水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-77- それでも、まあ…

2018年07月31日 00時00分00秒 | #小説

 日々(ひび)、暮らしていると、アレやコレやと欲しいもの、自分の思いどおりにやりたいことなどが膨(ふく)らんでいく。しかし、世の中はそう甘くはなく、それらの夢を打ち砕(くだ)いてしまう。人々は打ち砕かれては心を萎(しぼ)ませ、明るさや純心(ピュア)さ、積極性などを、その都度(つど)、失(な)くすことになる。だが、屈(くっ)していては、一日も生きていけない。そこで考えたのが、それでも、まあ…と思う心である。この心は、自分以下の人々のことを思うことによって、自分が置かれている状況を、恵まれている…と納得させる慰(なぐさ)めの心である。この心がないと、人は自暴自棄(じぼうじき)に陥(おちい)ったり、狂(くる)ったり、場合によっては自殺をし、惨(むご)い事態を引き起こしてしまう。その意味から、それでも、まあ…と一歩下がる心は、暮らしの中で不可欠なのである。
 とある飲み屋で、顔馴染(かおなじ)みの常連(じょうれん)二人がチビリチビリと杯(さかずき)の酒を飲みながら話をしている。
「いやぁ~参ったよ。いつもと同じだと思って買ったらさぁ~、『お客さんっ! もう¥30足りませんっ!』って、こうだよっ!! やっちゃ、いられないっ!」
「なるほどっ! 値上がったんですなっ!?」
「そうそう! 生憎(あいにく)、持ち合わせがないっ。そこで、俺は言ったねぇ~~!」
「なんて!?」
「決まってるだろっ! 次からにして、今回は・・だよぉ~!」
「でっ!?」
「ダメですっ! と、こうだよっ!? やっちゃ、いられないっ!」
 よく、やっちゃいられない人だなっ! …と、カウンター前に立つ店の親父(おやじ)は聞いていたが、そうとも言えず、思うに留(とど)めた。
「そうでしたかっ!」
「ああっ! とはいえ、ダメと言われりゃ仕方がないっ! それでも、まあ…と思い直してさっ! 少し量を減らして買って帰ったよ。ははは…」
「それでも、まあ…ですか?」
「ああ、それでも、まあ…だっ!」
「ですね…」
 二人は顔を見合わせて意味深(いみしん)に頷(うなず)くと、押し黙ってチビリチビリとまた飲み始めた。店の親父は、ツケのたまりを払ってくれるよう言おうとしたが、それでも、まあ…いい話を聞いたからと、思うに留めた。
 それでも、まあ…の心は、この世に欠かせない。^^

                                 


