水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百十九回)

2011年01月31日 00時00分01秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百十九
 みかんへ入ると、今までとは別人の歓待ぶりであった。そりゃ、大臣なんだから…と云われればそれまでだが、ドアの入口までママや早希ちゃんが迎え入れてくれたからである。こんなことは今までの私なら、千回通(かよ)ってもまずないだろう…と思えた。肩書というのは人間社会、特に日本では幅を利(き)かせるものなんだと、このとき痛感した。コップの水は東京へ出る前にはようやく出してもらえるようになっていたが、この日は加えて熱いお茶がすぐ出た。以前も当然のように出たが、しばらく話してからで、すぐではなかった。おいおい、どうかしたんじゃない? と、思わず早希ちゃんに訊(き)きそうになり、慌(あわ)てて口を噤(つぐ)んだ。
「どうなのよ? あっ! いけない…。お大臣に、こんな口、きいちゃ駄目よね…」
 早希ちゃんは勝手にひとり芝居を演じ、云った自分の言葉を否定した。
「なに云ってる…。今までどおりでいいさ。俺はちっとも変ってないよ」
「またまたまた…。日本のお大臣なんて、転んでもなれないわよ」
「そうよ、満ちゃん。お大臣もお大臣。本物のお大臣様なんだからぁ~」
 ママも早希ちゃんに加勢した。
「そんなっ! ええ…まあ、そうなんですがね」
 ママの手前、あっさり私は撤収した。

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スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百十八回)

2011年01月30日 00時00分01秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百十八
 事件? と、ふと疑問を抱かれた方も多いと思う。というのも、小菅(こすが)総理の乗った車が事故を起こしたのは、あくまでも事故であり、事件となれば犯人とかが加害者として登場し、俄(にわ)かに、きな臭くなるからだった。私が事件と云ったのには、実はかなり深刻な事情が隠されていた。私がそのことを知ったのは、やはり、お告げによってである。
『いえね…。小菅さんの車があの事故を起こしていなければ、小菅総理は到着したホテル前で暴漢に襲われてお亡くなりになっていたのですよ。当然、塩山さんの米粉プロジェクトも終焉(しゅうえん)を迎えていたでしょう。プロジェクトは小菅さんが計画立案されたものですからね。ただ、お亡くなりになった運転手の方には、お気の毒な結果になりましたが…。すべては大玉様のご意意志です』
 事故があって十日後、私は、このお告げを久しぶりに帰省した自宅で聞いていた。
「これから、みかんへ行こうかな…と思っていたところです。よかったら、対面して話しますか? ただ、ママや早希ちゃんが妙な顔をするでしょうから、あくまでも心での会話ですが…」
『ええ、そちらの方が、いいでしょう。ブツブツと、ひとりごとをお云いになれば、誰だって変人扱いをしますからねえ』
 玉のお告げどおり、玉からのお告げは心の声だから他の者には聞こえないが、私が玉に対して返答したり訊(たず)ねたりするときは、心の声で話す場合と直接、口で呟(つぶや)く場合とがあった。

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スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百十七回)

2011年01月29日 00時00分01秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百十七
 済入会(さいにゅうかい)病院へ入ると、すでに煮付(につけ)先輩は来ていた。
「よかったよ。命に別状はないそうだ。それに、全治三週間の軽傷らしい。これは奇跡だと先生が云っていた。お気の毒に運転手は即死だったそうだが…」
 煮付先輩の言葉はいくぶん暗く沈んでいた。病院内は深夜帯のせいか外来もなく、入院患者も寝入っているようで静まり返っていた。
「もう大丈夫だ。帰っていいぞ、塩山。私もご家族に挨拶だけして早く帰る。騒がせてしまったな…。いや、動転してたからな、すまん」
 先輩は素直に謝(あやま)り、ペコリと頭を下げた。
「いやあ…。大したことにならず、よかったですよ。マスコミに騒がれなかったのが何よりでした」
「そうなんだよな。この時間だったからな。日中だったら…と思うと、ゾッとするよ」
「そうてすねえ…。それじゃ私はこれで…。総理に、よろしく申してください」
「ああ…、来たことは伝えておく」
 私はマンションへとUターンした。
 次の日の朝からマスコミ各社が騒ぎだしたが、味噌漬(みそづ)さんの官房長官談話が出されただけで、会期中でなかったこともあり、大層な騒ぎとはならなかった。ラジオ、テレビ局や新聞各紙、週刊誌、雑誌なども三日ほど騒いだだけで、話は立ち消えとなった。日本人の熱しやすく冷めやすい体質が顕著(けんちょ)になった事件だった。

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スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百十六回)

