水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

世相ユーモア短編集 -9- 寒い

2024年11月30日 00時00分00秒 | #小説

 寒いは何も気候だけを指す言葉ではない。最近、世相が寒いと皆さんはお感じになられませんか?^^
 近松は懐具合(ふところぐあい)が寒いな…と思った。定期昇給は不況で世相が寒いためか雀の涙ほどだった上に、楽しみにしていた年末のボーナスも思っていた以上に少なかったのである。近松が懐具合が寒いと感じたのも当然と言えば当然だった。さらに輪をかけて寒波が、コンチワッ! と来なくてもいいのにやって来た。懐具合は寒いは、外は寒いはの寒いだらけでは、近松が暖を取りたくなるのも無理からぬ話だった。
 木枯らしが冷たく吹くなか、近松は歳末の畑掃除で出たゴミを燃やして暖を取った。コンプライアンスの強化で暮らし向きも何かと寒くなり、過去の暮らしやすかった子供の頃が近松の脳裏に去来した。
『あの頃は…』
 近松さん、世相が寒いのは仕方ありません。あなただけではないのですから、押しくら饅頭(まんじゅう)でもして、寒い懐具合を温め合って下さい。^^

 ※ 押しくら饅頭とは寒くなった頃、「♪押しくら饅頭~押されて泣くなぁ~♪」と、皆で唄いながらひと塊(かたまり)になって押し合った昔の子供の遊びです。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -8- 低下

2024年11月29日 00時00分00秒 | #小説

 最近の世相を観望すれば、過去に比べ、どうも品物の質が低下しているように思える。他の短編集でも書いたが、容器の瓶がペットボトルに変化したり、包装が簡略化されたりしている点だ。簡素化された…と考えれば確かにそうなのだが、品物の価格を上げずに容器を安価にしようと質を低下させた意図が見て取れなくもない。[考え方には個人差があります。^^]
 とある夜、高校生の杉野はテレビの歌番組を観ていたが、途中でリモコンをオフった。というのも、[〇〇48]という女性グループが歌って踊っていたのだが、余りに数が多過ぎて、誰を好きになったらいいか、ややこしくなったからである。どのメンバーを見ても同じ容姿に見えたのだ。
『10人内外でいいのにな…』
 杉野の内心に分け入れば、全員がフツゥ~の女子に見え、コノコッ! と好きになれる女子がいない…という気分である。以前のアイドルは星のように煌(きら)めいて見えた…というのが数の多さに反発する杉野の偽らざる本心だった。質の低下と考えるのは、いささか彼女たちに対して失礼だな…と思えたからリモコンをオフった訳である。
『僕の質も低下している…』
 杉野はそう思いながら返された通知簿の成績低下に、自分も低下している…とテンションを下げた。
 杉野君! 成績が低下してもそう重く考えず、軽く考えよう! 君の人生はこれからだっ、頑張れっ!^^ 

                   完


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世相ユーモア短編集 -7- 物価

2024年11月28日 00時00分00秒 | #小説

 最近の世相は物価が高くなり、巷(ちまた)で暮らす底辺の国民は苦しんでいる。政治資金がドウノコウノ[ドウタラコウタラ]と言っているニュースなど、どうでもいいほど深刻なのである。その事実を国の政治家さん達や報道機関の方々は、失礼ながらよくお分かりになっていない。世相に対する危機意識が希薄なんだ、と言っても過言ではない。生きるか死ぬかの歳末を送っている人々のことを検察特捜部の強制捜査が入ろうと入るまいと、もう少し真摯にお考え願いたいくらいのものだ。^^
 物が高くなったな…と思いながら、深草は買い物袋を手にスーパーを出た。数年前までは¥6,000~¥7,000くらいで買えた同じ程度の商品が、今や¥9,000~¥10,000しているからだった。
『今年の冬は寒い日だけにしよう…』
  深草の脳裏に去来するのは光熱水費のことだけだった。そのとき、美味そうな焼き芋の匂いがした。これくらいは…と思うでなく思った深草は、数本の焼き芋を屋台で買うと歩きながら食べ始めた。腹が無性に空いていたからである。深草は、その美味さに、生きていてよかった…と、しみじみ思った。
 まあ、深草さんが、しみじみ思うほどのことでもないのでしょうが、最近の世相の物価高は何とかして欲しいですよね、皆さん。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -6- 事件