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暮らしのユーモア短編集-76- 確認

2018年07月30日 00時00分00秒 | #小説

 最新情報は、この短編集-26-に登場したが、もう少し話を膨(ふく)らませたい。決して腹を満腹に膨らませるだけの下世話(げせわ)なお話ではない・・とだけは申し添(そ)えたい。^^
 最新情報は得たとしても、その確認が大切となる。確認を怠(おこた)れば、最新情報の意味を成さなくなるからだ。今日はそんなお話である。
 日曜の朝、笠舟(かさぶね)家では一大騒動が勃発(ぼっぱつ)していた。
「だからっ! そこへ置いといたって言ってるでしょうがっ! 疾呼(しつこ)い子ねっ!!」
「だって、お姉ちゃん・・ないもの…」
 小学校1年になったばかりの蕾(つぼみ)は、姉の茎葉(くきは)に完全否定され、半ベソを掻(か)きながら勉強部屋の角(すみ)を探し回っていた。昨日の夜、両親に買ってもらった新しいぬいぐるみを茎葉に見せたあと、すぐにお風呂へ入り、そのまま眠ってしまったのである。毎晩、ぬいぐるみを抱いて眠る蕾にしては珍しい失態? ^^で、朝になって気づき、訊(たず)ねた・・という場面だ。
「ちゃんと、そこへ置いといたわよっ! 寝る前に確認したんだからっ!」
 二(ふた)つ上で3年生の茎葉も意固地(いこじ)になってきた。
「ぅぅぅ…だって、ないよぉ~?」
 とうとう蕾はシクシクと泣き出した。ついに本格的な梅雨(つゆ)入りである。
「置きましたっ!!」
 茎葉の太平洋高気圧も勢いを増し、前線を押し上げようとする。
「だってぇ~~っ!!」
 蕾の泣き声が大きくなる。大陸の春の高気圧も負けていない・・といったところだ。そこへ、キッチンにいたママの花美(はなみ)が勉強部屋へ入ってきた。
「あらっ! どうしたのっ!! 苛(いじ)めちゃダメでしょっ! お姉ちゃんなんだからっ!」
「苛めてなんかいないわよっ! 蕾が勝手に泣いてるだけっ!」
「…どうしたの、蕾?」
「ぬいぐるみがぁ~~! ぅぅぅ…」
 梅雨の雨足(あまあし)は激しさを増す。
「ああ! アレっ? アレは私が茶の間へ置いといたわよ…」
 蕾は茶の間へと駆け出したが、すぐ戻(もど)ってきた。
「ぅぅぅ…ないよぉ~~っ!!」
 雨は、いよいよ、その激しさを増す。そこへ庭の手入れをしていたパパの幹男(みきお)が勉強部屋へ現れた。
「ははは…なんだなんだっ! 朝から偉(ええ)い賑(にぎ)やかだなっ!」
「パパぁ~~!!」
 蕾は幹男に、しがみつく。
「どうした、蕾っ! ははは…」
 幹男はすぐ、蕾を抱き止めた。
「蕾のぬいぐるみ…」
 花美が事情を説明する。
「ああ! 買ってやったアレかっ! ははは…庭に降りる前、茶の間にあったから、俺がベッドに…」
 幹男の声が終わらないうちに、蕾はベッドへ駆け出していた。
「あったぁ~~!!」
 Uターンした蕾の顔に笑みが戻り、梅雨明けとなった。
 なにごとも、最後の確認が重要・・というお話である。^^

                                 


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暮らしのユーモア短編集-75- 使い捨(す)て感覚

2018年07月29日 00時00分00秒 | #小説

 最近、暮らしの中で、使い捨(す)て感覚が日増しに増幅していることを皆さん、お感じにならないだろうか。^^
 書けなくなったとき、「高(たか)がボールペン一本じゃないかっ! 買ったほうが安いぜっ!」と近くの職場仲間から言われたとき、あなたならどうするだろう。いや、替(か)え芯(しん)を買おう! と思うか、あるいは、そうだなっ! そんなに値段も変わらないから新しいのを買おう…と、思うかの二択(にたく)である。世間の巷(ちまた)では後者の割合が増えている。この現実は、使い捨て感覚の人が増えている・・と言い換(か)えても過言(かごん)ではない。
 使い古(ふる)したような、とある夫婦の会話である。
「ったくっ!! もう、いい加減に捨てなさいよっ! 格好(かっこう)悪くて、歩けやしないっ!」
「それそれっ!! お前なっ、その考えが地球を滅(ほろぼ)ぼすんだぞっ!」
「ウワァ~~~っ!! 大きく出たわねっ! そんな訳、ないでしょっ!!」
「いや、あるんだっ、それがっ! お前は甘(あま)いっ!! 実に甘いっ!!」
「ええええ、甘くて結構っ!! 私、先に出るわよっ!」
 連れだって外出しようとしていた矢先、夫(おっと)が愛用のポロっちい服を着込んだのがいけなかった。妻は完全に旋毛(つむじ)を曲(ま)げ、先に家を出た。
「あいつは地球が置かれている今の立場を分かってないっ!! 使い捨て感覚が人類、いや地球そのものを滅ぼすんだっ! 終戦直後は拾(ひろ)い捲(まく)ってたじゃないかっ! それが約70年経(た)った今じゃ、捨て捲ってるっ! 人は懲(こ)りないねぇ~~!!」
 着飾(きかざ)って玄関を出ていった妻を遠目(とおめ)に見ながら、夫はポロっちい姿で大きな溜(た)め息を一つ吐(つ)いた。
 さて、あなたなら、この一件、如何(いかが)お考えだろう。^^

                                 


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暮らしのユーモア短編集-74- 心地(ここち)

