パウンド氏はカナダの元競泳代表選手。1978年からIOC委員を務めており、バッハ体制下では最古参委員だ。ファン・アントニオ・サマランチ会長時代には副会長を務めるなど、IOCの要職を歴任してきた。「現会長のバッハ氏にも直言することを厭わない重鎮委員」(IOC関係者)だという。
そのパウンド氏が「週刊文春」の取材に応じたのは、日本時間の5月23日(日)深夜。以下、本人との主なやり取りだ。
――日本の世論調査では今夏の開催に8割が否定的だ。
「昨年3月、延期は一度と日本が述べたのだから、延期の選択肢はテーブル上に存在しない。日本国民の多くが開催に否定的な意見であるのは、残念なこと。ゲームを開催しても追加のリスクはないという科学的な証拠があるのに、なぜ彼らはそれを無視して、科学的なことはどうでもいいと言うのか。ただ『嫌だ』と言っているだけではないのか。開催したらきっと成功を喜ぶことだろう」
――観客については、どう考えているか。
「安全を考えると、観客を入れるべきでない。保守的可能性だが。ただ、率直に言って、世界の99.5%はテレビや電子プラットフォームで楽しむのだから。会場に観客がいるかどうかは重要ではない。なぜなら、すべてのカメラはアスリートとパフォーマンスに焦点を当てており、観客には焦点を当てていないから。つまり、雰囲気を味わうために生の観客がいるのはいいことだが、必須ではない」
――開催にあたり、アスリートの健康面については問題ないか。
「個人的には心配していない。というのも、公的機関や公衆衛生当局がこれらの動向をフォローしてくれると信じている。また、日本に来る人は、母国を出る前に何度も検査を受けていることを忘れてはいけない。成田空港などに到着した際にも検査を受けることになる。健康であれば、バスに乗って“バブル”の中にある選手村に移動する。このような運営上の詳細については、主催者や日本政府、保健当局が非常に慎重に検討していると思う。彼らが心配していないのであれば、私も心配していない」
(写真はネットから)
「日本はなぜこんなにワクチン接種が遅いのか」
――しかし、日本ではワクチン接種が遅れている。
「日本は組織化された国なのに、なぜこんなにワクチンの接種が遅いのか。でも、心配する必要はない。ワクチンを接種していなくても、マスクや手洗い、ソーシャルディスタンスを取ることなどでリスクをほぼゼロにすることができる」
――選手などへの優先接種については?
それはそれぞれの国が決めること。最もリスクが高いのは 高齢者や救急隊員などだ。そうした緊急を要する人たちへの対応が済んだら、それ以外の人たちへの対策を立てる必要がある。オリンピックで日本を代表するアスリートや関係者の場合は、世界中の人々と接触することになる。だからこそ、(優先接種には)意味がある」
――五輪開催、中止の基準はどこにあるのか。
「重要なのは五輪を開催する上で、許容できないリスクがあるかどうか。しかし科学的にすべてはコントロールできる。選手らは日本に来る前に何度も検査を受け、空港に到着した際にも検査をする。健康と安全について心配はしていない」
――日本の首相が中止を決めた場合はどうするか。
「私が知っている限りでは、日本政府は非常に協力的だ。五輪の開催は、日本の当局、日本の公衆衛生当局、そしてオリンピック・ムーブメント(IOCなどの活動)が共有している決定だ。仮に菅首相が『中止』を求めたとしても、それはあくまで個人的な意見に過ぎない。大会は開催される」
国民の間で今夏の東京五輪開催に否定的な声も高まる中、IOCの重鎮と呼ばれるパウンド氏の発言に対し、日本政府がどのような対応を取るかが注目される。
5月26日(水)16時配信の「週刊文春 電子版」及び5月27日(木)発売の「週刊文春」では、来日時に天皇への謁見を要求しているバッハ氏の振る舞いをはじめ、巨額の収入や中国との深い関係など知られざるIOCの実態、各種競技のテスト大会で相次いで発覚した感染対策「バブル方式」の綻び、インド変異株の拡大に危機感を強める西浦博教授のインタビューなど、IOCや東京五輪を巡る問題について5頁にわたって詳報している。
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