2011年01月28日 00時00分01秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百十六
 小菅(こすが)内閣の農水相に就(つ)いて約二ヶ月が経とうとするある日のことだった。私はいつものようにリビングにいた。新聞は、米粉プロジェクトが日本全国に波及したことを報道していた。これが沼澤氏が云った私のすごいことなのか…と思いながら新聞を畳んだ。
「塩山! 弱ったことになったぞ!」
 煮付(につけ)先輩から電話が携帯で入ったのは、その直後だった。もう寝ようとしていた矢先だった。ズボンに押し込んだ携帯が激しくバイブしだしたのである。
「ああ、先輩でしたか。何がありました?」
「落ちついて聞いてくれ。小菅総理を乗せた車が事故を起こし、総理が病院に担ぎ込まれたと今、官房長官の味噌漬(みそづ)さんから電話があった!」
 先輩も小菅内閣の閣僚の一人だったから、毎日のように会っていたのだが、その日の日中は、取り立てて騒ぐようなことは起きていなかった。だから、先輩から電話が入り、聞いた内容に私は少なからず衝撃を受けた。多少の霊能は身についた私だが、まだまだ大都会の煩雑(はんざつ)な暮らしには身体が順応していなかった。
「ええっ!? そ、それは本当ですかっ!」
「ああ、本当だ。夜分で悪いが、すぐ病院へ向かってくれっ! 私も行く」
「はいっ! どこの病院でしょう?」
「ああ、そうだった。済入会(さいにゅうかい)病院だっ!」
 私は携帯を切ると同時に立ち上がっていた。

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スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百十五回)

2011年01月27日 00時00分01秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百十五
いつもなら、湯上りのビールを飲むのだが、この日は気が急(せ)いてベッドへ腰を下ろした。この位置でも玉のお告げを受けた覚えがあったせいだろう。窓の外は、もうすっかり漆黒の闇に閉ざされていた。その景色をただ見ていると、お告げがあった。
『お待たせしました。私もいろいろと、他にあるんですよ…』
「私と同じで忙しいんですね?」
『それはもう…。もちろん、塩山さんのように目に見える忙しさじゃありませんが…』
「そりゃ、そうでしょう。玉が人目に見えりゃ、これはもう大ごとです」
『いやそれが、間抜けな連中には、よくあるんですよ。困ったことですが…』
 あるんだ…と、私は思った。
「人の目に触れるって、どんなときですか?」
『人魂(ひとだま)を見た…とかの話をお聞きになったことはありませんか?』
「ええ、そういえば…」
『それが仲間のうっかりミスなんですよ。こういうポカが、時たま起こるのです』
 玉のお告げなのだから作り話ではないだろう…と、私は思った。
「そうそう、話が遠退(とおの)きました。どうやら今回初めて、私からもコンタクトがとれましたね」
『ええ、それは当然のことです』
 玉のお告げは、別に驚くようなことではない、という云いようだった。
 静寂の夜に、無言の会話が続いていった。

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スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百十四回)

2011年01月26日 00時00分01秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百十四
 久々にのんびりできた日、私は浴槽に浸かりながら一心に念じていた。こちらから玉にコンタクトをとるためである。いつぞや、浴槽に浸かっていたとき、玉からお告げが入った、ということが記憶にあったのだ。 
 目を閉じて一心に念じていると、やがて耳鳴りがし始めた。そして一分後、玉のお告げが聞こえたのである。
『はい、なにか?』
 お告げは驚いたという風でもなく、さも平然とした感じで語りかけた。
「い、いえ、別に用はなかったのですが…」
『ああ…ご入浴中でしたか。いい湯加減のようですね』
「えっ? ああ、まあ…」
 私は少々、浴室の湯気で逆上(のぼ)せていた。
『上がられてからの方がいいみたいですね。では、のちほど…』
 お告げはコンタクトがとれたことには触れず、一端、途絶えた。私が念じたのは、試(ため)した程度の軽い気持だったから、まさか、お告げがすぐにあるとは思っていなかった。で、ドギマギしてしまった、というのが正直なところだった。浴槽から出た私は身体を乱雑に拭(ふ)き、下着を身につけた。そして、バスローブを纏(まと)うと寝室へ急いだ。別に眠かった訳ではなく、玉とゆったり語れる場所が欲しかった。

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スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百十三回)