2018年07月28日 00時00分00秒 | #小説

 人々にとって必要な休養は、なにも身体(からだ)に限ったことではない。心身ともに・・という言葉があるように、暮らしの中で心の休養、リフレッシュも必要なのだ。ああ…いい心地(ここち)だっ! と感じるのは、心が寛(くつろ)いでいる状態であり、恰(あたか)も心がのんびりと温泉に浸(つ)かり、いい気分で湯治(とうじ)しているような状況である。♪アァァァ~~~♪と、鼻歌が出ているかも知れない。夢見心地・・という言葉も、心の一杯気分でリフレッシュしている、そんな状態を指(さ)す言葉だろう。
 久しぶりに温泉旅行に出かけた二人の列車内の会話である。田畑が散開(さんかい)する中、列車は長閑(のどか)にゆったりと揺れ、走っている。
「なんか、流れる自然の風景を眺(なが)めているだけで、いい心地ですなっ!」
「そうですっ! どういう訳か心が和(なご)みますなっ!」
「え~~と、次は腰板(こしいた)駅で乗り換えてと…祇部洲(ぎぶす)線の地量(ちりょう)駅でしたなっ!」
「はい、そうですっ! 地量駅からは里波尾里(りはびり)線で目的地の対印(たいいん)温泉まででした、確か…。地方のローカル線は、なんとも風情があっていいっ! 無人駅が結構、ありますからなっ!」
「そうそう! その無人駅が、またなんというか…」
「ええ、そうです。人気(ひとけ)のない寂(さび)れた感ですか? これがまた、実にいいんですなっ!」
「そうそう! 心地いい訳ですっ!」
「…で、そのイヤホンで聴いておられるのは?」
「ああ、これですか。私、旅に出るときは、いつも童謡カラオケのCDを持ち歩くんですよっ! ははは…お笑い下さい」
「いえ、ちっとも。いいことです。私も次からそうしましょう」
「はあ、そうなさるといい。いい心地で、倍(ばい)、心が和みます」
「これは、いいことをお聞きしました。それだけで、この旅、もういい心地になりましたよ、ははは…」
 いい心地を求めて、二人の旅は続くのであった。^^
 心地の休養、リフレッシュは、殺伐(さつばつ)とした今の時代、身体以上に必要なのかも知れない。

                                 


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暮らしのユーモア短編集-73- 都会化

2018年07月27日 00時00分00秒 | #小説

 どこに住んでいようと、文明の波はヒタヒタと音を立ててやってくる。文明が進むと私たちの暮らしは少しずつ都会化していく。それは一挙(いっきょ)に・・ということはないが、いろいろと理屈(りくつ)、時には屁(へ)理屈を捏(こ)ねて変化を重ねる。暮らしの中で日々、都会化は忍び寄ってくるのだ。あるときは日常生活で使われるほんの小さな物、またあるときは、景観といった大きな物・・と、変化の様相は様々(さまざま)だ。
 とある公園の道で、散歩中の犬を連れた二人の老人が立ち止まり、話し合っている。長話(ながばなし)に犬も、いい迷惑顔だ。しきりにリールを引っ張って先を促(うなが)すが、老人二人は、まったく動じる気配(けはい)がない。
「ほう! それがスマホとかいう電話ですかっ! 便利になりましたなっ! 私は昔人間でして、今の時代のことはサッパリで…」
「ははは…私もそんな新しい人間じゃないんですがね。なんとか言うんでしょ? そういうの…」
「…アナログ人間ですか?」
「そう、それっ! 前の携帯を孫にダサいっ! とか言われましてねっ! それで仕方なく、家族づきあいのため、買い換えた・・というようなことで…」
「ははは…家族づきあいも大変ですなぁ~!」
「ええええ、そらもう…。老人生活も侘(わび)しくなりましたよっ、ははは…」
「文明進歩は見えない力で押し寄せています」
「都会化ですなっ! 抗(あらが)えませんっ!」
「まことにっ!」
 そのとき、スマホに換えた老人の携帯が鳴った。ところが、使い方が分らない老人は弄(いじ)くりながら右往左往し出した。連れられた犬が、ダサいご主人だっ! とばかりに老人を見る。
「ははは…切りました。やれやれです」
 呼び出し音が途切れ、老人は人心地ついたのか、安堵(あんど)の溜息(ためいき)を一つ吐(つ)いた。
「ははは…都会化は、侮(あなど)れませんなっ!」
「ははは…まことにっ!」
 二人の老人は軽くお辞儀をすると、ようやく左右に別れ、歩き出した。ようやく歩けるようになった二匹の犬は、老人は侮れない…と思った。

