!」
出汁は少し興奮ぎみに言った。
「となると、これは作為ある悪質な犯行ということになってきますがっ!」
「捜査本部を設置してもらわにゃいかんなっ! 署長に言ってくる!」
半時間後、出汁はショボく署長室から出てきた。
「老人の意識が戻(もど)ったそうだ。スッテンコロリンらしい…」
出汁は少し怒りぎみに不貞腐(ふてくさ)れて言った。
「オムスビころりん、でしたか…」
鳥鍋は多くを語らなかった。考えすぎ捜査は終結した。
完
コトの発端は、どこでもよく起こる楽器の演奏練習による騒音トラブルだった。この事例の楽器はピアノで、弾き手が上手(うま)ければ、それはそれで苦情を警察へ申し出た相手方も納得して聞き惚(ほ)れていたのかも知れない。ただ、騒音傷害の告訴があった今回の事件の弾き手はお世辞にも上手(じょうず)とはいえず、かなり下手(へた)だった。そこへもってきて、輪をかけて拙(まず)かったのは、練習する弾き手が下手と認識していないところにあった。そんな弾き手だったから、賑やかに弾き続けるのは当然である。家族はさすがに苦情は言えず、練習時間になると全員が耳栓(みみせん)をした。
「難儀な一件ですな…」
平松署の伊井はアングリとした顔で上司の課長、吉忠に言った。
「さて、どうしたものか…」
吉忠も同じようなアングリとした顔で、頭に手をやり掻いた。
「いいとこのお嬢さんを騒音傷害で引っ張るというのもね…」
「だな。しかし、出来の悪いお嬢さんもいたもんだ。世間には貧乏で才に恵まれたお嬢さんもいるというのにな」
「世の中、首尾よくはいけませんな」
「だな。ピアノソナタか…曲はいいんだが」
二人は同時にため息を吐(は)いた。
その後、この事件まがいの一件がどうなったのか・・そこまで私は知らない。ただ、お嬢さんは相変わらず下手にピアノソナタを奏でているとは聞いている。部屋には防音工事が施(ほどこ)されたそうだ。
完