2011年01月25日 00時00分01秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百十三
 私の心配をよそに、大臣の職務は順調に推移し、かつて輩出せぬ有能大臣…と世の名声を博(はく)した。フラッシュ・バックしたように、脳裡に浮かんだ断片的映像の数々。その中の一枚に出た国連本部で、現実に私は演説をぶつことになった。今まで演説の原稿など書いたこともなく、まあ、下手でも要旨だけは書いておこうか…などと困惑ぎみだった。そんなとき、事務次官の海鮮(かいせん)君がほぼ出来上がった原稿を持って大臣室へ現れた。
「大臣、これをお目とおし願い、お読み戴(いただ)ければ…」
 政界と官界の間には暗黙の了解や慣例が成り立っているのだろう。海鮮次官は多くを語らず大臣室をあとにした。その中の数枚を乱読すると、ほぼ云いたいことは書かれていたので、私は自分で作った原稿の要旨をそこへ書き足し、私風になんとか纏(まと)めた。ニューヨークの人となったのは、それから二日後だったろうか。案ずるほどのこともなく、なんなく演説を終えた私はテンションを高めて有頂天になっていた。私が国連本部で演説したニュースは国民の目や耳にどのように映ったのだろうか…と思えた。世界の新聞、テレビ報道が私の演説を斬新(ざんしん)で人類の食糧危機を未然に防ぐ快挙だ、と大絶賛した。私はこの段階で、世界で脚光を浴びる人々の仲間入りを果たしたのである。私が外出するたびに、どこからともなくフラッシュが光るようになったのは、この頃からだった。

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スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百十二回)

2011年01月24日 00時00分00秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百十二
「あの…一度、お訊(たず)ねしようと思っていたのですが、こちらからはコンタクトは取れないものでしょうか?」
『ああ、そのことでしたか。それは沼澤さんにお聞きになった筈(はず)ですよ。一度、目を閉じて念じてみてください。私と語りたいと…一心に』
「一心に、ですか?」
『ええ、そうは難しくないでしょう。あなたの霊力は、かなり向上していますからね』
「そうですか。では、次の機会には、是非やらせてもらいます。あっ! それから、私はこのまま大臣でいるのでしょうか?」
『そのことは霊界の決めで云えないと、いつぞやも申しました。許される範囲で私が答えるとすれば、この前、お見せした映像の断片のとおりになる、ということだけです』
「ということは、いつまでも大臣って訳じゃないんですね?」
『ははは…。それは普通でもそうじゃないでしょうか。いつまでも大臣をやっておられた方を私は存じ上げませんが…』
「いやあ、これは参りました。仰せのとおりです」
『随分と長話になりましたね。それじゃ、この辺りで…。ああ、そうそう。次はあなたの方からお願いしますよ』
 お告げがスゥーっと引くように終った。私は霊感のせいか、玉の念力が去るのを感じた。

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スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百十一回)

2011年01月23日 00時00分00秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百十一
『いつか、これからのあなたの映像をお見せしたと思います。今のあなたなら、それも夢じゃなく現実に起こりうるとお信じになると思いますが、いかがですか?』
 私は応接セットの長椅子へドッテリと座り込んだ。
「はあ、それはまあ…。国連本部で演説していた映像なんか有り得ない! と思っておりましたが、そうでもないようです…」
『そうでしょう。このまま進めば、あなたはそうなる筈(はず)です。もちろん、私が念力をまた送れば、の話ですが…』
 またニラレバ炒(いた)めの会話か…と一瞬、思えた。
「ということは、もし念力を送らなければ、そうはならない、ってことでしょうか?」
『はい、そういうことになります…』
「生意気なことを申すようですが、そのようなことを、あなたがお決めになる権利はないと思います。私はあなたの木偶(でく)じゃないのですから…」
 私は意を決して、きっぱりと気持を伝えた。
『なるほど…。その云い分にも一理ありますね。親玉様へ伺(うかが)いをたて、考えたいと存じます』
「親玉様って…そんなの、おられるんですか?」
『おられるのです。人間界のあなた方には到底、考えられない、云わば人間の科学では説明がつかない世界が現実にあるのですよ』
 玉はいつもより厳(おごそ)かに語った。私は、おられるんだ…と、思った。

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スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百十回)

2011年01月22日 00時00分00秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百十
 大臣就任後の私は、みかんの二人、沼澤氏、禿山(はげやま)さんの四人とも会えなくなり、国政の諸事に忙殺された。これだけは玉のお告げではどうにもならないように思えた。そんなある日のことだった。私は送迎の公用車へでマンションへ帰ってきた。車がマンションに横づけされた。私は車からゆっくり降り立った。
「では…。明日も七時にお迎えに参ります。明日はスケジュールが少々、きつうございますので、そのおつもりで…。では…」
 そう云うと、煮付(につけ)先輩が手配してくれた公設秘書の海老園(えびぞの)君は、車に乗って去った。私は車の後ろ姿をしばらく追ってからマンションへ入った。指紋認証キーでドアを通過し、エレベーターにて四階へ昇った。四階は私のマンションがある階である。エレベーターを降りたとき突然、お告げが舞い降りた。
『お帰りなさい。どうです? 少しはお慣れになりましたか?』
「えっ? はあ、まあ…」
 私は、そのまま歩き続け、自室の施錠を解除して中へ入った。
『今、みかんでは、沼澤さんがお見えです』
 沼澤氏か…と眠気(ねむけ)のことが思い返された。東京とみかんでは随分、距離があった。だが、玉のお告げは電話以上に身近に感じられた。お告げは続いた。

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