                                 


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暮らしのユーモア短編集-72- やるか、やらないか…

2018年07月26日 00時00分00秒 | #小説

 やるか、やらないか…という分岐路に立たされたとする。さて、どちらを選ぶか…というとき、人には二つのタイプがある。安全と思える道を多くの人は選ぶのが通例だが、そのとき、危険な方を進むのには決断力がいる。果たして出来るのか? と自分自身に問えば、いや、やめた方が無難(ぶなん)だ。また、別の機会にやろう! …と安全策を取る方が間違いがないからだ。だが、それではコトが一歩も前進しないのも確かである。ええぃっ! なろうとままよっ! と開き直り、やると決めた人は強い。無理かも知れないと分かっている分(ぶん)、普通では考えられない力(ちから)が出るのだ。火事場(かじば)の馬鹿力(ばかぢから)・・と言われるやつだ。自分自身でも知らないうちに徹底的にやってしまうのである。その意味では、やるか、やらないか…の分かれ道に立ったときは、やった方がいいのかも知れない。やっていれば…と、のちのち後悔(こうかい)するよりは、ずっとよい。
 登山途中の二人が峠の分かれ道で迷っている。
「無理ですよ、どう考えても…。今からですと、このまま下った方が無難(ぶなん)だと思うんですがね…」
「いやっ! 大丈夫ですっ! 日暮れまでには山小屋へ着けるはずですっ!」
「…本当に大丈夫ですかっ!?」
「大丈夫、大丈夫っ!  やるか、やらないか…ですよ、はっはっはっ…」
「そうですか? …でしたら、そうしましょう」
 渋々(しぶしぶ)ながら、慎重派の男は積極派の男に押し切られ、山小屋へ向う道を進むことにした。
 一時間後、二人は、かろうじて山小屋へ辿(たど)り着くことが出来た。暗闇(くらやみ)のベールがあたり一面を覆(おお)い尽(つ)くす直前だった。
「なんとかなったでしょ!」
 山小屋の前で積極派の男はそう言った。面目躍如(めんもくやくじょ)といったところだ。
「確かに…」
 消極派の男は頷(うなず)くしかなかった。そして二人は山小屋へと入った。
「お客さんっ! 悪いんですが、満員なんですよっ! 入口でも構いませんかっ?!」
 山小屋の受付係員が間髪(かんぱつ)おかず、ひと声、かけた。
「…はいっ、分かりました。それで結構ですっ!」
 本当のところ、結構もなにもあったものではない。幕営(ばくえい)装備を持たない二人だったから、外なら凍死も覚悟せねばならなかったのだ。
「半額にしときますよっ、ははは…。まあ、夜露は防げまさぁ~」
 受付係員は気楽に笑い、黒々と伸びた顎鬚(あごひげ)を自慢たらしく撫(な)でつけながら山男らしく言った。消極派の男は、俺の方がフカフカの布団だったぞ…と思った。
 ところが、この話には余談がある。この日、下界は天候が大荒れに荒れていたのである。もし、二人が下りていれば、麓(ふもと)まで辿(たど)り着けたかどうか? という命の危険があったのだ。やはり、積極派の男が正解だった・・ということになる。
 やるか、やらないか…? 男なら、やってみなっ! というところだが、女性の場合にも言えることは確かである…。^^

                                 


