大和物語より、平安前期の歌人に「素性(そせい)法師」がいます。
この人は小野小町の恋人と言われている僧正遍昭の子供です。
父は出家して花山という寺に住んでいました。
父に会いに寺を訪ねたところ、父から「法師の子は法師になるのがいい」と言われて、無理やり出家させられてしまいました。
しかし、京に好きな女がいたのです。
その傷心の彼は比叡山の僧坊で暮らしていました。
ある日、法事でやって来た彼女の兄の衣の襟にこっそり歌を書き付けたといいます。
のち、「古今集」の先駆者となって深い心情を美しく詠んだといいます。
『今すぐ行きましょう』と言うあなたの言葉を信じて待っていたのに、有明の9月の長い夜の月が出て来ました。
この歌は彼女との哀しい思い出の歌なのでしょう。
「傷心の時、美しい言葉が生まれる。」
いつの世までも感銘を与えるものです。