あんたはすごい! 水本爽涼
第ニ百十九回
みかんへ入ると、今までとは別人の歓待ぶりであった。そりゃ、大臣なんだから…と云われればそれまでだが、ドアの入口までママや早希ちゃんが迎え入れてくれたからである。こんなことは今までの私なら、千回通(かよ)ってもまずないだろう…と思えた。肩書というのは人間社会、特に日本では幅を利(き)かせるものなんだと、このとき痛感した。コップの水は東京へ出る前にはようやく出してもらえるようになっていたが、この日は加えて熱いお茶がすぐ出た。以前も当然のように出たが、しばらく話してからで、すぐではなかった。おいおい、どうかしたんじゃない? と、思わず早希ちゃんに訊(き)きそうになり、慌(あわ)てて口を噤(つぐ)んだ。
「どうなのよ? あっ! いけない…。お大臣に、こんな口、きいちゃ駄目よね…」
早希ちゃんは勝手にひとり芝居を演じ、云った自分の言葉を否定した。
「なに云ってる…。今までどおりでいいさ。俺はちっとも変ってないよ」
「またまたまた…。日本のお大臣なんて、転んでもなれないわよ」
「そうよ、満ちゃん。お大臣もお大臣。本物のお大臣様なんだからぁ~」
ママも早希ちゃんに加勢した。
「そんなっ! ええ…まあ、そうなんですがね」
ママの手前、あっさり私は撤収した。
第ニ百十九回
みかんへ入ると、今までとは別人の歓待ぶりであった。そりゃ、大臣なんだから…と云われればそれまでだが、ドアの入口までママや早希ちゃんが迎え入れてくれたからである。こんなことは今までの私なら、千回通(かよ)ってもまずないだろう…と思えた。肩書というのは人間社会、特に日本では幅を利(き)かせるものなんだと、このとき痛感した。コップの水は東京へ出る前にはようやく出してもらえるようになっていたが、この日は加えて熱いお茶がすぐ出た。以前も当然のように出たが、しばらく話してからで、すぐではなかった。おいおい、どうかしたんじゃない? と、思わず早希ちゃんに訊(き)きそうになり、慌(あわ)てて口を噤(つぐ)んだ。
「どうなのよ? あっ! いけない…。お大臣に、こんな口、きいちゃ駄目よね…」
早希ちゃんは勝手にひとり芝居を演じ、云った自分の言葉を否定した。
「なに云ってる…。今までどおりでいいさ。俺はちっとも変ってないよ」
「またまたまた…。日本のお大臣なんて、転んでもなれないわよ」
「そうよ、満ちゃん。お大臣もお大臣。本物のお大臣様なんだからぁ~」
ママも早希ちゃんに加勢した。
「そんなっ! ええ…まあ、そうなんですがね」
ママの手前、あっさり私は撤収した。