2024年11月27日 00時00分00秒 | #小説

 最近、巷(ちまた)のニュースは事件報道があとを絶たない。誰だって事件は嫌だし聞くのも起こって欲しくもないだろう。ということでもないが、今日の主人公、竹岡はテレビニュースだけは敬遠してチャンネルを変えた。ただ、BSの世界ニュースだけは楽しみにしている変な男だった。
『なるほど…アメリカの民主党は共和党に対して…』
 画面には民主党選出の大統領が笑顔で映っていた。しばらくすると、『'%$$%?!!(!%&#" !!』と、ドウ~タラ、コウ~タラ[ドウノ、コウノ]と演説する共和党議員の姿が映った。同時通訳の音声が日本語で流れるから、何を言っているかは竹岡にも理解出来た。
『アメリカは共和党か民主党だから分かりよいわな…』
 竹岡は事件性のない政治ニュースが流れるアメリカを恨めしく思った。そして、最近の政治の世相は事件じみてるからな…と、加えて思った。
 竹岡さん、そのうち日本の政治も事件性がなくなり明るくなりますよ、きっと!(懐疑的な慰めの言葉) 残念ながら事件が解決したとあと、二大政党に集約されるか? は、期待薄ですが…。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -5- ゆとり

2024年11月26日 00時00分00秒 | #小説

 最近の世相を偉そうな上から目線で語るなら、人々の動きにゆとりらしきものがなくなっているように思える。一例として道路事情を比較すれば、昭和30年代前半=歩行者、自転車、舗装されていない泥道⇔現代=自動車、バイク、自転車、舗装されたアスファルト道・・といった歴然とした差が存在する。ゆとりがなくなった分だけ人々の心の長閑(のどか)さが消え去り、どこか殺伐とした世相になっているのは悲しい限りである。最近は、のんびりと暮らす無駄な時間が決して無駄ではないように思えている。そんな私は、お馬鹿でしょうか?^^
 荒巻は吊り下げられた鮭のようなアングリした顔で、一向に変わらない横断歩道の信号を待ち続けていた。数年前に新しく信号機が敷設され、それまでの野良仕事が不便になってきていた。この日も鍬を肩に背負い、誰も通らない道で信号の変わるのを待っていた。車どころか人っ子一人通らないのだから、荒巻にはどう考えても不必要な信号機に思えた。
「やあ、荒巻さんっ! 御精が出ますっ!」
 声をかけられ荒巻は、ふと左右を見回した。左右には誰もいなかったが、後方に近所の昆布(こぶ)が立っていた。
「何だ、昆布さんでしたか…」
「村長に頼まれた郵便を出しに…」
 郵便ポストは村役場から1km離れたところにあった。通常、出す郵便物は、配達員が村役場へ寄ったとき持ち帰るのだが、急ぐ郵便物は1km先まで出しに行かねばならなかった。現代なら考えられない無駄な時間でも、誰も叱責しなかったのである。昭和三十年代前半のゆとりある原風景が、そこにはあった。
 当時は物資の乏しい時代でしたが、時が長閑に流れるゆとりあるいい時代でしたね。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -4- 日本列島沈没

2024年11月25日 00時00分00秒 | #小説

 昭和四十年代に[日本沈没]という映画が上映された記憶がある。今の政治体制を考えれば、非常によく似通った現象が起こっているようにも思える。
 蛸島は茹でられた蛸のような赤い顔で、湯上りの浴室を出た。
「それにしても…だなぁ~」
 何が、それにしても…だなぁ~なのか? は、よく分からないが、そんな言葉を呟きながら蛸島は下着→パジャマを身に着けるとキッチンへと向かった。よく分からないままでは読者の方々に申し訳ないから、ここで、蛸島の心の内に分け入ってみよう![NHK 英雄達の選択風]。^^
『今の日本の政治は[日本沈没]の映画に似てるぞ…。一枚岩だった与党の大陸プレートが歪んで失速すれば、日本海プレートの議員達が勢いづいて日本列島の政治が沈没する…』
 そんなつまらない考えをチマチマ考えながら、蛸島はキッチンの椅子へ腰を下ろした。キッチンは妻が調理したビーフ・ストロガノフのいい香りが漂っていた。
「日本列島沈没か…」
 テレビ画面は政治資金による事件絡みのニュースを、ア~でもないコ~でもないと報じていた。そのニュースを観ながら、蛸島は益々、日本列島沈没の可能性を大きくして呟いた。その呟きを、調理場の妻が偶然、聞いていた。
「あなたが沈没でしょ!!」
 蛸島は返す言葉がなかった。
 蛸島家は幸せですねぇ~。日本列島は沈没しても決して沈みません。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -3- 袋