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暮らしのユーモア短編集-71- 信用力

2018年07月25日 00時00分00秒 | #小説

 殺伐(さつばつ)とした事件もののドラマがテレビ画面を賑(にぎ)わし、物騒で何も信用できない信用力が低下した世の中になってきている。物騒なドラマが物騒な事件を起こすのか? あるいは、物騒な事件が起こるから物騒なドラマがテレビ映像化されるのかは分からないが、これはある意味、卵(たまご)が先か? 鶏(にわとり)が先か? の例(たと)えにも似た話だ。ただ、殺伐としたドラマが殺伐とした世の中を生み出していることは否(いな)めない事実である。作り手側の制作責任が存在するのは確かで、作り手の責任もあるぞっ! と怒れる一件だ。^^
 長蛇(ちょうだ)の列が出来た観光地で、二人の観光客が揉(も)め出した。
「あなたねっ! 私がいたからあなたが、こうして並べるんでしょ!!」
 同じように並(なら)んでいる周囲の者はその様子を、いい年をして…という迷惑顔で眺(なが)めている。
「そりゃそうですけどねっ! 私が来たんだから、もういいでしょっ!」
「それはないでしょ! 散々(さんざん)、長い時間、並ばせておいて、私が来たからもういいっ! なんて、よく言えますよっ! そう言うからには、私の方もチャ~~ンと、やって下さったんでしょうねっ!」
「いや、それが都合で…」
「出来なかったんですかっ!! そりゃ、ひどいっ!! あなたを信用してお任(まか)せしたんですよっ! だから、代わりに並んであげたんじゃないですかっ!!」
 並んでいた観光客は恩着せがましい顔で、やってきた観光客に言った。
「いや、それはそうなんですが…」
 やってきた観光客は防戦一方となった。周囲に並んでいる観光客の迷惑顔が、ほう! 何ごとだいっ! この先、どうなるっ?! といった野次馬顔へと変化し出した。
「あんたの信用力はゼロだっ!!」
「旅の途中ですよっ! そこまで言わなくても…。たかが、温泉卵じゃないですかっ!」
 それを聞いた途端、周囲に並んでいる観光客の顔は、なんだ、温泉卵かいっ! とばかりに、ふたたび迷惑顔へと変化した。
 信用力とは温泉卵に相当するのである。^^

                                 


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暮らしのユーモア短編集-70- 焦(あせ)らない

2018年07月24日 00時00分00秒 | #小説

  短編集-39- 焦(あせ)る・・の続編だが、逆の場合で、焦らない・・もアリか? という話だ。
 とある会社の営業部長室である。部長の肉尾(にくお)が、やはり美味(うま)そうな赤ら顔で激怒(げきど)している。出勤直後で、朝陽(あさひ)が太枠(ふとわく)の大窓サッシから射(さ)し込んでいる。
「どうなっとるんだっ、鍬淵(くわぶち)君! 先方からの電話がひっきりなしじゃないかっ!!」
「妙ですねぇ~」
 肉尾は眩(まぶ)しいのか、怒り顔でスクッ! と立ち上がると、ブラインドをこれ見よがしに力いっぱい引き下げた。が、これがいけなかった。ブラインド紐(ひも)がブチッ! と引き千切(ちぎ)れたのである。別にドォ~でもいい気分の鍬淵は、菊菜(きくな)物産の焼麩(やきふ)さん、あれほど確認したのにどうしたんだろっ? くらいの軽さで、千切れたブラインド紐を見つめた。肉尾としては怒っている場合ではない。幸い、部長室の中だったから課長の鍬淵以外、他には誰もおらず、恥(はじ)だけは掻(か)かずに済んだのだが、美味そうな赤ら顔は、たちまち白焼きの鰻(うなぎ)顔へと変化し、蒼褪(あおざ)めた。
「ど、どうするっ!」
 焦る肉尾の顔からはジュ~シィ~な汗が滴(したた)り落ちた。
「部長! 焦らないことです。たかがブラインドの紐です!」
 お前にゃ言われたくない…という気分で肉尾は鍬淵を見た。だが次の瞬間、常務昇格は無理だな…と自(みずか)らの無能さを感じた。^^

                                 


