第百八十八回
『あなたがOKを出せば、活躍される舞台は東京へと移ります。いかが、されますか?』
「それは先輩に云ったとおりです。しばらく考えさせて下さい。あのう…会社は、このまま続けても大丈夫なんでしょうか?」
『ははは…、何もご存じないようですね。大臣には大臣規範という規範があるんですよ。正確には、国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範と、なんとも長くて早口言葉のような規範です。この規範で在任中の兼職は禁止されています。ただし、報酬のない名誉職は小菅(こすが)総理に届ければOKです。そんなことですから、会社とご相談なさって、無報酬の顧問とかでいいと思うのですが…。もちろん、大臣を退かれた時点で部長に復職するという条件をお付けになってね』
「なかなかお詳しいですね。畏(おそ)れ入りました…」
『私に分からないことはありません。まあ政治なんていうものは、すべてがファジーなんですがね』
「ファジーですか…」
『曖昧(あいまい)なんですよ、物事の解釈が…。アバウトと申しますかね。だから、予算の委員会で予算と関係ない論議がアバウトに進んだりしてます。まあこれは、政治に限ったことだけじゃなく、人間の世界は、すべてが白でも黒でもない灰色のアバウトですが…』
「ええ…、それは私にも分かります。すべての物事が正しいから通用する、っていうもんでもないですよね」
『そうです、そうですとも…。ですから、私は慌(あわただ)しく駆け巡らねばならないのです。駆け巡る、とは霊力で飛ぶことを意味するのですが…』
「だから、急に会話が中断したり、そのまま、なかったりするんですか?」
『はい。まあ、そうお考え戴ければ結構です。おっ! これは…。また孰(いず)れ』
お告げは急にピタッ! と途絶えた。しかし、この前と違い、玉が話しをやめることを前もって知らせてくれた点は一歩前進だった。