2024年11月24日 00時00分00秒 | #小説

 妙なもので、世相の変化で暮らし向きが厳しくなると、人は物を大事にする傾向が高まる。それまで捨てていた物を捨てなくなり、洗ったり修理したりすることで、もう一度使おう…と思う訳だ。実に結構なことである。^^ その逆で、暮らし向きが良くなるにつれ、困ったことに物を粗末に捨てたり使わなくなったりするのは困りものだ。その最も分かりやすい一例が袋である。私は、これを経済指標の一つと捉え、袋係数と呼んでいる。エンゲル係数[全家計支出に占める食費の割合]のようなものが袋係数[全家計支出に占める蓄えた袋枚数の割合]だ。^^
 篠川は一週間前までゴミとして捨てていたコンビニやスーパーの袋を大事に畳んで残しておくようになった。というのも、食品を買ったときの袋がレジで有料化され、… … と思うでなく思うようになったからだ。^^ 感心、感心っ!^^
「一夜漬けか…」
 一念発起、篠川はパソコンの検索で得た知識を利用し、過去にもらったコンビニやスーパーの袋で一夜漬けをすることにした。
「父さん、何してるの?」
 とある深夜のキッチンである。受験勉強をしている長男の幸起が、冷蔵庫を開けてガサゴソ探している篠川に小声をかけた。
「んっ!? お前と同じ一夜漬けだ。…妙だな? ここに入れておいた袋、お前、知らないか?」
「知る訳ないだろ。…あっ! 母さんが腐ってるわ、とかなんとか言ってたよ」
 幸起は自分の勉強を一夜漬けと言われたことに、僕の受験勉強は一夜漬けじゃないっ! と、少し怒れたから、不機嫌に返した。
「そうか、ちょうど食べ頃だったんだがな…」
 篠川は未練っぽく冷蔵庫を閉め、お茶漬け海苔を茶碗に入れた冷えたご飯にふりかけた。篠川の心境は、袋の一夜漬けを摘まみながら軽く一杯の茶漬けを…という思いだった。
「父さん、今頃どうして?」
「会社の残業でな、食い損ねたんだ…」
「ふぅ~ん…」
 父さんも世相が右肩下がりで大変なんだな…と幸起は哀れみっぽく父親を窺うと、勉強部屋へ撤収した。
 袋にもお金がいる世相です。庶民は大変なんですよ! 政治家諸氏っ!!^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -2- 歳末

2024年11月23日 00時00分00秒 | #小説

 とある歳末のスーパーである。餅川はモチモチしたふっくら顔で正月の買い物をしていた。顔とは正反対に内心は値段を気にしての買い物だったから痩(や)せ細ったようにガリガリだったのだが、それを億尾にも出さないのは流石(さすが)だった。
『こんなに…』
 目についた正月商品の余りの高値に餅川は思わず声を出しそうになった。それをスルーし、餅川は他の売り場へ歩を進めた。そのときである。餅川の脳裏にふと、妙な発想が浮かんだ。
『どうして歳末になると、正月用の買い物をするんだろ?』
 正月料理は、年がら年中、作ろうと思えば作れることに疑問が湧いたのである。お節(せち)料理を作るなら、一年を無事暮らせた感謝として晦日(みそか)料理があってもいいくらいのものである。それなのに年の終わりは年越し蕎麦くらいなのである。
『歳末が可哀そうじゃないか…』
 餅川は思わず腹が立って来た。そこへタコ焼きのいい匂いが餅川の鼻に漂い始めた。餅川は、やっぱりコレだな…と世相の変化にビクともしないタコ焼きが頼もしく思えた。
「一(ひと)舟、下さい…」
 知らず知らず、餅川はタコ焼きを買っていた。餅川にとって、タコ焼きは世相変化とは無縁の怪物のように強い存在のように思えた。
 餅川さん、歳末の正月食品の値段など、健康と比較出来ないほどの安さですよ。富も名誉も地位も…健康に勝(まさ)るものなし! モチモチしたふっくら顔をお続けになられるようお祈り致します。^^