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暮らしのユーモア短編集-69- 少しずつ

2018年07月23日 00時00分00秒 | #小説

 少しずつ・・という文言(もんごん)は良い場合、悪い場合を問わず、曖昧(あいまい)な状況で暈(ぼか)しながら僅(わず)かに進捗(しんちょく)する、あるいは、させることを意味する。価格は同じだが、ウインナ・パックの本数が7本→6本に減ったり、トイレットペーバーの巻き幅が14cm→13cmに細くなったり、あるいは、長かった歯磨きチューブが短くなったり・・と少しずつは密かに国力の衰微(すいび)を深刻化させていくのである。預け入れの利息が0.6%だったものが0.02%とかに低く下げられたのもその一つだ。これで消費[有効需要]が伸びる訳ない。消費が伸びなければ企業は物を作っても売れないのだから潤(うるお)わず、先細(さきぽそ)りとなる。先細りになった企業をなお支援しようとゼロ金利政策とかのアホな政策を実行すれば、ますます消費が冷え込み、企業にとってなんのメリットもないばかりか、国力は少しずつ勢いを増して衰微する・・と、こうなる訳だ。
 二人のご老人の会話である。
「年金、また減りましたなっ!」
「そうそう! 確かに…。2ヶ月分の振込額が¥94減りました…」
「ほんの僅かですが…」
「最初の決定額からすると、少しずつですが相当、減ってますなっ! 国は上手(うま)く国民を騙(だま)しますなっ! ははは…」
「少しずつですから、気づかないっ!」
「そうそう! 実に上手いっ! 巧妙(こうみょう)な手口(てぐち)ですっ!! これは、火付け盗賊改め方でも捕(とら)らえるのは無理ですなっ!」
「ええ。聞いたところでは、3年後から年金額改定時の物価変動率の考え方が変わるんでしょ?」
「そう! 賃金上昇率で決するようになるようですなっ!」
「考え方が少しずつ変わってるんでしょうなっ!」
「まあ、貰(もら)えるだけ有難いと感謝しますか」
「ですなぁ…。生きてるだけで儲(もう)けものってやつですっ、はっはっはっ…」
「はっはっはっ…。別の話になりますが、防衛庁が防衛省、それに集団的自衛権とかも少しずつ…」
「少しずつ、自然も減ってますしなっ! 世の中、少しずつ世知辛(せちがらく)くなって参りました…」
「まあ、せいぜいあと50年の命ですから、我慢(がまん)しましょう、ははは…」
「ははは…」
 そういえば、100年以上前から少しずつ平均寿命も延びている。^^

                                 


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暮らしのユーモア短編集-68- 糸車(いとぐるま)

2018年07月22日 00時00分00秒 | #小説

 電子ゲーム機器で遊べるようになった今日(こんにち)では、[糸車(いとぐるま)]で遊ぶ・・などと言えば、子供達に、? と訝(いぶか)しがられるか小馬鹿にされるのが落ちだが、売られた遊び道具がなかった時代は、それぞれ工夫して遊び道具を作っていたのである。五寸釘(ごすんくぎ)があれば土に突き刺し、[線切り]という遊びが出来た。空き缶(かん)があれば[缶蹴(かんけ)り]、石ころ一つあれば土の上へ線を引き[ケンパ]、女子(おなご)竹を切って[吹き玉・杉の実鉄砲]、竹で[紙鉄砲]・[竹馬]、自転車の車輪があれば転(ころ)がして[シャーリング]となる。輪ゴムがあれば[ゴム飛び]だが、[糸車]もその輪ゴムを使った遊びの一つだ。市販の糸巻の糸が使われて無くなれば、あとには巻かれていた木製あるいは強化プラスチック製の小物(こもの)が残る。それに輪ゴム、ボタン、割り箸(ばし)などで作るのが[糸車]である。
  朝から月川(つきかわ)は、あ~でもない、こ~でもない…と、輪ゴム、割り箸を弄(いじ)くっていた。ふと、遠い昔を思い出し、[糸車]を作ってみようと思い立ったからである。というのも、市販の糸が巻かれていた使用後の小物があったからだ。輪ゴムは多くあったから、容易(ようい)に作れそうに思えた。月川は最初、輪ゴムを小物へ通し、マッチ棒を両側へ付けて転がしてみた。  「? 妙だなぁ~~」   [糸車]は少しも動く気配を見せなかった。そして、月川の壮絶(そうぜつ)な格闘(かくとう)が始まったのである。 
 「簡単なようで…」
 月川は独(ひと)りごちた。コトは実に簡単だ…と思えたが、それは甘く、なかなか侮(あなど)れなかったのである。恰(あたか)も、関ヶ原の戦いで上田攻めに手古摺(てこず)り、とうとう関ヶ原には間に合わなかった史実とよく似通(にかよ)っていた。
  その後、どうなったのか? むろん、転がるようになった・・とだけは言っておきたい。これも、歴史ずきのお方ならよくご存知の、大津城・謁見(えっけん)が叶(かな)った史実に似通っている。読者諸氏は当然、お知りになりたいだろうから、詳細を掻(か)い摘(つま)んで申し添(そ)えれぱ、ボタン、割り箸がバレーボールの選手のように交代して付けられた・・とだけご報告させて戴(いただ)きたい。^^

                                 


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