                   完


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世相ユーモア短編集 -1- 世相

2024年11月22日 00時00分00秒 | #小説

 随分と世知 辛(がら)い世になったもんだ…と、最近、頓(とみ)に思うようになった。日々、暮らす世相が、長閑(のどか)に時の流れた昔を思い出させるからに違いない。そういうことで…という訳でもないが、これから綴る百話のお話は、そんな世知辛い現代社会の一コマ一コマをテーマにしたものです。例によって、欠伸をしながら読まずに一杯やってもらってもいいし、淹(い)れたてのお茶を飲みながらお煎餅を齧(かじ)ってもらっても、いっこうに構いません。ただ、腹を壊して病院に行かれても私は一切、関知しないからそのつもりで…[ミッション・インポッシブル風]。^^
 黒尾は、とある大都会の駅構内で右往左往していた。というのも、何十年も前に一度だけ降り立った駅だったから困惑したということもある。
「あの…出口は?」
「出口ですか? 東口、西口、中央口と、ありますが…」
「はあ…よく分からないんですが、とにかく駅の外へ出られればいいんです」
「それなら、ここを真っすぐ進まれたところに地下通路に続く階段がありますから、階段を下りずにそのまま左通路を進めば出られます」
「どこへ?」
「中央出口ですが?」
「その中央出口でいいのか? が、分かりません…」
「分かりませんか…。ちょっとお待ち下さい」
 駅員は駅構内の案内図を黒尾に示した。
「こぉ~通って頂いて、ここの階段を下りずに左側のこの通路を通って下さればいいんです。来られたたことは?」
「はあ…確か二十年以上前に来た記憶はあるんですが…」
「二十年以上前ですか…。この駅ビルの建て替え前ですね。それ以降、地下鉄も出来ましたからね」
「はあ…」
 黒尾は駅員の説明に要領を得ず、益々、困惑した。
「これ、コピーしますね。ちょっとお待ち下さい…」
 駅員は駅構内図をコピーすると黒尾に手渡した。黒尾は親切な駅員さんだな…と感じ、様変わりする世相を束の間、忘れた。
 黒尾がしばらく案内図を見ながらトボトボと歩き進むと、地下鉄へ下りる階段があった。
「下りずに左側だ…」
 駅員に言われた通り、黒尾は左通路を進んでいった。
「おやっ!?」
 案内図には記(しる)されていない新しい売店が突然、黒尾の前に出現した。
「まあ、いいか…」
 何がいいのか分からないが、黒尾は勝手に納得して頷いた。黒尾の心理を詳細に説明すれば、喉が渇いたから飲みものでも…とは思ったが、どうしても…というほどの渇きではなかったからスルーした・・というような発想である。駅で流れる人の動きも過去に比べれば激しい。それにしても…と、黒尾は世相の大きな変化に改めて驚かされた。
「まあ、いいか…」
 今度、二十年後に来るときは…と考え始めた黒尾だったが、ふたたびスルーした。老いた黒尾にとって、二十年先の生死が未知数だったからである。
 黒尾さん、世相の変化がどうであれ、ご長寿を蔭ながらお祈り致します。^^

                   完


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短編小説集(100)困った人 <再掲>

2024年11月21日 00時00分00秒 | #小説

 男は悩んでいた。することなすこと、すべてが裏目に出るのだ。
━ 俺なんか、この世に無用なんじゃないか。だったら、いっそう、ここから飛び降りて死んでしまおう… ━
 男がそう考えたことは幾度もあった。そして今日も、この小高い山の絶壁へ来ていた。
 夕方、男は病室に寝ていた。
「また、あなたですかっ! これで、何度目でしたかねっ!!」
 医者が病室へ慌(あわ)ただしく入ってきて、不機嫌な顔で言った。
「… さあ…」
 医者は、なにやら綴(と)じられたファイルを開け、確認するように回数を数えた。
「…31! …32! …33度目です!」
「ああ、そんなになりますか…」
 男は感慨深そうに、しみじみと言った。
「ほんとに、困った人だ! 私も医者ですから、治療はしますよっ! そりゃ、しますよっ! だけど、また来る人は、さすがに嫌だ! いや、そういう意味じゃなくて…。なんて言うのか…」
「患者は診(み)るが、わざと来る人は嫌だと?」
「そう、それっ!! あんたが言ってどうするんです、困った人だ」
「私は、わざとじゃないんです。死ねないんですよ、先生」
「そりゃ、無理でしょうよ、あの場所なら…。落ちても、下にクッションがありますから。まあ、軽い打撲か掠(かす)り傷」
「そうなんですか?」
「私に訊(き)いてどうするんです! 困った人だ。分かるでしょうが、あなたにも…」
 医者はいつものことなのか、掠り傷の男の腕を粗末に手指で確認した。
「私、忙(いそが)しいんでねっ! それじゃ! あとはいつものように…。困った人だ!」
「どうも…」
 男にとっては、医者に会えることが唯一(ゆいいつ)、希望が叶(かな)う瞬間だった。
 医者は、ついてきた若い女看護師に無言で指示した。そして、男の腕を離すとUターンして部屋のドアを開けた。医者は内心で、ちっとも困っていなかった。この男がちょうどストレスを晴らすいい材料になっていたのだった。
「困った人だっ!!」
 医者はドアを閉じると、少し大きめの声で言い放った。

               THE END


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